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旧石器時代の岩絵の解説

今回は、旧石器時代の岩絵の話。

サムネを見て、ジブリ?先史時代にハヤオいた?と気になった人は、最後まで読んでみてほしい。


岩絵(ロック・アート)は先史時代の芸術の一つ。世界中で発見されている。洞窟壁画(ケーブ・ペインティング)は岩絵の一種。

読み進める前に。旧石器時代が、前期・中期・後期と分かれていることを確認してほしい。日本は前期・後期だが、今回は日本の話はしない。

ヨーロッパで岩絵が盛んになったのは、1万8千年前。氷期最盛期(1万2千年~1万9千年前)の終わりかけ。後期旧石器時代にあたる。


スペインのアルタミラ洞窟
洞窟の天井に描かれている絵なのだ。
ちょうど調査している人と同じ姿勢で、描いたはず。

その頃、現在のフランス南東部からスペイン北部には、草食動物が生息するのに理想的な環境があった。そのため、人間も多く暮らしていた。そういう地域では、岩絵が見つかる可能性がある。


岩絵の描かれた目的や意味については、長年、議論がなされてきた。そのいくつかを紹介する。

※説の名前は正式なものではない。解説のために私が考えただけ。

① 純粋な芸術説
岩絵には深い意味などなかったのではないか。

② 陣地を表す説
人間の異なるコミュニティーによるナワバリ争いがあり、テリトリーや境界線を表す標識として岩絵が描かれたのではないか。

岩絵があっても、人が頻繁に/大きく争ったような形跡が見つからない地域もある。それらしき外傷など。

③ 男と女の絵説
馬と牛が多く描かれている。馬は男性の、牛は女性のアイデンティティーを表しているのではないか。

人気のある仮説なのだが、相関関係を証明することはできていない。

④ プラシーボ効果説
絵を見ることで、イメージを高めたり覇気を得たりと、狩りの成功率を上げようとしたのではないか。

傷を負った状態の動物が描かれていることから、こう推測された。

オーストラリアのアボリジニやパプアニューギニアのキリウィナ族にとって、“まじない” は重要なものだった。不確実性の高い物事ほど、呪術儀式が行われた。当然だと思う。

たとえばカヌーづくり。“まじない” は、海を航行する大型カヌーにだけ行なわれた。湖や沼用の小型カヌーには行われなかった。

⑤ シャーマン説
後期旧石器時代の芸術家たちは、変性意識状態(アルタード・ステート)で描いていたのではないか。

薬物によらない半トランス状態。洞窟にこもると、そういう精神状態になると。微妙なところだが、わからなくもない。抽象的な絵やシンボルには幻覚みがあると。

どうだろうか。半トランスっぽいだろうか。

世界中の岩絵の意味だとするには、根拠が足りない。

⑥ 薄暗い洞窟説

内視現象:脳ではなく眼に原因がある錯覚。薄暗い/薄明かりの洞窟で描いていて、単に、視界がぼやけたのではないか。(⑤への反論系)


このように。洞窟壁画などの岩絵が発見されるたびに、全ての遺跡にあてはまる単一の意味などない、ということがわかっていった。

ほとんど全ての文化的発展が、複数の原因をもつ。後期旧石器時代の芸術も、単一の目的や意味であったわけではないのだろう。


世界遺産の「トゥウェイフルフォンテーン」(不確かな泉)。

サン族の芸術はアフリカ大陸の複数箇所で見ることができるが、ここでは2千個以上見れる。ペイントだけでなく岩を彫ったものもある。

サン人は、南部アフリカの砂漠で暮らしてきた狩猟採集民族だ。現在では、唯一の砂漠の狩猟採集民。

岩絵には、人間以外にも、キリン・ゾウ・アザラシ・ペンギンなどが描かれている。

ケープペンギンはアフリカ南部の沿岸にのみ生息。

最も有名なのは「ライオンマン」。人間がライオンに変身する様子。シャーマンなのかも。

ライオンマンは岩の真ん中の下。
※イメージ
キリン

どこに水場があるのか・どんな動物がいるのかなどを伝える、メッセージでもあった。


私がウルルを見学した時のこと。

アボリジニたちが、かつて、動物を狩るために身をひそめた場所。そこと同じ場所から、彼らと同じアングルで、水場跡を覗くなどした。◎のような印が描かれていた。

下図はアボリジニのシンボルの例。

座っている人または女性 → 人が地面に座っていたあとを考えるとわかりやすい。視点が上から見下ろすかたちなのだ。◎は波紋で水を表すということ。動物の足跡は言わずもがな。
ネットにある写真は盛られていない。早朝に見る実物はこのままだ。この巨大な岩の1合目を見学できる。

オーストラリアのキンバリー洞窟に描かれている「ワンジナ」。ワンジナはそんなに古い時代のアートではない。

この「宇宙人」……満場一致でこう呼ぶだろう……は、キンバリー地域の岩絵でのみ見られる。

ワンジナは、雨季のおとずれを願うために描かれていたそうだ。成長への願いにも関係するとか(恵の雨と成長はかけ離れたものではないと思う)。ワンジナを描いていいのは、どうやら、若い男性だけだったようだ。

胸元の楕円形は真珠の装飾品。

アボリジニの一部の部族の人たちにとって、大切な存在。話が楽しくなるようにと、「宇宙人」と茶化したこと。ごめん。


アルゼンチンの「クエバ・デ・ラス・マノス」(手の洞窟)。

雨風をしのぐなどの用途で、洞窟に滞在したことは判明しているが。大勢で手形を残した理由は何なのか。想像するしかない。

既存の仮説にある、テリトリーの主張か。現代と同じで、「寄せ書き」だったかもしれない。

集合写真のようなものという説はどうだろう。
寄せ書き説と集合写真説は私の空想だ。あしからず。
6本指の人がいたようだ。別にオカルト性もない。
そういう生まれ方をした人はいたんじゃないの。

対して、4本指の場合。こちらには注目したい。

フランスの「グロット・プレイストリック・ド・ガルガ」。231個の手形の内、114個の手形で、指が5本そろっていないのだ。半数だ。

指を切断する慣習でもあったのか。

(自らを捧げる)いけにえ的な行為として、指を切断していたという説が、最も有力。指を切断すると超自然的な力が得られるーーと信じられていたと。


フランスのショーヴェ洞窟。

現在知られるもので、最も古いと判断されている洞窟壁画。

洞窟の入口が岩石でふさがれていて、奇跡的な保存状態に。こんなに美しいものだったのだ。すごいよね。

現在のヨーロッパでは絶滅した野生の牛や、マンモスも描かれている。明確な年代は不明だが、ラスコーの洞窟壁画よりも古いはずだと。


有名なラスコー洞窟壁画

無数の観客の吐く二酸化炭素で、壁画が急速に劣化してしまった。今入れるのは、日に数名の研究者のみ。

レプリカの洞窟「ラスコー2」なら見学可能。「ラスコー3」も「ラスコー4」も建てられた。商売上手だ笑。いいと思う。

ラスコー4が近代的すぎて笑いそうになった。
フランスにある。
ジュラシック・パークみたい!