![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/173106076/rectangle_large_type_2_b44fdd0e62c40170733cff6673c68685.png?width=1200)
新たなる道、呪詛廃棄士として
宝珠の破壊により、闇商人の企みは頓挫した。現場に駆けつけた王国側の役人が彼らを拘束し、違法呪詛品はすべて廃棄されることになる。俺はくたくたになりながらも、やり遂げた充実感に包まれていた。
「よくぞやってくれた、日野 高太。キミがこの世界に来てくれて本当によかったよ」
シャーレンや護衛たちが労いの言葉をかけてくれる。隣国バスシオンの当局も今回の一件を重く受け止め、今後は呪詛品の取り締まりを強化すると明言した。
街の廃棄現場で働いていたただのゴミ収集作業員が、こんな大事件を解決する日が来るなんて……人生、何が起こるか分からないもんだ。
その後、俺は正式に「呪詛廃棄士」として認められ、再びネイヴァル王国へ戻ることに。王都へ帰還すると、廃棄管理局では既に新たな案件が山積みになっていた。
闇商人が根を張っていた隣国だけでなく、国内の各地にも負の魔力を帯びた厄介な品が散らばっており、それらを効率よく回収しなければならないのだ。
「これからは、国中を回って呪詛品を廃棄してもらうことになる。辺境の村や古代遺跡……さまざまな場所から報告が上がってきているぞ」
上司の所長から提示された地図には、危険度の高いエリアが赤い印でマークされていた。魔獣が多い地域や、長らく人が立ち入っていない遺跡、さらには王都近郊の研究所に至るまで、その数は膨大だ。
とくに、闇商人が漏らした “黒い研究所” の存在は依然として不穏な影を落としていた。今回の一件は解決したが、まだすべてが終わったわけではない。その事実が、俺の胸に小さな棘のように残り続ける。
「まあ、焦っても仕方がないさ。自分のできる範囲で、一つ一つ片付けるしかないだろ」
俺の肩に手を置いて励ましてくれたのは、赤毛の先輩だ。バスシオンの闇商人との戦いで負傷した腕も回復し、相変わらずテキパキとした動作で管理局の在庫をチェックしている。
彼女は既に次の “呪詛封印セット” を準備しており、慣れた手つきで魔力切断器の刃を研いでいた。
「しかし、あの闇商人が最後に言ってた “研究所” って本当にあるんですかね?」
先輩に何気なく尋ねると、彼女は少し言いづらそうに視線を落とす。
「わからない。でも、もしあるとしたら相当やばい。闇魔術の実験で生み出された呪詛品が、一気に街へ流れ込むことだってありうるから……きっと軍や王宮も、本腰を入れて捜査を進めるはず。アンタの力がまた必要になるかもね」
危険と隣り合わせの予感に、背筋が少し冷たくなる。だが、俺は前の世界で学んだ “廃棄物処理の鉄則” を思い出す。問題の存在を認識したなら、そこから逃げずに対処するしかない。それが人々の安全を守る道だ。
「そうだな、やるしかない。廃棄士としての腕は上がってきたし、負けるわけにはいかない。みんなを守りたいから……前の世界で集めた経験を総動員して、呪詛の浄化を続けるよ」
そう決意を固めると、先輩は「うん、いいこと言うじゃん」と笑みをこぼし、作業テーブルにあった “新着リスト” を指差した。
「じゃあ、次はこの “古代地下道” の回収任務が先だね。あちこちに放棄された魔道具があるっていうし、黒魔術師が潜んでいる噂もある。ちょっと危険だけど……」
彼女がそう言いかけたところで、廊下の向こうから急ぎ足でこちらへ向かってくる姿があった。シャーレンだ。いつになく慌ただしい様子で、額にうっすら汗を浮かべている。
「コウタ、ちょうどよかった。新しい指令が入った。さっそく現場へ向かってくれないか?」
聞けば、王都の外れにある古い魔術工房で “呪詛反応” が観測されたらしい。危険度はそれほど高くないとの報告だが、念には念を入れて廃棄士が調査することになったとのこと。
「わかった。先輩、行ってきますよ。戻ってきたら、古代地下道の件でまた作戦を練りましょう」
そう言って小走りに局を出ようとすると、シャーレンが苦笑しながら手を振った。
「本当に忙しい男だな……けど、頼りにしてるぞ。お前がいなきゃ、我々は回らないんだから」
冗談めかした口調だが、その目はまぎれもなく本気の色を宿していた。
転生してきたばかりの頃は、まさか自分がこんなに必要とされるとは思いもしなかった。けれど今では、俺の廃棄士としての働きが多くの人の命と街の安全を守る柱の一つになっているのだ。
呪詛品を廃棄するたびに感じるのは、前の世界で学んだ “分別” や “安全管理” の大切さが、この異世界でも通じているという実感。
廃棄されるはずのゴミが街をきれいにするように、この世界で危険に晒される呪詛品を取り除くことは、人々の笑顔を取り戻すことにつながる。
「街が綺麗になると、みんなが笑顔になる。ゴミだろうが呪詛だろうが、やることは同じさ」
廃棄管理局の入り口で、ふとそんな言葉がこぼれる。
先輩の言葉を思い出しながら、俺は改めて道具袋を背負い直し、馬車へ乗り込んだ。前の世界でゴミ収集車に同乗していた頃の “チームワーク” を思い出して、自然と笑みが浮かんだ。
これから先、どんなに恐ろしい呪詛が待ち受けていようと、決して挫けない。倒れそうになっても、俺には仲間がいるし、前の世界で培った経験がある。
道半ばで諦めたら、せっかく生まれ変われた意味がない。そう思うと不思議なほど力が湧いてくるのだ。
こうして俺の “異世界転生ライフ” は、普通とは少し違う形で幕を開けた。
以前と同じように廃棄物を扱うスキルを活かしながら、しかしまったく別の世界で、大勢の人々を支えるために駆け回る。
これから先、どんな強敵や凶悪な呪詛と対峙することになるか分からない。だが、前の職場で培った経験があれば大丈夫だろう。誇りをもって、危険物を安全に処理してみせる。
その先にあるのは、きっと誰もが気持ちよく暮らせる世界。そう信じて、俺は今日も魔力切断器を手に、次なる呪詛のごみ捨て場へと向かうのだった。