【精油実験】防虫効果で名高いエッセンシャルオイルを用いてアリ駆除効果を検証する。
数々の記事執筆をサボっているエフゲニーマエダですどうも。
さて本日さらに執筆をサボる予定が増えてしまいました。
わりと山林に近いエリアでの田舎暮らしをしていると、人によっては都会暮らしではあまり縁がないムネアカオオアリ(Camponotus obscuripes)と格闘する機会がやってきます。
ウチでは最近やたら軒先にムネアカが散見されるようになったので、身近で手に入るニオイヒバ精油やらトドマツ精油やらを活用して良い香りのする塗布防虫スプレーなんかを作らないとな〜と考えていた
矢先の出来事でした。
家屋の最も陽の当たらない壁面内部に気付かぬうちに巣作られていたのを発見してしまいました。
(ググってみると土中巣穴ではなく湿った不朽木に巣を作るそう)
営巣地の特定に関して、生憎にも女王アリの交尾飛行に出撃するまさにそのタイミングと鉢合わせてしまいました。いやぁ〜羽付けたデカい女王が壁穴からうじゃうじゃ湧いてきたもんだからさすがにビビった。
アリはスズメバチの近縁生物なのでとりあえずスズメバチ殺虫剤を穴めがけてスプレーしまくって、どうにか寸手のところでコロニー拡散を防ぐことができたみたい。
ですが壁穴に殺蜂スプレーを吹き込んだだけじゃ大きく発展した巣の壊滅には至っていないようでした。
いつまでもそれなりに値の張る殺蜂スプレーを吹き込み続けるワケにはいかないので、そこで割とすぐに入手することのできる地場産の針葉樹精油でムネアカオオアリに対する殺蟻効果を確かめる試験を緊急で実施しました!
■Methods
1.テストする天然精油
自家製防アリ防虫スプレーの製作を想定しているため、すべて身の回りで簡単に入手できる天然精油を使用します。
①トドマツ冬葉精油(Abies sachaliensis -Winter leaf EO)
北海道では比較的安易に入手できる特産針葉樹精油トドマツの冬葉から得た天然精油です。
部位「冬葉」から抽出した精油は、リモネン含有値が夏期に比べて低く、低濃度のカンフェンと酢酸ボルニルおよびβフェランドレンが主体となっているとされています。
②ニオイヒバ冬葉精油(Thuja occidentalis -Winter leaf EO)
北海道において多く植栽されている北米産庭園樹であり、剪定の機会が多いことからトドマツと同じく入手しやすい特産素材です。
夏季・冬季それぞれでの精油成分の変動などは判明していませんが、コモンセージ(Salvia offichinalis)やニガヨモギ(Artemisia absinthium)と共通成分で、かつて人体への毒性が強いと噂されていたβツヨンを場合により60%近くも含有する、高濃度のβツヨンが得られる天然精油です。
ヒノキ科樹木としては珍しく心地よい甘さとウッディーさとハーバルさの芳香で構成されており、日用品香料の活用も期待が大きい精油です。
③ローズマリーシネオール(Salvia rosmarinus -1,8cineole Chemotype)
こちらは1,8シネオールの効果を検証するために用意した市販品のエッセンシャルオイルです。ローズマリーのシネオールケモタイプを使用しました。
一般公開されているデータを参照すると、1,8シネオールは約40%ほど含有されているようです。
④ヒノキチオール(Thuja plicata -Wood EO)
健康に寄与する効果の期待が大きく、高い抗菌効果が評価されているヒノキチオールを多く含んだウエスタンレッドシダーの天然精油です。
生木や葉素材ではなく、市販されているウエスタンレッドシダー(T. plicata)の木材から水蒸気蒸留で抽出したエッセンシャルオイルを使用します。
2.効果測定装置と試験方法
内容量230mLほどの小ビンを試験容器として使用します。
小ビンに健全なムネアカオオアリを5匹入れ、それぞれの精油を1滴のみ滴下します。
即座にフタを閉め、アリへの明らかな効果開始のタイミングなど、状況変化を観察します。
アリが力尽きるか、2,3時間以上壁を登るほど健気な状態であるかで効果を判別し、試験終了とします。
■アリ封じ込め容器へ精油滴下による効果測定
捕獲にやや手間取りましたがそれぞれの試験小ビンに5匹のムネアカオオアリを閉じ込めました。
試験小ビンには間違いが起こらぬようそれぞれテストする精油名を表記しました。
精油を滴下せずに1時間ほど様子をみて、アリたちが本当に健康であるかを確認します。
殺蜂スプレーの成分に曝露された個体だったのか、しばらくの経過でそれぞれの試験容器で3:5:3:3と数を減らしてしまいましたがステップを次に進めます。
それぞれの容器に、個別の小ピペットで原則1滴ずつ精油を滴下していきます。
日本アロマ環境協会(AEAJ)によると精油1滴の液量はおよそ0.05mLと規定されているようです。
■Result
①トドマツ冬葉精油
滴下封入から1分ほどすると、全個体が容器上部へ登ったきり降りようとする様子がなかったので明らかにトドマツ精油に対して嫌がる様子をみせていました。
それが5分ほど続くと、徐々に精油効果が効いてきたのか容器底へ落下しはじめる様子が観察されました。
ローズマリーシネオールやニオイヒバのように即効性は確認できませんでしたが、じっくり徐々に弱らせているようで、1時間後にはすべてひっくり返っている状態でした。
しかし容器を揺すると足や触覚に動きがあったので、かろうじて意識はあるようでした。
②ニオイヒバ冬葉精油
ローズマリーシネオールほど素早い効果ではありませんが、同程度の即効性が確認できた精油でした。
滴下封入から1,2分ほどで慌てふためいたアリが行動不能に陥り、容器壁面を登れなくなる、ひっくり返る、酩酊様を見せはじめました。
しかしローズマリーシネオールと比べ、力尽きるまでの時間が比較的長かったのがニオイヒバ冬葉精油でした。
③ローズマリーシネオール
各試験項目の中でも明らかな即効性が認められる精油はこの1,8シネオールを多く含んだローズマリーシネオール精油でした。
滴下してフタを閉めてから1分と経たない短時間で、はじめ穏やかな動きだったアリが明らかに一斉に慌てふためき、2,3分もすると容器壁面も登れぬほどの痙攣様を見せはじめました。
5分もするとひっくり返って行動不能に陥る個体がほとんどで、10分以上経つと動きがなくほとんどの個体が力尽きたようでした。
④ヒノキチオール
ニオイヒバやローズマリーシネオール精油のように即効性を期待していたのですが、意外にも効果が及ぶ様子が鈍かったのがこのレッドシダー木材から抽出されたThuja plicata精油でした。
トドマツ精油のようにすぐさま嫌がる様子も見られず、拒否反応は大きくなかったものの、滴下封入から1時間後にはすべての個体が力尽きたようでした。
精油の滴下封入から1時間ほど経ったところですべての試験小ビンのムネアカオオアリが力尽きた様子だったのでそこで一旦の試験終了としました。
■追加検証
また、別の特徴的成分を持つ精油および効果残留性を検証するために追加試験を行いました。
①使用後の残気ニオイヒバ精油
前途の試験で使用した小ビンをそのまま活用します。
一度フタを開けて外気に離散させたのち、”ある程度薄まった状態”を作ってその状態をテストします。
樹木から得た精油なので残留性・残香性が期待されます。
②使用後の残気ローズマリーシネオール精油
上記と同様の方法でテストします。
外気と希釈された場合に1,8シネオールの高い殺蟻効果は維持されているのか?を検証します。
③廉価ゼラニウム精油(Pelargonium graveolens)
ゼラニウム精油に含まれるシトラール(シトロネラール)の効果を検証します。
シトラールは強いレモン様の芳香であり、蚊や防虫忌避成分としても名高い成分です。
一般公開されているデータを参照すると、シトラールは約30%ほど含有されているようです。
④廉価ホワイトセージ精油(Salvia apiana)
1,8シネオールと樟脳をともにそれなりの量含有するホワイトセージ精油の効果を検証します。
ローズマリー精油よりもさらに強く鼻を刺すような芳香が特徴的です。
■Result.Add test
βツヨンを豊富に含むニオイヒバ精油の追加試験では、最初の滴下直後のような即効性は見られませんでしたが、時間をおくと確実な殺蟻効果を保ったままであることがわかりました。
殺蟻効果を持つ成分は残香しているようでした。
ローズマリーシネオールの追加試験には働きアリのほかに別途出現した大柄な女王蟻も封入しましたが、上記同様に即効性は認められなかったものの、30~1時間ほどで行動不能に陥らせるほど曝気による殺蟻効果が確かめられました。
殺蟻効果を持つ成分は残香しているようでした。
シネオールとカンファーを同程度含むホワイトセージ(Salvia apiana)精油の滴下試験では、即効性は見られなかったものの10分レベルでの時間経過による確実な弱体化効果が観察できました。1時間後には力尽きたようです。
蚊殺効果で有名なシトラールを含むゼラニウム精油では、ローズマリーシネオールやニオイヒバのように高い即効性は見られなかったものの、15分ほどで弱化し、1時間で全固体が力尽きたようです。
■Discussion
封入空間内でのムネアカオオアリ(Camponotus obscuripes)働きアリに対して、高い即効性が確かめられたのはニオイヒバ精油、続いてローズマリーシネオール精油であった。
特にローズマリーシネオール精油の効果は極めて高いように見られ、曝気後アリを行動不能に陥らせるまでの時間が特に早かった。それが純粋な1,8シネオールによる効果なのかそれ以外の芳香成分も関与する効果なのかを追加検証し精査する必要性が出た。
他の試験精油は即効性は確認できなかったものの、1時間も曝気させておくとほぼ確実な殺蟻効果が確かめられた。(n=5)
精油の滴下直後の封入において最も行動不能に陥らせる効果が高かったのは、揮発性が高いモノテルペンがよく効いていると思われるような結果となった。
今回のムネアカオオアリに対する精油成分の曝気試験では、ニオイヒバ精油の有効性が示され、人間に対しては適度な空間希釈濃度によっては心地よさを与える香りを持つので、ニオイヒバ精油を用いた防虫剤開発に期待が大きくなった。