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【暇つぶし】リナロールについて軽く論じてみる。
どもども、2025年ですね。
昨年のおぞましい年初めとは対照的に、ただ雪の多さだけが気になる穏やかな年初めになってます。
そんなおいらはリナロールの塊系精油のブレンドで遊んでて、寝る前にリナロールを吸入しまくったためかいつもより深い眠りになってしまい、かれこれ12時間くらい睡眠してた本日でっす。
肉体疲れてないのにリナロールしっかりキメると睡眠時間が伸びるのはすごい効果ですよね。
さてさて昨日、リナロールを多量に含む、あるいはほぼリナロールで構成される精油の香りをひたすら嗅いで味わってたおいらです。
Linaloolの植物学的・化学的概要。
リナロールはラベンダー精油をはじめとした、多くの植物精油(特に花抽出系精油)に含まれる芳香成分ですね。
多くの植物が作れるテルペノイド:芳香成分なので、21世紀の転換間際には工場での化学合成手法も発明されて大量に生産できるようにもなり、関係精油の買取価格が一気に下がった歴史があります。
(ラベンダー精油生産者もこの波に揉まれた)
リナロール単体の香りを確かめようと試みたことがあるんですが、あらゆる精油のように個性的で強い香りはなく、穏やかで心地良くまろやかな香りがするのが特徴の芳香成分?です。
リナロール単体ではさほど強い香りを持っておらず、酢酸リナリルやリモネン、シネオールなど他の芳香成分とブレンドされることによってリラックス系の香りが組み上げられます。
Linalool=スズラン様の香り〜と例えられることの多いLinaloolですが、おいらは肝心のスズランの香りがわからないので比べようがないところです。。。
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リナロールの割合が8~90%となっていても、もちろん生産植物が違えば、おおまかな香りは似ていても絶妙に風味が異なっているのが植物精油のおもしろいところです。
効能は似ていても、各個人がどの風味の精油を好むのか?というのはアロマ屋さんにとっての大きな関心事でしょうね。
ローズウッド精油
ローズウッドは、木材業界においては多数の植物種に対して付けられている俗称となっており、紛らわしいですが本稿ではブラジル原産のクスノキ科Aniba rosodora(精油表記はAniba rosaeodora)として解説します。
古い時代:1900年代前半は国際的なリナロールの供給原料として、南米のブラジル近辺に生育するAniba rosodoraの木材から精油・香料を採油していたようです。
しかし木材も美しいことから採油と用材採り双方の需要が高まって乱獲が進み、現在ではワシントン条約で伐採が縛られるまでに至っています。
そのため、木材需要はAniba rosodoraから各国のマメ科ツルサイカチ属の各樹種へ分散。
ローズウッド精油については、伐採を避ける形でアジア産芳樟(下記クスノキctリナロールのこと)への代替か、Aniba rosodoraの葉っぱからリーフ精油という形で香料採取が続けられているそうです。
なのでウチにあるローズウッド精油も厳密に名前を正すとしたら、"ローズウッドリーフ精油"ですね。
葉っぱ抽出のリナロール主体精油なのですが、特有のウッディさや花のような風味が感じられるので個性的かつおもしろい精油だと思ってます。
後述するクスノキctリナロール精油(芳樟精油)は、ごくわずかに爽やかさを感じる香調となっています(個人感想)
リナロエベリー精油
リナロエベリー(Bursera linanoe)は、メキシコ原産のカンラン科ブルセラ属の新世界樹木(新世界=北・南米大陸原産のこと)で、木材および果実からリナロールを主体とした芳香精油が生産できるため、インドに移入されてプランテーション栽培されています。
(この点やや紛らわしく、インド原産の植物ではないのです。)
そのため、ほとんどのリナロエベリー精油は現在インド産。
用途はもちろん石鹸の香り付け原料として。現地では「インディアラベンダー」という俗称もつけられてるそうな。
アロマ業界での表示学名となっているBursera delpechianaは1883年に提唱されたシノニムで、現行(研究分野)ではBursera linanoeとなっているようです。
香りはなんといっても、ラベンダー生花のときの香り!!
ラベンダー花を通常蒸留して精油にしてしまうと損なわれてしまうフレッシュな香調をこのリナロエベリー精油は持っているのです。
上記の記事を参照すると、Bursera linanoeは木材と果実両方から精油を採ることができますが、果実から抽出した精油の方が香りの長期保存性が高いそうなのでこちらから採油されているようです。
クスノキctリナロール精油
リナロールの塊ともいえるホーウッド精油(木材抽出)およびホーリーフ精油(葉っぱ抽出)をつくりだすクスノキ科クスノキ。
アロマ業界視点でクスノキ(Camphora officinarum var. officinarum)という植物/樹木をみると、実におもしろい生態をしているのです。
クスノキという同一種の樹木は遺伝形質の表現型により、1.樟脳型 2.リナロール型 3.シネオール型 4.シトラール型というエフゲニーマエダが知っているだけでも4種の芳香表現型を生み出すのです。
※アロマ業界では、精油の表示学名をシノニムのCinnamomum camphora(提唱1825年)としていますが、先端科学の分野ではCamphora officinarum var. officinarumを採用しているようです。
Genus Camphora→クスノキ属
Genus Cinnamomum→シナモン属
マダガスカル島に移入されたクスノキ(Camphora officinarum ssp.)がテロワールによってシネオールct精油を産出するようになった例:ラヴィンツァラは知っているのですが、クスノキ学名を論文検索サイトに投げ込んでみると、中国の研究チームが昨年シトラールケモタイプの遺伝子解析研究を多数あげているのをみっけておもろくなった昨今なんですよw
どうやらクスノキのごく稀少な化学種を、合成原料物質のゲラニオールやシトラール供給源として重視してるみたいなのです。
Title: Camphora officinarum Nees ex Wall のシトラール化学型の葉の発達中における精油組成の変動と油細胞の変化。
Title: Camphora officinarum由来の推定ゲラニオール合成酵素の同定と機能解析。
シトラールを含む精油の市場需要が高まっています。私たちの研究グループは、中国のCamphora officinarumの原産分布域全体にわたる1000本以上の野生木を調査することにより、葉にシトラールを多く含む希少な化学型を特定しました。C. officinarumは大規模栽培に適しているため、天然シトラールの有望な供給源と見られています。しかし、C. officinarumにおけるシトラール生合成の分子メカニズムは十分に解明されていません。本研究では、シトラール含有量の異なるC. officinarumのトランスクリプトーム解析により、推定ゲラニオール合成酵素遺伝子(CoGES)の発現とシトラール含有量の間に強い正の相関関係があることが明らかになりました。CoGES cDNAがクローニングされ、CoGESタンパク質は他のモノテルペン合成酵素と高い類似性を共有しました。ゲラニル二リン酸 (GPP) を基質とする CoGES の酵素アッセイでは、シトラールの前駆体であるゲラニオールが単一生成物として生成されました。ニコチアナ ベンサミアナで CoGES をさらに一過性発現させたところ、ゲラニアールの相対含有量が増加し、新しい物質であるネラールが出現しました。これらの知見は、CoGES がゲラニオール合成酵素をコードする遺伝子であり、コードされているタンパク質が GPP からゲラニオールへの変換を触媒し、これが生体内で未知のメカニズムによってさらにゲラニアールとネラールに変換されることを示しています。これらの知見は、クスノキ科植物におけるシトラール生合成に関する理解を深めます。
Title: クスノキミトコンドリアゲノムの複雑な進化的特徴を解明。
Title: クスノキ精油抽出装置の設計。
わぉ、すごい。
クスノキに対象を絞った精油の抽出装置も本格的に作り始めてるようです。
2024年の中国のクスノキ精油研究界隈、なんかすごい。
リナロールケモタイプ①(リナロールct種の葉っぱから得た精油)
ホーウッドに比べてふんわりと爽やかで軽めな香り。非常にオススメ。
リナロールケモタイプ②(クスノキにおけるマイノリティ表現型)
カンファーケモタイプ(本来のクスノキのマジョリティ)
シネオールケモタイプ(マダガスカル島のケモタイプ)
エナンチオマーという切り込んだ難しい分野
さてさて、ガッツリ生物分子化学の世界のお話になります。
僕も数冊の書籍から汲み上げた知識で語ってるのでまだまだニワカ知識です。
ご了承よろしゅう。。。
香りの生産者サイドに立つと、時々論文なんかを読んでいて"エナンチオマー"というよくわからん単語を目にしていたのですが、黒柳正典さん著の『植物 - 奇跡の化学工場』という書籍で、わりとどんなものかの概要を掴みました。
よく芳香分子について調べてると…例えばリナロールだと、L-LinaloolやD-Linaloolという表記を目にします。
これ、鏡像異性体といってそれぞれ分子構造の見た目が鏡写しのように右枝左枝でわかれてるもののことをいうそうです。
本稿でテーマにしているリナロールにおいてこの異性鏡像体それぞれが、実は身近に手に取れることがわかりました。なんと、、、
によれば、ボア・ド・ローズ油(約90%)やリナロエ油(約70%)がD-Linalool/D体リナロールとなっており、芳樟葉油(約90%)はL-Linalool/L体リナロールとなっていると記述されています。
しっかりウチの精油ストックに鏡像異性体が存在していますね!!
ローズウッド精油とリナロエベリー精油はD体リナロールとなっておりホーリーフ精油(怪しいがホーウッドも?)はL体リナロールで構成されているそうです。
はっきり言うと、それぞれ明確な香りの違いはわかりません。
おそらくおいらの嗅覚細胞がリナロールのD/L区別能がないのか、そもそもリナロールのエナンチオマーは香りに差がないものなのか。。。
ちなみに、両者精油をブレンドしたもの(或いは区別して生産ができない化学合成リナロール)はdl-リナロールと表記されるようです。
異性鏡像体と香り
書籍によると、エナンチオマー/鏡像異性体はぱっと見では単に鏡写しや右手左手のような関係構造となっているんですが、、、
その分子の「鍵と鍵穴」となる関係の受容体タンパク質(我々の嗅覚細胞や植物細胞内のテルペノイド代謝酵素)はかーーーなり厳しくその左右・鏡像構造を見分けて判断しているそうです。ミクロな世界の営みなのにすっごいですよね。
なので、鏡像異性構造をもった分子は生体内での機能がハッキリ変わってくるようです。そのためヒトへの直接塗布や摂取がある化粧品・医療品業界ではこの区別を明確にしているのだそう。そりゃそうか。
そんなこともあって、わかりやすく嗅覚や味覚でその違いが体験できるのだそう。
嗅覚→嗅覚細胞のタンパク質が香り物質をキャッチし電気信号を発信
味覚→味覚細胞のタンパク質が味覚物質をキャッチし電気信号を発信
例えば身近なスペアミント(M. spcata)の精油中に存在するR体カルボンはまさしくスペアミント様の香りを持ちますが、S体カルボンは打って変わってキャラウェイ様の香りとして感じられるそうなのです。
芳香分子に限らず、「味の素」に含まれるグルタミン酸についてだと、L体グルタミン酸はまさしく旨味を感じますが、D体グルタミン酸だとこれが苦味として置き換わって感じられるそうなのです。
味の素の粉舐めても苦味なんてまったく感じないですもんね?
もしかするとレースラベンダー(Lavandula multifida)の仲間の香り成分であるチモールとカルバクロールの違いもこれによるのかもしれません。
(上記:チモールとカルバクロール香りの違いについて言及している記事)
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