ボキャブラリーを増やす#2
ショートショートSF 「翳す」
彼が手を差し出すと、透明な壁越しの男も手を差し出した。徐々に近づく二つの手のひらは、壁を挟んで翳したところで止まった。
「いつもこうだ。」二人の声が被る。
「まただ。」また被った。二人は呆れ顔をし、それぞれの寝床に戻った。この部屋には灯りが無い。光が入ってくるのは、透明な壁の反対側の壁にある、一つの窓からだけ。そのせいで室内にも関わらず昼明るくなり、夜暗くなる。見飽きたお互いの顔が見えなくなる夜は、落ち着く時間だ。こんな意味も分からない白い箱