詩「 パラレルワールド 」
その表情はよくわからない
絶妙な寸法の隙間
静かなる動き
ほんの一瞬で見逃す
二度目があるとはとても思い難い
一度目を悔しがる
姿形がいつも違う
同じ夢は繰り返さない
次はきっと違う化け物だ
秒針が刻んだものは
コップからこぼれ落ちた水だ
味なんてものがまったくない
ただ記憶に残る
もう記録できない
言葉にすれば つかみどころがない
誰にも捕まえられない
なのになぜか生き物のように
確かにその息吹を感じる
何の話をしているのかわからない
誰に会うべきかもわからない
どこに進めばいいのか右往左往
同じところをぐるぐる回っているように見えて
頂点に足を踏み入れかかっているようでもあった
争点だ 譲りあうことができない
ちぎれて実体がなくなってしまうまで
奪い合って
何を奪い合っていたのかさえ わからなくなってしまう
何のために生きているのかさえ わからなくなってしまう
そもそも生きていたのかどうかすらあやしいものだ
今確かに炎の色が変わった
明日には消えてなくなっている
今確かに音の高さが ちがった
昨日までは もっと もやもやしていた
今日も明日も明後日も全部違う
最初と最後でかみ合わない部分だらけ
つぎはぎのシャウトの次の次あたり
黙っていてはわからないと
揺さぶられても
しらを切ることに意味があるのか
無意味な地平線に向かってひたすら歩く
振り返っているのに足だけが前に進む
本能だ
最後にはそれしかない
煩悩だ
最初からそれだけはある
百週くらいグルグルまわって
笑いごとが悲しいことになっても
手触りが同じだ
迷いから解放された
あやふやな煙を吐き出して
鮮やかな決意を抱いて
眼光だけで闇を切り裂く
ポーズだけなら今すぐやめたほうがいい
喉元を通り過ぎないのならまだ考えたほうがいい
明日がないというのなら
今日ですべてを決めたらいい
この山が一番確実だなんて誰もわかっていない
たとえそれが正義だったとしても
それ以外が悪だなんて言いきれない
誰も見ない
誰も見ていない
そこだけに隠されている何かを暴き出す
そのことに価値がある
何もなかったとしても
そこに面白みがある
眠りにつけない
眠りにつかない
そこに壊れた秒針がある
それを修理してまたネジを巻き直すだけ
それをまた繰り返すだけ
強烈な一発がお見舞いされる
一瞬先は土砂降りだ