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2020年度休眠預金活用の実行団体「東の食の会」。コレクティブインパクトで福島浜通りの食のブランド化を目指す


SIIFは2019年度に続き、2020年度も休眠預金等活用制度の資金分配団体に採択されました。「コレクティブインパクトによる地域課題解決」を活動のテーマに掲げ、4つの団体を支援します。今回はその1つ、東の食の会から専務理事高橋大就さんをお迎えし、休眠預金を活用する意義や、目指す社会的インパクトについて伺います。

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左)東の食の会専務理事 高橋大就氏(以下敬称略)
右)SIIF専務理事 青柳光昌
場所:東日本大震災・原子力災害伝承館 (福島県双葉郡) から見える海


東日本大震災から10年。次の課題は福島12市町村と水産業

青柳 東の食の会は、東日本大震災の発災直後から、東北の食の復興に取り組んでこられました。私自身もその活動や実績を見てきて、全幅の信頼を置いています。そのうえで、今回、休眠預金活用の実行団体に応募してくださった動機を教えていただけますか。

高橋 発災から10年というタイミングが大きいですね。私たちが東北に入って最初の5年で、三陸では素晴らしい生産者ネットワークが構築され、例えば「Ça va(サヴァ)缶」というヒット商品も生まれました。しかし、その5年の間、原発事故の影響を被った福島には、住民が帰ることさえできない地域があった。それからさらに5年経った今も、沿岸の国道6号線を走るたびに、立ち入り禁止のバリケードを目にします。そのうえ、ここへ来て、原発事故処理水の海洋放出という新たな問題まで出てきた。そこで、次に取り組むのは、避難指示対象となった福島の12市町村と、浜通りの水産業です。テーマとして「福島県浜通り地域の食のブランド化」を掲げました。私たちは、どうしてもこのミッションを成功させたい。そのために、休眠預金を活用させていただきたい、と手を挙げたわけです。

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2021年3月までに累計製造1000万缶のメガヒット「Cava缶」

青柳 休眠預金という資金だからこそできることはありますか?

高橋 食のブランド化は、単年度で達成できるようなことではありません。休眠預金は、3年というスパンで、なおかつフレキシビリティを持って事業計画が立てられるし、実行できる。企業からいただく寄付も、もちろんありがたいけれど、特定の関係者がいない休眠預金は、本当にピュアに、目的だけに集中できる資金だと思っています。

被災地ではなく「ワクワク地域」、被災者ではなく「ヒーロー」だ

高橋 “未曾有”と形容されるほどの大災害から、これまでに新たな産業や価値が生まれました。ダメージが大きかったぶん、大きなレジリエンス(自発的治癒能力)が働いたんだと思います。それが、三陸ではいち早く起きたけれど、福島浜通りにはタイムラグがある。津波と原発事故では災害の性質も異なります。けれども、これまでの10年間で東の食の会のビジョンは明確になり、自信もつきました。10年前、企業はいっせいに福島の農産品から手を引いたけれど、今はふつうに取り引きが行われています。それと同じことが、水産業でできないわけがない。

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青柳 これは高橋さんが語っていたことですが、「安全・安心」のうち、「安全」は科学的なエビデンスによって獲得できるけれど、「安心」は人と人との信頼関係がなければ成立しない。東の食の会は、生産者を「ヒーロー」として紹介し、その人たちがつくったものだからこそ食べたい、求められる、という状況をつくっていこうとしているんですよね。

高橋 例えば、放射能汚染の心配がない産品だと証明したところで、マイナスをゼロに戻しただけで、選ばれる理由にはなりません。それよりも、プラスをどれだけ大きくするかというアプローチのほうが有効です。これから狙うのは、ひとびとが「福島浜通り」「福島の水産物」という言葉から何を想起するか、ということです。かっこいい人たちが活躍している、すごく美味いものがある、というイメージをつくっていきたい。そのためには、一つの事業者や一つの産品ではダメで、まさに「コレクティブ」でなければならないんです。

青柳 復興支援のために福島の産品を買ってくれる消費者はいるだろうし、それはありがたいことだけれど、これから10年先、20年先を考えれば、おいしいから買う、かっこいいから欲しい、という動機付けを目指すべきですね。

高橋 私たちも、支援なんて気持ちはさらさらなくて、とにかく最高に素敵な人たちだから一緒に走っているだけなんですよ。彼らは災害の犠牲者ではなくて、災害に打ち克って みんなに美味しい食を提供してくれるヒーローです。被災地ではなく、ワクワク地域と呼んでいます。

地域や立場を超えて同じ目標を目指すことで、新しい価値をつくりたい

青柳 具体的に、今後どんなことに取り組みたいとお考えですか?

高橋 今までもやってきたことではありますが、既成の枠や領域、境界線を取り払っていきたい。発災からある程度年月が経って、福島浜通りでも自治体同士が連携しようという動きが生まれてきました。さらに、行政と民間、パブリックとプライベートの垣根も壊していきたい。また、バリューチェーンの課題もあります。これまで食のバリューチェーンには、生産者・仲卸・加工・流通の間に利害相反があって、薄い利益を取り合うような構造があった。これを壊して、みんなで一緒に取り組むことで、新しい価値をつくっていきたい。

青柳 まさにコレクティブインパクトですね。東の食の会のプロジェクトは目標が明確だから、縦・横・斜め、官も民も関係なく、同じ方向を向けるのではないでしょうか。

高橋 福島浜通りでは「生産者コミュニティ」「ヒット商品」「販路」「ファン・コミュニティ」「食文化輸出」という5つの領域に取り組みます。このうち生産者コミュニティには、農業者も漁業者も一緒に参加します。これは、今までにはなかったことなんです。でも、寿司って米の上に魚が載っているわけですからね。先行する三陸の漁師も会津の農家も、浜通りの水産業にかかわりたいと言ってくれています。それは本当にすごいことで、だって本来、すでにブランドを確立した地域が、わざわざ風評の残る地域と一緒になっても得することはないわけだから。それなのに、みんながこぞってワクワクして、新しい何かに向かおうとしている。楽しみでしかたありません。

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福島 Farmer & Fisherman's Camp in 福島浪江町には約40名が参加

青柳 東北には、強いレジリエンスのパワーを感じますね。同じ目標に向かって、境界を破壊して突き進むエネルギーがある。これまでの10年を見てきた者として、体感値として分かります。福島がこの厳しい状況を乗り越えられれば、他の地域の生産者にとっても大きな励みになるでしょうし、ロールモデルになりえます。それが今回、東の食の会を採択させていただいた理由でもあります。

高橋 単に食関連産業の振興だけではなく、その先に、きっと新しい社会があると思っています。ひとびとが自分の頭で考えて科学的・合理的に判断し、風評などに惑わされない、本来の意味でレジリエントな、自律的な社会が立ち現れてくるのでないでしょうか。

東の食の会 HP

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