連載「休眠預金活用レポート」VOL.6 お金を出すだけでは終わらない。起業家もキャピタリストも成長するインパクトファンドを
SIIFは2019年度、2020年度に続き3年連続して休眠預金等活用制度の資金分配団体に採択されました。2021年度は「地域インパクトファンド設立・運営支援事業」を通じて、地域社会・経済の活性化を⽀える⾦融エコシステムの進化を⽬指します。具体的には、投資型ファンドの運営経験を持つ事業者と地域の⾦融機関が協⼒して、地域課題解決のための地域インパクトファンドを設⽴・運営し、ソーシャルビジネスやローカルビジネスへの資⾦循環を加速化させることが狙いです。
今回採択された「株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ」(東京都千代田区、以下CMV)は、南都銀行の投資専門子会社「南都キャピタルパートナーズ株式会社」(奈良県奈良市、以下NCP)と共同で「やまと社会インパクト投資事業有限責任組合」(以下、やまと社会インパクトファンド)を設立し、奈良県を中心とした“やまと地域”における地域課題解決型の社会インパクトファンドの運営を行います。CMVの代表取締役である青木武士さん、NCPの代表取締役社長の堺敦行さんをお迎えし、SIIFの青柳光昌専務理事、インパクトオフィサーの小笠原由佳が、やまと社会インパクトファンドに寄せる期待を語り合いました。
休眠預金を一度市場に戻し、地域の活性化のために活用する
小笠原 今日はお時間をいただきましてありがとうございます。まずは青木さん、なぜSIIFの休眠預金事業に応募されたのでしょうか。その辺からお話いただけますか。
青木 私たちは起業家の伴走支援を行っていく中でインパクト投資という手法と出会ったわけですが、これから投資を行っていく時には、地域社会の課題解決ということが大きな柱となっていくというような話を堺さんとしていましたので、今回の休眠預金事業のコンセプトはわれわれが目指す内容とピッタリでした。それで堺さんとも相談して応募しました。
青柳 青木さんは奈良のご出身ですが、奈良への思いが、やまと社会インパクトファンドのプロジェクトにつながったのでしょうか。
青木 特別に何かということはなかったのですが、共通の知人を通して堺さんと知り合ったことが大きいですね。堺さんや南都銀行の方たちとお付き合いしていく中で、生まれ育った奈良に貢献していくという気持ちが自然と出てきたという感じです。
堺 ちなみに青木さんの高校の後輩がうちの会社にいまして、1人は野球部の直属の後輩です。そんなご縁もあって、せっかく奈良県のためのインパクトファンドを作るのなら、IMMの知見を持っていることはもちろん、奈良と関係のある人がいいなと思っていまして青木さんのCMVと組むことになりました。僕は東京生まれの東京育ちなので、地域の人にとっては、同じ言葉を話せる人ということも結構重要ではないかと思っています。
青木 例えば僕が小さい頃から、「奈良は観光都市なのに宿泊施設が少ない」「観光客がお金を落とさない」といったことを言われてきました。それが今もまったく変わっていないんですね。そうした問題を解ける機会を与えてもらえたことは、すごく誇らしいことであるなと感じています。
小笠原 南都銀行がインパクト投資への参入、休眠預金事業を活用することには、どんな流れがあったのでしょうか。
堺 地域と地方銀行は表裏の関係です。地域経済や地域の活力を活性化していくために、ベンチャー企業向けのファンドを立ち上げるなどの取り組みは行ってきましたが、お金を貸す人、事業をする人という立ち位置から脱却できない。お金を貸して待つのではなく、自らアクションをしていくことで地域の活力を高めていくことが必要だとなった時に、これはインパクト投資の世界観だなと思ったんです。休眠預金は、もともとは地域の人たちから集めたお金です。それをもう一度地域に戻して活力を高めることに使う。そんな思いがありました。
ファンドの活用を通して、地域の課題を解決できる人材を増やし、育成する
青柳 今回の応募では、どの企画もすごく丁寧に考えられた内容になっていて、地域社会の課題解決とインパクトファンドは、今の時流に求められている事業なのだなと改めて実感しました。その中でCMVの取り組みで惹かれたのが、ファンドを通じて問題解決を導いていくのだけれども、同時に問題解決ができる人材の育成、起業家の輩出という点にも重きを置いていることです。
青木 インパクト投資の仕組みを使っていくと、お金を出したら終わりではなくて、まさにそこからが始まりです。われわれは起業家のミッションを理解し、目標を実現するために伴走支援を行っていく。その中で事業が成長していくことによって、起業家も成長していくわけですから、地域課題の解決の実践者がどんどん育っていくという構造になっているわけです。それともう一つこれからやっていきたいのが、インパクトアクセレータープログラムです。すでに起業されている人だけでなく、地域課題をテーマとして起業しようと思われている方たちのための育成プログラムを作り、運営していきたいと計画しています。
小笠原 すごく楽しみですね。
堺 例えば地域課題の解決をテーマにしたビジネスコンテストを行ってもどこか他人事で、「皆さん勝手に考えてください」みたいなことが多かった。やまと社会インパクトファンドを進めていく中では、自分たちが解決しなければならない地域課題を広い視野で整理して自分事として捉え、具体的で実践的な取り組みができることに大きな期待を持っています。
小笠原 CMV採択理由ついてもう少し付け加えるとすると、申請書のロジックモデルがかなり練り込まれていたものになっていたことがあります。例えば、奈良の介護業界の現状が書かれていたりするなど完成度が高く、ここなら安心してお願いできるなと思いました。
地域インパクトファンドから派生するさまざまな可能性
青柳 これから投資先を探し、そして育てていくわけですが、ファンドですから当然リターンの部分も視野に入れていると思います。その回収の部分については、一般のファンドとは違う地域インパクト投資という性質を考慮して、何か工夫しようと考えていることはありますか。
青木 地域インパクトファンドだからリターンを下げようとは、考えていないんですね。しっかりアウトカムを出していくことで事業が成長すれば、お客様のニーズに応えていくことになると理解していますので、そこでリターンは生まれると考えています。一方、イグジットの観点は変わってくるのかなと思っています。さまざまなステークホルダーが関わって地域課題の解決に取り組んでいくわけですから、そのコミュニティの中でイグジットを考えていく必要があるし、そこに新たな可能性の芽も生まれてくると感じています。
小笠原 レスポンシブルイグジットがその一例ですね。先日青木さんは、CMVで運営するファンドで保有する企業の株式をレスポンシブルイグジットで売却し、Aの企業からBの企業へ意図を持って売却することで、Aの企業のロジックモデルがどう変わって、アウトカムがこれだけ進むといったことを可視化させ、プレスリリースに発表されていました。これからレスポンシブルイグジットのようなケースが、奈良でたくさん生まれたら素晴らしいですね。こことここをつなぐと、こんな発展がある。そのつなぐ役割を青木さん、堺さんに期待しています。
堺 ありがとうございます。やまと社会インパクトファンドではこれから地域課題を洗い出していくのですが、南都銀行はもちろん、さまざまな人を巻き込んで課題のマッピングをしようと話しています。実は地域金融機関って地域課題という目の前の壁を、上から俯瞰して見るのが苦手なんです。一つひとつの案件をどう処理するのかというのは得意なのですが、全体像をつかむとなると、どこから手をつけていいかわからない。課題をマッピングしていく中で地域課題を俯瞰的に捉えるセンスを育て、そうした経験を積んだ者がさらに地域の成長に貢献してくれるものと思っています。
小笠原 SIIFでも課題をマッピングをして、その課題を解決するためにはどうしたらよいのかというセオリーオブチェンジを作る取り組みを行っています。奈良でもぜひ作っていただき、SIIFもお手伝いしながら何か気づきがあったらその都度アップデートしていけるといいですね。
エコシステムを形成するための伴走者がSIIFの役割
小笠原 最後に、SIIFの伴走支援に期待することなどありましたら伺えますか。
青木 SIIFはインパクト投資をこれだけ引っ張ってきているリーダー的存在です。知見もありますし、かつ知見のアップデートがなされているので、意見交換させてもらうことは本当にありがたいことだと思っています。客観的な視点でのご意見をこれからもいただけたらうれしいですね。
堺 サポートしてやるからいくら払え、みたいな世知辛い資本主義の中で生きてきた身としては(笑)、SIIFさんのサポートには本当に感謝しています。何か新しいことにチャレンジする時に、社会的な意識を持った組織のサポートがあることはすごく大事だと、改めて感じるきっかけにもなりました。SIIFのアドバイスや情報提供はもちろんですが、話し合うことでわれわれの頭の中の整理にもなったり、次の活動につながったり、人を呼び込んだりする。こういうエコシムテムを作り上げるところにSIIFの意義があるのだろうと思いながら、毎回お話するのを楽しみにさせていただいています。
青柳・小笠原 今日はありがとうございました。
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