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【ネタバレ感想】S4U: CITYPUNK 2011 AND LOVE PUNCHをdoしました

上のストアページ見て一瞬でも「面白そう!」と思ったら遊んでみたほうが良い。
ピクセルアートとlo-fihiphopが全てで、他の要素は(日本語話者にとっては)あまり優れているものではないからね。

都会、インターネット、だいそれた夢、商品、生活のための仕事……
そういったものに押しつぶされる寸前の若者を描く意欲作であり、得てしてこうしたジャンルはローカライズによって評価が左右されてしまいます。
本作はまさしくそれです。残念だったわね。

steamで3つのエンディング到達。8.5時間くらいで終わったみたい。
このレビューを書いてる時は1.5.18でプレイしているので、貴方がプレイする際にはアップデートによって本稿の記述との差異が生まれるであろうことはご了承いただければ幸い。

あらすじ

これは大人の愛と人生の意義を巡る現代の冒険ストーリー。2011年のマエンに戻って目の前のキーボードを叩き、人と連絡し、その依頼を受けてネット上の身代わりとなり、クライアントと自分に決断をさせてみよう。

steamストアページより

よくわかんないね(正直)

もうちょっと正確に言うと、主人公のMikiは恐らく田舎と思われる街、大川から大都会である麻園(上述の「マエン」と同義と思われます)に出てきた若者で、彼/彼女は建築設計士を志している。
S4Uの世界では一流の建築設計士とプロゲーマーはほぼ同程度若者からの憧憬を集めているようで、Mikiはそんな夢を抱えて都会に出てきた無謀な若者という感じだと思う。

そしてMikiは建築設計事務所に入ることが出来て、事務所の近場に(収入にはそれほど見合わない)いい部屋を借りて生活している。
が、建築設計事務所の下っ端として残業や出張は当たり前、更には上司との人間関係もそれほどうまく行っていない様子ですっかり摩耗していて、序盤で既に夢から醒め始めているような感じだと思う。

そんな中で生活の足しとして始めた副業は、友人であるNilが始めた事業で、依頼人のチャットアプリのアカウントを一時的に借りて、その人の代わりにチャットを行って依頼を達成する、という仕事。
S4Uの世界ではLINEに似たチャットアプリが生活に強く根付いており、あまりインターネットに明るくない人でもアカウントを持っているという世界観で、この辺は現代に近いかな。
ただし架空の2011年ということもあって、現代よりSFじみた概念が出てくることもあれば現代からすればやや時代遅れなアイテムも登場するので、やや戸惑うことが多かったかな。

例えば最初の仕事は「上司からのハラスメントに悩む気弱な女性」で、彼女の代わりに「上司を面罵する」というのが依頼となる。
この依頼自体はチュートリアル的なものなので簡単な分岐しかないのだけど、上司に可能な限りの罵倒を食らわしつつも表沙汰にしてやらない取引をすることも出来るし、セクハラチャットの履歴を会社のグループチャットに共有して上司諸共破滅させるという選択も可能。

建築設計士としての仕事をこなしながら夜はチャットで依頼人の面倒を見てやる、そんな二重生活をこなす若者の物語がS4Uとなります。

ゲーム性

チャット代行という仕事なので、このゲームはチャットをやるというのが9割。
とはいえ当然だけど本当にプレイヤー自身がチャットを行う必要はなく、キーボードを適当に叩けばその場に応じた発言ができる。
発言する内容はbackspaseキーを押して選ぶことが出来る場面があり、それがノベルゲーにおける分岐として機能している、という形なので、基本形はほぼノベルゲーだと思う。

ゲームの進行に応じて次第に「同時にチャットしなければならない相手が5人に増える」「依頼人が嘘をついている」「そもそも無理筋な説得を要求される」などどんどん難易度が上がっていくけど、それでもやっていくことは基本的に「発言の分岐を選択する」ということくらいなので、整理すれば大して難しくないとは思う。

とはいえ「タイプした内容を送信する」というプロセスが挟まることで没入感が高くなっているという感覚は常にある。おれなんかは結構弱気になって強めの言葉を使うのに抵抗があり、押しの強い相手とのチャットがかなり苦手ではあった。
そして何より素晴らしいのは発言の「間」!チャット相手によるんだけど、どうでもいい話は素早く連投されて、重要な話をする時などには返信が遅くなる。その時の「入力中……」の表示をぼんやり眺めるその間こそチャットの本質だということをちゃんと理解してるゲームだと感心しちゃったぜ。
単なるノベルゲーだとボタンをポチポチして自分のリズムで文字を読めてしまうけど、チャットは必ずしもそうでもなく、読み終わる間もなくどんどんチャットが表示されたり、思わせぶりにチャットを渋ったり……そうした感情の動きが可視化されるのはキャラクターが生きている感じがして、途中までは全然ノベルゲーを遊んでいる感覚と相当異なってたと思う。

残念なこととしては選択肢のやり直しやセーブロードのUIがあまり良くないこと。
場面によっては長文を素早く読まなければならない場面や世界観への理解を要求される分岐もあったりするのだけど、基本的にその日の最初からしかロードが出来ないので、終盤のもう一つの分岐を見たいだけなのに最初から読まなきゃいけない。
既読スキップというか既読早送りは一応あるのだけど、その場合でも分岐をちゃんと選んだりするという行動はしなければならないので、モダンなノベルゲームとしてはかなり不便だったかな……。

あとこれはネタバレ感想なのでネタバレするんだけど、ストーリー上の大きな分岐はほぼ一個のみで、それ以外はあまりエンディングに関係がないというのは残念だった。関係値を上げられるフラグっぽい選択肢に見えた分岐が何個もあったけど単に思わせぶりだっただけで……。

お話

多分面白かったと思う。多分、というのはローカライズによってあまりよくわかんなかった部分が多かったから。

ゲーム性の部分で書いたように、キーボードをタイプして発言を送信するというプロセスが入るんだけど、元からなのかローカライズのせいなのかはわからないけど、「どういう意味?」な発言をして、それが良い感じに話を進行させるということが後半からはよくあったかな。
そうでなくても途中からは「サイバーライフ」「TT」「建築」辺りに関わる固有名詞が多くなっていって話についていくだけでも大変なのに、そこら辺を理解している前提で話が進んでいくので結構置いていかれてる感じはあったな。

よくチャットする親友のNilですらあまり間柄がわからない場面が多かったのに、リアルの親友であるBenとSake関連の話は尚更わかりづらかった。
なんで「プロゲーマー」って単語がよく出てくるのか、Mikiはなんでビデオゲームへの執着を捨てたのか?という部分が最後まで掴めず、正直読み飛ばすしかなくてぼんやりしちゃった。

後半からはゲーム自体の難易度が上がるのに加えてローカライズの質が悪くなるというのもあって、あんまり楽しみきれなかったというのが正直なところ。多分いい話をしてるんだろうなというのはわかるんだけど……。
この辺SANABIも似た感じだったが、SANABIは中盤のそれなりにどうでもいいパートだけローカライズが悪いのがあったのでそれほど気にはならなかったんだよな。

一応ローカライズの質が悪いことは開発者は認識していて、度重なるアップデートによってどんどんマシになってはいると思うんだけど、それでも一人称が揺れたり語尾・口調が怪しい瞬間が多く、更にはかなり重要な部分で翻訳が為されていない箇所を発見したりもしたので、最後まで没入し続けられるような質になるまではまだまだ時間がかかりそう。

とはいえ全体的には創作活動を趣味にしたオタクなサラリーマンにとっては辛くなったり励まされたりする瞬間が多くてかなり好みな物語ではあったよ。Mikiと違っておれは都会に出ることを拒絶した側の人間なんだけど、そういう生き方への憧憬も含めて、な。

ビジュアル

このゲームの魅力としてここまで「実際にチャットしているような没入感の高さ」と「都会で足掻く若者の物語」を挙げてきたけど、言うても全体の魅力でいえば2割くらいだと思う。このゲームの真価とは……ビジュアル!!!

自分で取ったスクショが何個かあったので掲載。
緻密なピクセルアートは美麗で魅力的な一言で、これ系の見た目好きなゲーマーなら絶対に刺さるとは思う。

ゲームとしての1日の流れは、
パソコンでチャット代行の仕事をこなす→全部終わったら外に出て買い物したり現実の人間と喋る
というものなんだけど、30分くらいずっとパソコンの前に座ってから一度外に出た後に見る夕景が本当に美しくて、それも現実感があって良かったね。
おれもリモート始める前は退勤する時に見る夕景に救われてた部分があったから……。

そして音楽。

公式?が出しているらしいリリーストレーラーなんだけど、かなりChillに寄ったビート系BGMが多数取り揃っていて、全然飽きなかったぜ。
普段チルウェイブ周りの文脈を聴かないので最初はちょっと胃もたれする場面も多かったけど、言うても慣れたかな。改めてディグりたい欲が増したかな。

ゲーム性と物語が魅力の2割、この見た目と音楽が7割だとすれば、あとの1割は生活感。
打鍵、HDDが常に書き込みされているようなやや甲高いパソコンの駆動音、時たま外を走る車、床の軋み……などなどの音響面も没入感の高さに一役買っている。
おれはノイズキャンセルヘッドホンの外音取込モードを普段使っているんだけど、このゲームに関しては自分の生活音を耳に入れたくなかったから珍しくノイズキャンセル全開で遊んだ。同様の環境持ってる人は同じ感じで遊んでみるとかなり良い体験が味わえるんじゃないかと思うね。

総評

総評としては「ローカライズさえ良ければ……」です。本当に悲しい作品。
100悪いわけじゃなくてちゃんと日本のスラングに合わせた翻訳も一部は存在しているんだけど、全体で見れば「物語の理解を妨げている」翻訳が多かった印象だったね。

何度も言うようにアップデートで話がわかりやすくなる可能性はあるし、おれはクソローカライズに慣れてるタイプなのでわからないところはある程度脳内翻訳で進められはするのだけど、とはいえノベルゲーは流石に負荷が高いので……。

ゲーム自体もビジュアルとBGMの良さがほぼ全てと言った通りで、ここに魅力を感じられないとやや厳しい、というところもあって万人受けはまずしないと思う。
都会への憧憬だったり大きな目標への挑戦だったり、そういうテーマに共感できないと上滑りするという側面もあるだろうし。

とはいえ刺さる人には強烈に刺さる類のゲームで、まさしくインディーゲーとしては一流だと思っている。
開発元であるU0UGamesの今後に期待だね。


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