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百年の孤独・感想① 独裁者の孤独もしくはアルカディオ考

 231ページまで読了。
ネタバレを含みます。


  アルカディオが独裁者になるくだりではじめて、この子はそこまで孤独だったのか…!と気づいた。
正直、これだけ賑やかな大きな家で育って、まさか「孤独」に育つ人間がいるとは思わなかった。

 ……でも、考えてみれば確かに、父も、母も、彼からは見えない位置にいる。母であるビラル・テルネラは近くにいて彼を気にかけているし、大事な貯金(50ペソ✕2)だって彼のためにぜんぶ使ってしまう。行方不明だった父が戻ってきて彼の愛情を得ようと望むくだりもある。でも、どちらもアルカディオは気付けない。自分が愛されてることに気づくことはできない。


 ウルスラは金儲けで忙しく、アウレリャノ(大佐)は意外と冷淡で、レベーカとアマランタが対立して家の中はしんどくて…うん、辛い。絶妙に辛い。
 そしてアルカディオはとんでもない独裁者になってしまった。ウルスラが激怒するような。


 愛されていないわけでも、彼に関心がないわけでもない。
 でも絶妙に、スポット的な孤独に落ち込んで彼は育つ。メルキアデスにそんなに心を寄せて錬金術で生き返らせようとしていたなんて、逆にアルカディオの孤独の証明だ。この家の中に、もっと深い絆を結ぶ相手がいてもいいはずなのに…………アルカディオは、とても孤独だ。本当に不思議だ。こんなに騒がしい家の中で。


 アルカディオが銃殺刑に処される場面。
東の空の白むころ、のくだり。
読み上げられる罪状を聞きながら、ウルスラと、八ヶ月の娘と、これから産まれる赤ん坊と、サンタ・ソフィア・デ・ラ・ピエダを思い出すくだり。

「冷静に自分の一生を振り返ってみて彼は、これまで憎んできた人間を実際には深く愛していることを悟った」

 ひとの一生ってなんだろうね。
アルカディオの捻くれてゆがんだ気持ちをまっすぐにしたのが、銃殺刑の前の2時間の時間だなんて、皮肉だ。最後まで愛されてると悟ったという描写はなく、しかし「愛していることを悟った」とくる。


 この冗談に冗談を塗り重ねた厚塗りの喜劇のデコレーションケーキのような物語で、しかしながらひとが死ぬ場面では、ずいぶんと人間存在というものに正面から深く入り込んだ描写をしてくる。たとえばホセ・アルカディオ・ブエンディアの場合とでも。
 直球が来るのだ。それも、ものすごい剛速球が。


 描きすぎ、ということはないと思う。文章は必要十分だと感じる。でもそれが、シンプルに深い。ふつうではそんな深いところまで到達しないような、すごい抉られ方を心がするのだ…。

 アルカディオの孤独は癒えたのかな。孤独は「愛され」たことで消えるのか、それとも「愛する」ことで消えるのか。

 たぶん後者が答えだから、あの銃殺刑の前の二時間の場面はこんなに胸に迫るんだろう。
 アルカディオの魂に安らぎあれ。


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