食品ロスに向き合う場・ツールをつくる
過去に「都市や資源の未来に「シェアリング」で向き合う」で限りある資源に対してシェアの考え方を用いた取り組みについて紹介しました。カーシェアやおもちゃの貸し借りなど、必要以上にものを持たず、さらには貸し借りから生まれる地域のつながりも生まれるなど、参考になる事例でした。
今回は資源のなかでもひときわ深刻な食料問題をテーマに、消費者が食品ロスに向き合う機会になっている事例を紹介します。
食品ロスの現状
日本におけるフードロスはおよそ年間600万トンにおよびます。これは国民ひとりあたりに換算すると年間50kgほど、各人1日あたりおにぎり一個分の食料を捨てていることになります。
さて、これらの廃棄において、特に影響を与えている関係者は誰になるでしょうか。まず事業者と家庭という枠で以下のクイズを考えてみてください。
Q. 食品ロスは事業者・家庭、どちらから多く出ている?
1. 事業者から8割型出ている
2. 事業者と家庭がおよそ半々である
3. 家庭から8割型出ている
いかがでしょうか。恵方巻の大量廃棄など、事業者からの大量廃棄の映像をニュースでみた方もいるかもしれません。私も事業者が余剰に生産・販売し、廃棄している印象が強かったのですが、実は2017年の推計では、事業者が54%、家庭からが46%と半々に近い(2番が正解)というデータが出ています。
もちろん生産・加工・小売・消費(+再利用 / 焼却)のうち消費段階だけを改善すれば問題は解決されるわけではありません。しかし、食料廃棄の問題は消費者自身もできることが多い社会課題だということがわかります。
食品ロスと消費者のあり方
また、過半数を占める事業者からの食品ロスにも、消費者のあり方が大きく関わっています。みなさんは「買い物の時、奥に手を伸ばし、賞味/消費期限表示の新しいものをとる行為」を見かけたことはないでしょうか。
フードジャーナリストの井出瑠美さんの調査によると、2411人のうち88%が経験ありと回答しています。この何気ない行為をみんなが行うことで、不容易にスーパーで期限切れのロスを増やしてしまうのです。
他にも、あるコンビニのオーナーは「おにぎりの棚が薄くなっているとき、お客さんから『これだけしかないのか』と苦情をいわれたことがある」といいます(中村和代、藤田さつき『大量廃棄社会 アパレル&コンビニの不都合な真実』より)。
実際に買うのは1〜2こ程度だったとしても、「たくさんの中から選ぶ」ことが当たり前になっている消費者心理が、店側の商品ラインナップを増やし、結果として食品ロスにもつながっているといいます。
他にも形が崩れたり、虫に喰われているものの十分に食べられる野菜などは、出荷されずに廃棄されている現状があります。こうした事実を知っていくと、消費者としてのあり方を考えさせられます。
以下でアイディアやツールによって創造的な解決を試みる事例をみていきましょう。
住民自らが運営する地産地消型スーパー | イギリス
住民のためのキッチンも併設されている | libees
ロンドンのシェフのArthur Potts Dawsonによって発起された「ザ・ピープルズ・スーパーマーケット」は、住民が小額の費用と月数時間のボランティアをすることで、地元産の食料品を低価格で手に入れられます。
安くおいしいものを食べたい。そういった住民のニーズに対して、住民自身をスタッフ・会員として運営に回っていくことでコストを削減し、高品質かつ持続可能なスーパーを実現しています。
キッチンを併設することで捨てられる直前の食材を住民自ら調理し、ロスをなくす仕組みを構築。扱う食材も地元のものなので、大手チェーンが行うような移動コストも掛からずに食材を手に入れることができます。
1週間でどれくらいの食料ロスを防いだかを明示する | LOUISE WILSON
2010年に開始し、現在も運営している同店舗。2019年にはナッジを用いて、住民の健康が自然と増進されるレイアウトデザインも行うなど、チャレンジングな取り組みを継続しています。
健康的な商品が手に取りやすいところに並ぶ「ナッジ」プロジェクト | JELLIED EEL
いまだに住民も一体となって食料ロスに向き合うオルタナティブなスーパーの形として参考になる事例だと思いました。
食品ロスダイアリー | 日本・神戸市
食品ロスダイアリー(画像はスクリーンショットをもとに筆者作成)
日本では使いきれなかった食材、食べ残しを記録することで平均的な家庭と比較できたり、残してしまいがちな食材を把握できる「食品ロスダイアリー」が一定のロス削減への兆しを見せています。
神戸市における食品ロス削減に向けたレポートによると、利用者データの分析の結果、記録を続けるほどに手付かず商品・食べ残しの発生回数が減少していくという結果が出ています。
メモや記録をするだけで何かしらの改善が行われるというのはダイエットやセルフケア、リフレクションの文脈でもいわれます。シンプルですが可能性を感じる事例です。
食品ロスを救うヒーローになろう | スコットランド
スコットランド政府から資金提供を受けている団体・Zero Waste Scotlandのプロジェクト「The Love Food Hate Waste」では子ども向けの教育プログラムを制作しています。
いちごの一生を想像するワークシート
レッスンは各年齢層にわけられて実施されます。小学校低学年には「食料節約のヒーローになろう」という言葉で導入が行われ、基本的な食品ロスの考え方を楽しくインプットしていきます。
中学年で食べ物を愛し、大切にすること。高学年では、ゴミを嫌い、食べ物をゴミ箱から節約するための実践的なノウハウを学んでいきます。
日記では何を捨て、どうすれば捨てずに済んだかを記録する
子どもにとって食品ロスに真正面から向き合うのは、楽しくなければ困難な場合が多いでしょう。Zero Waste Scotlandでは楽しく食品ロスに立ち向かえるワークシート、ファシリテーションプロセスが設計されており、未来を担う子どもたちの倫理観を育む取り組みとして有効なように感じました。
日本では松本市が3~5歳向けの絵本を作成していたり、立命館小学校がTomato Adventureというトマト料理をつくる過程でフードロスについても知ることができる取り組みを行っていました。こうした遊び感覚で想像力が育まれる取り組みが増えるとより食品ロスが身近に感じてくると思います。
おわりに
食品ロスに対して、消費者が関わっていくプロジェクトを紹介してきました。とはいえ、生活者としてはプロジェクトレベルというよりは、まずは普段の生活における、買い物、調理、保存、リサイクルなどから取り組むとこからでしょうか。
個人的にはIDEAS FOR GOOD編集部による「おうちdeゼロウェイスト」がとっつきやすかったです。家族や友人と楽しく取り組めるのは大事ですね。
最後に以下の問いで終ろうと思います。
・普段の買い物・調理・廃棄の過程で、食品ロスに対して意識できていること・できていないことはどんなことでしょうか?
・ささいなことでも今後行動を変えられそうなことがあれば、書き出してみてください
今回のように、社会課題に創造的な視点で取り組んでいくプロジェクトなどに興味をもっていただけたら、本マガジンのフォローをお願いします。また、このようなプロジェクトの構想・支援、その他なにかご一緒に模索していきたい行政・自治体関係者・企業の方がいらっしゃいましたら、お気軽にTwitterDMまたは下記ホームページからご連絡ください。
Reference
・井出瑠美『食糧危機 パンデミック、バッタ、食品ロス』
・中村和代、藤田さつき『大量廃棄社会 アパレル&コンビニの不都合な真実』
・リディラバジャーナル 構造化特集「フードロス」
・The People's Supermarket
・食品ロスダイアリー
・Zero Waste Scotland