なぜ朝の準備は無意識にできるのか
まえに、”無意識”について記事にしました。
人間の判断の90%以上が実は無意識によるものというもので、行動を変えるためには”無意識”変える必要があるとの内容です。
今回は、無意識が思考において果たしている役割と重要性、そして無意識が引き起こしてしまう判断の誤り(認知バイアス)についてです。
私たちの判断において大きなウェイトを占めている”無意識”の働きをしることで、行動を変えるためにはどうすればよいか、より理解が深まると思います。
無意識に朝ごはんを食べてシャワーを浴びる自分
今日の朝、寝起きのボーっとした頭でテーブルの前に座り、ウィンナーと卵焼きとごはんをたべ、そのあとシャワーを浴びて歯を磨いた後に仕事机の前に座りました。
その間のことを思い返してみるとほとんど何も考えておらず、ほぼ無意識で行動していることに気づきました。
そのような経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。
単純な繰り返し作業やルーティン化した行動は、何も考えなかったり、まったく別のことを考えていても実行できたりします。
なぜこのようなことができるのでしょうか。
ルーティン化した動作は「自動処理」できる
それは、ルーティン化した動作を行うための脳内ニューロンのつながりが一つのユニットとなり、脳内に保存されるからです。
ユニット化された動作は、開始のスイッチを押すとあとは自動的に実行されます。
朝の準備の話でいうと、「リビングの椅子にすわる」ことが開始のスイッチとなり、そのあとの「ご飯をたべる」「シャワーを浴びる」「歯を磨く」といった動作が自動で行われるのです。
脳のこの機能を「チャンキング」といいます。
これは、動作を行うための最適なプログラムを脳内に作って保存していると言えるのかもしれません。
人間の脳はとてもよくできていて、脳が「自動処理」を行うためのプログラムを勝手に生成してくれるのです。
この機能により脳の負荷率を下げて効率的に動作をすることができます。
「チャンキング」は、仕事にも応用可能です。
現在、テレワークなどで自宅で仕事をする人も多いと思いますが、なかなか仕事に集中できない人も多いのではないかと思います。
そこで、スイッチを入れると後のルーティン化した行動が自動で行われることを利用します。
例えば「インスタントコーヒーを入れる」⇒「軽く柔軟をする」⇒「仕事に取り組む」という動作をルーティン化してしまえば、集中力が切れた後も「インスタントコーヒーを入れる」ことで、スムーズに仕事に入れるかもしれません。
ポイントは、いきなり仕事を始めるのではなく「インスタントコーヒーを入れる」という軽くて押しやすいスイッチをルーティンの始めに組み込むことです。
思考も「自動処理」される
「自動処理」するようにできるのは何も動作だけではありません。
私たちは、「思考」も自動処理できるようになっています。
アメリカの心理学者、行動経済学者であり、ノーベル経済学賞を受賞しているダニエル・カーネマンは、
無意識による直感的で速い思考を「システム1」
意識による複雑で遅い思考を「システム2」
と名付けました(なんとも味気のないネーミングですね)。
人間はその2つのシステムを組み合わせて意思決定をしているということです。
基本的には速くて省エネな「システム1」を使い、処理しきれない複雑ものだけを「システム2」に処理してもらうことで、効率的な意思決定が可能になっているといいます。
「システム1」、つまり「高速思考」について、もうすこし詳しく見ていきましょう。
私たちは目でみた景色、耳で聞いた音、鼻で嗅いだ匂いなどの情報をほとんどを無意識で処理しています。
運転をしたことがある人は分かると思いますが、初めて車の運転したとき目に映るすべての情報が危険なサインに見えて、緊張したのではないでしょうか。
そして、短時間の運転でもとても疲れたのではないかと思います。
しかし、運転に慣れた後では、信号や、歩道から飛び出して来そうな子供や、近くから聞こえるサイレンの音などの大事な情報以外はほとんど気にも留めていないのではないでしょうか。
これは、車の運転がルーティン化したことにより、運転に必要な情報だけを無意識に処理できるようになったことによります。
車の運転は「高速思考」を行っているほんの一例です。
ところで、「高速思考」といいますが、無意識な思考は意識的な思考に比べてどれだけ速いのでしょうか。
無意識の情報処理はケタ違いに早い
実は、無意識で情報を処理するスピードは、意識よりも圧倒的に速いです。
一説によると、意識的に処理できるスピードが「8~40ビット毎秒」程度であるのに対して、無意識が処理できるスピードは「1,100万ビット毎秒」程度だということです。
この説が正しいとすると、約100万倍のスピード差になります。
ちなみに100万倍がどれだけ違うかというと、
カタツムリの移動スピードが6m/hで、その100万倍は6,000km/hです。
ライフルの弾のスピードが3,510km/hなので、無意識と意識の情報処理のスピードの差は、カタツムリとライフルの弾のスピード差よりも大きいことになるのです。
本当にこれだけの差があるかは分かりませんが、無意識が情報を処理するスピードが圧倒的に早いことだけは間違いないようです。
「高速思考」は、素早く効率的に判断するためのとても優れた仕組みだと言えるでしょう。
誤った判断をおこさせる認知バイアス
しかし、「高速思考」はプラスの面だけでなく、マイナスの面ももっています。
「高速思考」の一種にアンコンシャス・バイアスというものがあります。
アンコンシャス・バイアスは無意識にもっている偏った思い込みや先入観、固定概念を意味します。
そして、偏った思い込みや先入観、固定概念により、判断を誤ったり合理的でない考えをすることを「認知バイアス」といいます。
誤りが起こる理由は色々とありますが、一つは「バイアス」は主に過去の経験や既存の価値観に基づいた判断のため、環境や価値観の変化が起こった際に判断を誤りやすいことが挙げられます。
また、高度化した人間社会ではその「バイアス」を逆手にとったマーケティングや詐欺などが当たり前のように存在しています。
代表的な「認知バイアス」についていくつか紹介します。
ハロー効果
ハロー効果とは、ある領域での人、会社、ブランド、または製品の肯定的な印象が、他の領域での自分の意見や感情にプラスの影響を与える傾向です。
簡単にいうと、テレビCMで好感度が高い有名人が商品を紹介すれば、その商品の信頼性が高まるというものです。
単純ですがとても効果が高く、とくに判断能力が低い子供に対しては影響が大きいです。
アメリカでは、「12歳未満の子ども向け番組に登場するキャラクターがその番組の前後で流される広告に登場し、商品・サービスの宣伝をしてはいけない」という規制があります。
ドラえもんが大好きな子供が、番組の途中でドラえもんがでているCMを見たらその商品がほしくなってしまうのは、想像に難くないでしょう。
確証バイアス
仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことです。
簡単に言うと、人は自分が信じたいものしか信じない、ということです。
これは、SNSの発達した現代では特に起きやすくなっているようです。SNSでは自分と同じ意見をもった人とつながりやすい傾向にあります。
その場合、「私の周りはみんなそう言っている」「反対意見を言っている人は少数派だ」とどんどん自分の意見を肯定する材料がそろってしまいます。
情報社会に生きる私たちが特に注意しなくてはいけない認知バイアスです。
なぜ認知バイアスが問題になっているのか
最近になって、認知バイアスの問題が取り上げられるようになったのはなぜでしょうか。
その大きな原因の一つは認知バイアスによる弊害がどんどん大きくなってきていることだと考えます。
記事の上の方に書きましたが、「バイアス」は主に過去の経験や既存の価値観に基づいた判断のため、環境や価値観の変化が起こった際に判断を誤りやすくなります。
そして、現代社会は変化スピードがとても早いため、「バイアス」による誤りが起きやすくなっているのです。
多様化や、LGBT、SDG'sなどの新しい価値観はここ数年で一気広まりましたが、そのスピードは今までの時代では考えられない早さでした。
これまでは社会の変化スピードが非常にゆっくりで、バイアスによる判断の誤りを起こす可能性が低かったのです。
そのため、一つの価値観を信じていれば、その価値観は数百年や数十年にわたって変わることはないため、判断を誤ることはありませんでした。
しかし現在は価値観の変化スピードがとても速いため、過去の経験や既存の価値観に基づいた判断では誤りを起こすことが多いのです。
大事なのは、自分にはどんな「バイアス」がかかっているかを理解したうえで、それを意識的にアップデートしていく方法を身に着けることではないでしょうか。
人間年を取るとガンコになるといいますが、年をとるごとに人間には過去の経験が積みあがっていき、「バイアス」を変えるのが難しくなります。
35歳過ぎてから現れた新しい技術を受け入れられなくなると言われたりもしますが、その年齢よりも上の人(私をふくめて)は、とくに新しいものにフラットな姿勢で理解しようと望むことが必要なのかもしれませんね。