沖縄へ向かう飛行機の中で寝不足の宮川大輔を襲った悪夢。
斬新なツカミ『7月22日』
彼の話の導入はお決まり「これ〇〇のときの話なんですけど」。
〇〇には“高校1年生”とか“NSC”とか“天然素材”などが入るが、この話では『7月22日』。これで笑いが起きたとき具体的な日にちがツカミになるのかと鳥肌が立った。
世間的には祝日でも何か特別な日でもない7月22日をわざわざ取り上げる。彼にとっては何かが起きた日なのだろうが「なんで具体的に言うねん」の笑いが起きた。抽象(前提)と具体(意外)のギャップなのか。お決まり導入部の〇〇には高校1年生とかNSCとか天然素材が入るがこれはフリで「今年の7月22日の話なんですけど」と具体で来る意外性が機能した。
彼の導入で好きなのがいくつかあるので下記に紹介する。
・今やったらTENGAとかあるじゃないですか
・僕チーズ転がし祭りというのに参加したんですよ
・これ僕高校一年の話なんですけど、付き合ってた彼女とあのーホテルに行った訳ですね、はい。もっかい始めから喋っていいですか?
・三又さんの話してもいいですか?(ジョーダンズ三又の話をしすぎてそれ自体がツカミになっている)
・これは僕が中学一年生のときの話なんですけど。あっ、これは、僕が高校一年生のときの話なんですけど。(お決まり導入部の変化球。松本「それ(何年生であるか)は重要なことなんかいな」)
煩わしき反復
オウム返しってなんであんなに腹立つんでしょう。程度によっては馬鹿にされているように感じたり、聞いてるフリをしてるんじゃないかと疑念が生まれる。そういう意思が無くとも確認の意味で復唱する人もいるが、何度もやられるとやはり不快である。このとき寝不足だった宮川は更にあらゆることに怒り始める。
ジャングルクルーズちゃうねん。見せもんや思てんのか。みたいなツッコミが彼の脳内をぐるぐる回ったことでしょう。反復、反復ときて「お祭りに行くのかねぇ」のハズしが上手い。ほいでなんでそれで終われんねん、とも思う。飛行機は何回でも乗れるけどケンコバは貴重やぞ。ケンコバやお祭り男より飛行機の方が楽しいてか。ここにもキレていい。
木村祐一「偏見の怒りによる笑い」
以前、木村祐一「飛び散る、怒り」の記事でも触れたが、コンディションや状況次第で直接関係のないものにまで怒りが生じる現象。まさにこれが起きている。
擬音のマジシャンと呼ばれる所以
そう称される宮川大輔は、トーク内で膨大な数の擬音を使用する。この話でも9回の擬音が出てくる。彼の擬音については別の記事で深く掘り下げようと思っているが、中でも奇跡的(と言うと失礼だが)かつ逸品の擬音がこれだ。
「カッッ」
何らかの“物理的に鋭利なもの”の表現をしたかったが適切なワードが出て来ず、喉の振動を伴わない発音[k](無声軟口蓋破裂音)を強く鳴らしてみせた。言葉が出て来ず言い淀んだのは納得できる。“怒りを含んだ物理的に鋭利であるもの”の表現が日本語に無いからだ。結果的に適切なワードを使わずとも響きだけで表現することに成功した。情動を巻き込んだ離れ業に脱帽する。
喉の振動を伴わない発音[k](無声軟口蓋破裂音)とは、軟口蓋に舌の根本を持ち上げてくっつけ、破裂させるようにして出す音のこと。軟口蓋とは字の如く軟らかく、下図のように口内の上顎、奥の方の部分のこと。
余談
他のトークで言うと「お風呂屋さんにて」という話の肛門が開いた音を表現した「ツコォ」というのが好きです。オチまで主観で押し切ってしまうスタイルも大好きです。
+α
・オチが透けて見えてしまう「汗かいてて」「みたい」
下手に「汗をかいている」という子供の情報を明かしてしまうと勘の良い聞き手なら濡れているので坊主のように見えているだけなのかもしれないと分かる。「汗をかいている」を使わずに夏で暑かったのでイライラしていたなどの描写を使った方がベターな気がする。「丸刈りみたい」という曖昧な表現も疑われてしまう。「丸刈りやったんですよ」と断定しておけば聞き手は信じてくれる。
・注文すんねん
「注文」っていう表現が面白い。“種類・寸法・数量・価格などを示して、その物品の製造や配達・購入などを依頼すること。また、その依頼”というのが広く一般的に使われている意味で、床屋で理想の髪型をオーダーすることを一般的に注文と呼ばないからだ。