吉田秀和が語るバッハの至高の作品『ロ短調ミサ曲』
自分が楽器をやっていることもあって、クラシック音楽には特別な思いを持って触れてきた。昨年か一昨年だったか、クラシックを本気で語ってみたいと思い、参考にと音楽評論家の第一人者である吉田秀和の本を購入した。
『私の好きな曲』というタイトルなだけあって、著者の独断で選んだ曲がずらりと並んでいるのだが、その中に自分も好きな曲が入っているとどんなことが書いてあるんだろうと興味をそそられる。
最も興味を引いたのはバッハの『ロ短調ミサ曲』。私自身、数年前に演奏に参加したことのある大曲で、とても思い入れがある。吉田秀和がこの曲の項目で書いていることもとても熱い。冒頭からこうだ。
初っ端、この熱量である。バッハの音楽がいかに優れているのか、書いても書き切れないという思いに溢れている。あまりに熱いので、本当は全部抜き出さないと著者の意図するところが正確に伝わらないことは重々承知しているのだが、そうするわけにもいかないので大胆に省略。そんなバッハの音楽の中でも、とりわけ最高の音楽と讃えるのが、『マタイ受難曲』とこの『ロ短調ミサ曲』なのだ。ところが、どちらも最高だと評するにもかかわらず、『マタイ』は数回しか聴いたことがなく、『ロ短調』はときどき聴いていたという。
平易にして的確な表現である。音楽を語るとはこのようにするものなのかと、読みながら感心し通しだった。そう、ロ短調はときどき聴くけれども、マタイはそうそう聴くような曲ではない。凄すぎて。そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、本当にそういう曲なのだからというしかないのだ。嘘だと思うなら聴けばわかる。
『ロ短調ミサ曲』を聴きながらここまで書いてみた。こうして聴いていると、聴いたらわかるのだからわざわざ文字におこすのが面倒になるのが正直なところだ。でも、この素晴らしさをなんとか伝えたいという思いもまた事実。今後ゆっくり時間をとって、私版の『私の好きな曲』を書いてみたい。