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好みとは違うけど良かった本たち!3月オンライン読書会の選書

3月12日、毎月恒例のオンライン読書会が開催された。

テーマは「好みじゃないけど良かった本」ということだったが、いつにも増して盛り上がった。

好きじゃない、だけど良い本なのはわかる。この矛盾した感覚がもどかしさを生み、各メンバーを饒舌にさせたのだろう。各メンバー何が気に入らなくて、何が認めざるを得なかったのか。それぞれ書き連ねてみたい。

一人目。

好みでない理由:文系人間で科学に明るくないため

日頃は経済の本を紹介することの多い方。それでも、今のトレンドを抑えるべく、量子コンピュータに関する新書を手に取ってみたとのこと。技術的な部分は正直わからなかったが、軍事利用の弊害をなくすため、ルール作りから進めるとした本書の結論には共感したとのことだった。

紹介後のやり取りでは、紹介者の苦手とする技術部分で盛り上がったのがおもしろかった。理系出身者やIT業界に身を置くメンバーが、量子コンピュータの仕組みを簡単に説明してくれた。さらに、IBMのサイトに飛び、一般人でも量子コンピュータが使える(?)ページを皆で閲覧。この辺りは、同じく文系の私も何の話をしているのかわからなかった。

二人目。

好みでない理由:作者と同年代(ゆとり世代)を生きる者としてあまりにも刺さるため

私の紹介本。今回のテーマが、「好みじゃないけど良かった本」と決まった瞬間から頭にあった本。

就活をテーマにした、大学生たちのリアルな葛藤。読んだ時期もタイムリーだったので、なおさら刺さった。なんなら、刺さりすぎて一回死んだ。

物事を俯瞰して見るのが得意な主人公。ちゃらんぽらんに見えてちゃっかり内定を取ってくる同居人や、海外留学したりイベントの運営委員を務めたりと華々しいのに上手くいかない女の子など、主人公は身の回りの人間を冷静かつ客観的に分析する。

主人公の分析は常に的確で、読者はいつしか彼の意見に乗っかり、彼とともに痛々しい周囲の人間を眺めるようになる。いるいる、そういう人。あ、自分もそんな人間かも。痛む胸を押さえながら、なんとかページをめくる。ところが、本書の核心は、もう一歩奥にあったのだ…。

この作品の何が気に入らないかって、これだけ何者でもない人々を書くのが上手い作者自身は、どう考えても「何者か」ではあることだ。作者はこの作品で史上最年少の直木賞を獲っている。そんな人間が、何者でもないはずがないのだ。

この作品を書いた作者自身が20代前半だったはずなのに、どうしてこれだけ達観した人間描写ができるのだろう。作者とこの作品の主人公は似ているのだろうが、決定的に違うのは作者は何者かであること。そこが唯一この作品で気に入らないところだ。

今回この読書会のために、わざわざこの作品を買い、読み直しもした。幸か不幸か印象は変わらず、やっぱりいけ好かない作品だった。読書会でも熱く語ったがもう一度ここで言っておこう。

朝井リョウは天才です。

三人目。

好みでない理由:とにかく重いし暗いから

吉村昭はこの読書会で度々取り上げられる作家。大変リアリティのあるノンフィクション作品で知られるが、この作品はフィクション寄りだとか。

ベースは実話にあるという。実際にあったかどうかはともかく、あったと思わせるような筆力、想像力は尋常ではない。

紹介後のやり取りでは、優れた作家論に。現実であったことだろうがなかろうが、作者が経験したことあろうがなかろうが、読み手に本当にあったと思わせることのできる力。それが作家たるものなのだろうという話。

あるメンバーが、現実でおこった断片を、本当にあったかのように埋め合わせることが作家だと言っていて、本当にそうだなと思った。

四人目。

好みでなかった理由:他人の生活感、生き様は人それぞれだろうから、特に関心がなかった

こちらは好みじゃなかったけど、読んでみて変わったというもの。

アメリカナイズされた考え方だったり、管理職的な視点が多かったりと、紹介者とは遠い部分も多かったようだが、この本で初めて他者の人生観を知る価値を感じたそうだ。

出先には必ず本を持っていくとか、青空の下でコーヒーを飲むとか、実際に真似をしている行動もあるという。

好みでない理由:文体が…

うってかわってラノベ。紹介者はセリフも地の文も口語体に支配されたこの作品に衝撃を受けたという。今や市民権を得たと言っても良いラノベ。その特徴は、文章にありがちな堅苦しさを取っ払った圧倒的な読みやすさだろう。

いくら読みやすくしたとはいえ、全文通じた口語体は少し紹介者にもきつかったようだ。ただ、この作品がマンガ化もされている通り、ストーリーは人気があり、ラノベ自体も読まれている証拠。今の若者が好むようなこの作品から、現代における小説の現在位置が感じ取れたとのこと。

なんだかんだ言いながら、マンガもラノベも試している紹介者も、それなりにこの作品に感じるところがあったのだろう。

好みでない理由:中学生のときに何故か読んでしまい、怖すぎて10ページで閉じた

戦時中に日本兵が実際に行っていたことを暴いた作品。あまりのえげつなさに大学生になるまで読めなかったとか。中学生で手に取ったこと自体凄いが。

人間はどこまで残酷になれるのか。怖いけれども、目を逸らしてはならない事実が書かれているとのことで、まさに好き嫌いでは語れない重みがある。というか、紹介者の幅の広さに驚いた。

五人目。

好みでない理由:機械文明の生生しい描写

機械文明を揶揄する内容はあまりに有名だが、主題については前半部分で概ね語られており、後半はチャップリンがひたすらふざけている印象があるとか。深い主題とは裏腹に、しっかりコメディとして楽しめるのは良いとのことであった。ちなみに言うまでもないが、この作品は映画です。

好みでない理由:とにかくエグい内容

キリスト教文学の傑作と名高い作品。内容のえげつなさと圧倒的なリアリティ。信仰の崇高さと理不尽な現実。精神を揺さぶられすぎて、二度目を読み返す気にもなれない。

紹介者以外の大半のメンバーも読んでおり、読後のショックを分かち合った。小説の後で映画も見た人や、二回も読んだツワモノもおり、改めて読書会メンバーのレベルの高さを感じた。

同作者の『深い河』と『海と毒薬』も読破しているメンバーもいた。ちなみに私は『深い河』は読んだが、『深い河』のほうが、まだ物語として純粋におもしろいと感じられた。『沈黙』は重すぎて重すぎて。とはいえ万人が読むべき名著だろう。

好みでない理由:本当に起りそうなのが怖い

以前から、同紹介者からは何度も話題に上る本書。それだけ、本書の持つ内容に衝撃を受けたらしい。

一見極端に見える思想統制社会だが、部分的には現実社会にも似たようなケースが指摘される。人々が知らず知らずに思想統制を受ける過程は、とても他人事だとは思えない。仮に思想統制社会が来ようとも、隠し持っておきたい一冊だ。

以上、5人で合計8冊(+1本)。傾向としては、本心では避けたいけれども、通らずにはいられなかった名著・名作が揃った。気の迷いで読んでしまったり、作品のエネルギーが強すぎてページを閉じることもためらわれたり。皆の経験談がまるでホラーを語っているようだった。

皆それぞれイヤイヤ言いながら、いつになく熱い口調だったのが印象的だ。好きなものよりも嫌なもののほうが口が軽くなるのかもしれない。そして嫌というわりに褒めるのもおもしろかった。この読書会も長くなってきたが、今回の企画は過去一レベルで大当たりだったと思う。

自由紹介型、課題本設定型に加えて、テーマ設定型という新たな手法を取り入れた今回。これに味をしめ、次回も「好きだけど人には紹介しづらい本」というテーマで開催する予定だ。テーマがテーマなだけに内容は身内だけにとどめて、ブログの取りまとめはしないかもしれないが、ますますパワーアップした本読書会のレポートはこれからも書いていくつもりだ。

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