【出版社の場合】編集者から見た、真似したい・そうなりたい編集者ってどんな人?
実はざっくり見積もって30年、出版の世界に住まう私。いつもアタフタしているのでとてもそうは見えないのですが、けっこうなロートルです。平成が始まってまもなく社会人になり、失敗も成功らしきものもそれなりに場数を踏んで経験値は上がっているはずなのに、なぜかそれが風格としてオモテに出ないようで、軽く扱われては「え? え?」とキョドってるのがよくないな、と夜ひとりでクヨクヨ考えてしまいます(そんな時は、ネトフリで『ハリー&メーガン』を観よう!)。
マルチーズ竹下と申します。東京のわりあい大きめの出版社で、書籍の編集をしています。20~30代は雑誌編集部で(まだ「紙」の時代です)、漫画、子育て系、週刊誌などを編集していました。40代からは業界誌、単行本(何冊か小説も)、企画物の全集などにかかわり、今は主に食べ物・健康・生きにくさなどをテーマとした実用書を作っています。その間、いろんなタイプの編集者を見てきました。
そこで今回は、同業者で真似したいタイプ、そうじゃないタイプ、について書こうと思います。
まず筆頭にあげたいのは、私に編集のいろはをイチから教えてくれたSさん。Note記事『コンプラ的には最悪だったけど今なら感謝しかないと思える編集長Sさんのこと。』内で、Sさんの金言とムチャぶりをまとめています。
そう、当時は、彼レベルの誰もが屈服せざるを得ない編集能力と実績があれば、多少、人格面でアレでも、本は作れた。
しかし。カリスマはそうそう誕生しないからカリスマなのであって、今からカリスマを目指すほどの時間も根性もセンスも私にはありません。だからSさんは圏外として、ふたりの編集者さんについてお話ししたいと思います。
まず、もう定年退職されたHさん。彼は長らく販売部門にいたのですが、なぜか50歳を過ぎてから文芸雑誌へ異動に。こういっちゃなんですがSさんとは真逆で、仕事ぶりはどんくさいな・・・・と感じるシーンが多かった。自分で作家を積極的に見つけ出すわけでもなく、だからといって有名どころを口説くに行く大胆さもない。割り当てられた作家さんと、適度な距離を保ちながらまあまあうまく付き合い、原稿を取れればいいと思うタイプの編集なんだな・・・・というのが私を含め職場の共通したHさん観だったと思う。
ところがある有名作家にインタビューに行ったとき、突然Hさんの名前が出てきたのです。「Hさん元気?」と。「ちょっと前にね、世話になったんだよね」と。聞けばその作家さん、数年前に大金の絡んだ恋愛沙汰を起こし、家族と疎遠になられたそうです(この部分はあえて事実と違えて書いてます)。そこで橋渡し的な役目を負ってくれたのがHさんだったとか。当時、人気に陰りが出て、本も売れず、〝落ち目〟と評されることもなくはなかったうえに個人的なトラブルを抱えにっちもさっちもいかなかったその作家さんいわく、「Hさんはねー、何も聞かずにね-、言われたとおりのことを言われたとおりにしてくれるんですよ。それがね、僕にはありがたかったの。他社の編集さんはさ、離れていくか、面白半分に首を突っ込むかだったのにね」。ほぉ・・・・Hさんが。あのHさんが。あでも、Hさんらしいといえばらしいかも。その後もHさんはたいしてパッとせず(←失礼!)定年を迎えられるのかなーと思っていたら、その作家さんと再び組んで出した小説がヒットして、最後に花火を上げて出版業界を去って行かれたのでした。
デキる編集者というと、豊富なアイデア出しとか、仕事が早いとか、上手にチームを運営するとか、言葉のチョイスがうまいとか、華やかなところばかりクローズアップされますが、作家はそこだけを見て信頼を寄せるわけじゃない。何かと一段低く、ないがしろにされがちな〝誠実さ〟〝無骨さ〟みたいなものも武器になるケースがあるのだと、Hさんは教えてくれたと思うんです。Hさんとその作家さんが花火を打ち上げたとき、私、「あの時の恩返しだ!」と震えましたもん。
もうひとりは、内輪になりますが、編プロのケーハクさんです(笑)。この方はごぞんじのとおり優秀な編集者でありまた動画制作にも長けた多芸多才な方なのですが、「パスが早い」んですよ。ボールを長く持たないんですね。これ、チームで動く実用書制作の現場では、すごく大事なことで、私はそのコツをケーハクさんの動き方から教えられました。
実用書には多種多様なプロがメンバーとしてかかわっています。著者、デザイナー、カメラマン、イラストレーター、ライター、校正者、編集者・・・・。限られた期間内でこれらのメンバーが有機的に、そして締切に間に合うように動くためには、編集者が要所要所で的確な指示と判断を出さなければなりません。この要所要所というのが、まあほぼほぼ、考えるとアタマが痛くなる事案だったりします。でも長く悩んだりほったらかしておけば、その分だけメンバーが足止めを食らいます。そう、お悩み時間はほどほどに! それが実用書づくりの鉄則だと身をもって教えてくれたのがケーハクさん。「あ、そろそろ・・・」と思う1日前にはケーハクさんがパスを投げてくれるのです。これがなかなか気持ちヨイ! 私はキホン怠け者でめんどうくさがりなのでついついボールを視界のすみっこに置いておきがちなのですが、そんな時はケーハクさんになった気分で重い腰を上げるのです。
あれ? 苦手な編集者についても書こうと思っていたのですが、そろそろ文字数的に終わりが見えてきました。好きなタイプについて与えられた場を使い切ってしまうのは、幸せなことですよね。
さて、2022年の残りも、粛々とやりましょう。
文/マルチーズ竹下
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