2024年11月施行のフリーランス新法で編集者がすること
2024年11月からフリーランス新法(フリーランス・事業者間取引適正化等法)がスタートします。
これにより、フリーランスの方と仕事を始める前に書面等を送付したり、契約書を交わしたりすることが必要になります。
弱い立場のフリーランスを保護する法律
副業が一般的になり、フリーランスとして活躍する人が増えてきています。
受注側のフリーランスは立場も弱く、また法律などの情報に詳しくない人がほとんどです。フリーランスを守るため、業務委託するときの法律ができました。
発注側(企業側)の担当者によっては、クライアントという強い立場を理由に、ムリなことを強いる人がいました。
たとえば、
・とても低い額の報酬
・報酬の減額(フリーランス側に落ち度がないのに)
・やり直し(フリーランス側に落ち度がないのに)
・発注の取り消し(フリーランス側に落ち度がないのに)
・支払いの遅延
などです。
上記のようなハッキリとしたトラブルでなくても
・最初の報酬の提示が曖昧だった
・業務内容が曖昧でスタートし、実際に取りかかったら仕事量がとても多かった
・「これはクライアントの仕事だろう」という仕事まで押しつけられた
・報酬の支払いが6か月も後になっている
・最初の仕様から大きく変わり、大幅な修正に対応したのに増額がなかった
のようなトラブルが絶えない状況でした。
これらのようなことをなくし、フリーランスが安心して働ける環境を整えるために、フリーランス新法が定められました。
書面が義務化された
フリーランス新法にて、書面等の送付が義務化されました。
仕事を始める前に取引条件を明示し、承諾されることが必要になったのです。
取引条件に含める必要があるものは、
・業務内容
・報酬額
・支払期日
などです。
フリーランス新法にて、注意が必要なのは、支払期日が基本的に納品から60日以内と定められていることです。
請求書の発行日や締日からではなく、納品日からのカウントですから、「支払いは翌々月末」のような発注はできなくなります。
対象者はフリーランスに発注している「事業者」です。
事業者のため、消費者は含まれません。
たとえば、個人のホームページに使用するイラストをイラストレーターに依頼した場合は、フリーランス新法の対象にはならないため、書面の明示は不要です。
この書面は、メール等でも問題ないみたいですが、メールの本文ではなく、添付ファイルとして送付するほうがいいようです。
フリーランスが保存できるという前提があるためです。
契約書でしたら、さらにいいでしょう。
「雑誌に掲載する2500文字の記事の原稿」という業務を例に、少し詳しく見ていきましょう。
○業務内容
発注内容:「雑誌△△の◇◇特集」2500文字
納入方法:Word書類のメール添付
※「25文字×100行」などとあるとなおよい
○納期
納期:202○年○月○日
○報酬
○○円(消費税別)
○支払期日
支払期日:202○年○月○日
※原則、納品日から60日以内
○支払方法
支払方法:指定する金融機関への振込。
※振込手数料の負担についても記載されているとなおいい
上記が基本的な項目でしょう。
さらに、著作権についても触れる必要があるようです。
「著作権は譲渡する」
「原稿は、『○○雑誌』のみに使用する」
といった文面も必要になると思います。
文章のクオリティを確認する「検収」についても何日間で行うか、また「修正」についても何回行うかまでが書かれていると、さらにいいみたいです。
これら以外にも、個別に出てくる要素がある場合は、それらも書面に加えていくことになるでしょう。
仕事のクオリティ
上記に「検収」や「修正」について触れましたが、出版業界を含めコンテンツ業界では、クオリティの判断が難しくなります。
たとえば、本や雑誌は「読者のためになる情報をわかりやすく掲載する」からこそ、読者はお金を払って本や雑誌を購入しています。
ですから、ライターが提出した文章が、「読者のためになるとは思えない」「わかりにくい」と判断されたら、修正依頼が生じるのはしかたないことでしょう。
しかし、その基準がハッキリとしていません。
これまでに刊行している本や雑誌のクオリティにあわせるのが基本ですが、それでもハッキリと示すということはできないでしょう。
そこが難しいところです。
現実問題としても、クオリティの判断が難しいため、記者や編集者、デザイナーなどは労働基準法の例外が適用できる業種に指定されています。
通常は、何時間働いたかという「時間」で賃金が決まりますが、記者や編集者は「仕事をした内容(成果物の完成)」で判断することができるという例外があるのです。
たとえば、1日で書き上げられると想定される原稿を、5時間で完成させようと、9時間で完成させようと、給与としては7時間働いたということが認められる「裁量労働制」という労働基準法の例外を適用できる仕事なのです。
このような特殊な仕事であるため、業務内容のクオリティを、具体的に明文化することが難しくなっています。
基本的には、発注サイドがクオリティの合否を判断し、修正依頼が出るのですが、それにどこまで対応するかが問題になっていくと思います。
やはり、これまでに刊行されている本・雑誌のクオリティに照らし合わせることがベースになるでしょう。
これまでも下請法という似た法律があった
じつは、これまでも、「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」という法律で、弱い立場にある受注側の中小零細企業やフリーランスを守る法律はありました。
しかし、下請法の対象は、発注サイドの資本金が1000万円【超】。そのため、資本金1000万円ちょうどの企業は対象から外れていました。
小さな出版社や編集プロダクションには、資本金が1000万円以下のところが多く、それらの企業には、書面の交付義務がなかったのです。
今回、定められたフリーランス新法では、すべての事業者が対象となります。
すべての出版社、すべての編集プロダクションがフリーランスに発注する際に、書面等の交付が必要になるのです。
フリーランスに発注する機会が多い編集者は、この法律を理解する必要があります。
編集者にとって、また法律の勉強が必要になったということです。
文/ネバギブ編集ゴファン
実用書の編集者。ビジネス実用書を中心に、健康書、スポーツ実用書、語学書、料理本なども担当。編集方針は「初心者に徹底的にわかりやすく」。ペンネームは、本の質を上げるため、最後まであきらめないでベストを尽くす「ネバーギブアップ編集」と、大好きなテニス選手である「ゴファン選手」を合わせたもの。
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