フードエッセイ「アイスクリームが溶けぬ前に」 #29 鎌倉パスタ
「二兎を追って一兎を得ず」なんだけど、二兎を得たくなるときがある。
そして、二兎を追って二兎を得られる可能性が高いのが、食なのだとつくづく思う。
グルテンフリーという言葉を聞き始め、自分なりに考えて、小麦系を食べる頻度を減らしている。リミッターを自分の中に設置して、胃もたれしているときは野菜中心にしたり、食事の時間をずらしたりと、年齢や体の調子にお伺いを立てながら日々の食事を考えるようになった。
久々にグルテンリミッターを取っ払いたいと思い、パスタを頼みながら、美味しいパンも食べ放題できる「鎌倉パスタ」への行きたい欲が沸々湧き上がっていた。東京時代、最寄駅すぐ近くにあって以来、実に5年以上訪れていない。当時、大学卒業してまだまだ食べ盛りで、店員さんが自分のお腹の具合を見計らいながら、焼きたてのパンを持ってくる攻防が密かな楽しみだった。
「(パスタ屋の)鎌倉パスタのパンは美味しい」という忘れられない記憶を、もう一度確かめておきたくて、久しぶりに入店。大学生くらいまではトマトソース系のパスタ一択だったが、20代後半になると、自分ではなかなか作らないクリームパスタの美味しさに目覚めた。今日も明太子が入ったクリームパスタで、フィットチーネをチョイス。生パスタできしめん調のタイプがあれば、迷わず飛び込んでしまう。
パスタが美味しいだけでなく、パンが美味しいという二枚看板があれば、待ち時間だって飽きない。パンがずらっと並べられているのだから。米粉パン、コーンのフォカッチャ、明太子ロールにバジルロール、メロンパンまで。タイミングが合うと、店員さんが席を巡回し、焼きたていかがですか?と勧めてくれる。勧められたら断りにくくなる人間の性(さが)をうまくついた、お店側の戦略なのか…と思ってしまう。
そうこうしているうちに、メイン料理の登場。
エビのピンク、アスパラの緑、ノリの黒、フィットチーネの黄色の鮮やかなパスタさん。ブラックペッパーと明太子、生クリームの混ざり合う世界は、共存と補完の象徴だ。具材を全て食べ終わったら、残ったソースにパンをつけて「きれいに完食」というゴールに向かっていくだけ。
「何かを我慢・制限する代わりに、ご褒美を与える」という交換条件を食という舞台で設定することもあるけれど、その制限は重すぎると、かえってしんどくなる。無理をしすぎず、自分の体の調子と発しない声に耳を傾けながら、今日何を食べるか決めていく。さて、今夜は何を食べようか。
ごちそうさまでした。
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