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フードエッセイ「アイスクリームが溶けぬ前に」 #30 カレーと喫茶あまりろ(静岡)
優しさ、繊細さ、丁寧さを感じる料理は、
作ってくれた人の姿勢や心遣いを、料理越しに想像してしまう。
茶色と白の内装が、どこか地元の居心地のよい場所に重なり、はじめてのはずだけど、帰ってきた感が漂う。オープンキッチンを囲うようにL型カウンターにおひとり様や親しい二人組が並び、カウンターコーナーの足元には店主の愛犬がお行儀よく座っている。愛犬の様子を見るだけで、皆にとってのホームグラウンドなのかもしれないと思う。
今回の舞台「カレーと喫茶あまりろ」は、自家製カレーとキーマカレー、気まぐれカレーをメインに、チーズケーキとジェラート、自家製チャイなどの喫茶としての顔を持つ。
「はじめての方は2種盛りを」というメニューの忠告に従い、迷うことなくオーダー。「次はソファ掛けのカップルのところへお願いします」「卵を用意してもらっていいですか?」「熱いので1つずつで…!」という店主とスタッフのやりとりをカウンター越しに見ていたら、あぁこのやりとりはずっと見ていられる…と浸っていると、「カウンターの2人組、2種の大盛りの方を先にいきますね」という声が飛びこむ。
勉強の手を止め、いつ来てもいいようにスタンバイ完了。
料理が目の前に運ばれた瞬間、食べる前なのにこのカレーへの懐かしさと親しみを覚えた。これは「好きなカレー」だ。キーマカレーは、いろんな野菜と挽き肉の中に椎茸が入っていて、甘くもなく辛くもないちょうどよい味付け。
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一方の自家製カレーは、実家でよく作ってくれたカレーと重なるくらい、オーソドックスな布陣。でも食べ進めると、細部にこだわりが宿っていた。
なんだこのカレーの奥行き、うま味の方程式は…と解を想像しながらブイヨンベースか?と思った「味の深み」の正体は、椎茸でとった出汁やうま味。ニンジンとジャガイモは、最初から炒め煮したわけではなく、茹でて火を通してから後で加えたのでは…?と推理しながら食べていく。
あいがけカレーの面白いところは、終盤になると2つのカレーの国境がなくなり、混ざり合うところだ。キーマカレーと自家製カレーを混ぜても、喧嘩せず融合している味に浸りながら食べ進めたら、あっという間になくなってしまった。
次はルーを持って帰りたい、これにナンがあってもいいし、絶対カレーうどんも美味しいなと、美味しい料理は妄想が広がる。自家製チャイとチーズケーキも欲張ってしまったが、欲張りたくなるくらい、カレーが美味しかった。味わい深い店内でのこの時間を、もっと噛み締めていたいんだと、心が訴えていた。
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優しい料理に出会うと、気持ちも行動も優しくなる。
帰りがけ、店主とカレーの答え合わせをした。あのカレーの深みが、ブイヨンではなく、しいたけの出汁と分かって、うわぁ…そっちか…となりつつ、こうして料理の裏側を考えながら作り手と時間を共有できることは楽しい。
美味しい体験と同時に、優しさのお裾分けをしてもらったことに感謝をしながら、今日もごちそうさまを伝えたい。
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