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さいさんの地方創生 note【多極分散へ。間違いだらけの政策とこれからを本気で考える③「一人の価値」】

多様性を尊び、教条的でないこと。
ただし、まとまらなければならないことがある。

コミュニティとしての魅力があること。
ただし、人と交流する人も、一人で過ごしたい人も共存している。

安宅さんの提唱した風の谷憲章にはこうした一文があります。今回の薩摩会議でも「疎」であり「密(スケール)」ではないというお話もあり、自分の中でつながり、言語化された部分もまたありました。

その一つが、昨今のソーシャル・スタートアップ界隈への違和感。

上場を狙う、インパクトの最大化を目指す。そんな言葉が飛び交い、最初から徒党を組み、大きな資金を調達し、ローカルからではなく都市から大々的にプロモーションを実施する。

とした前回。今回は、この続きをやっていきましょう。

☆すべては一人から始まる

トム・ニクソンの「すべては一人から始まる」では、その冒頭から

まだ存在しない未来を思い描き、それを現実化する人間の素晴らしい力(創造力)を発揮する。その人は工業化時代の「生活の為に稼ぐ」という考え方には従わないし、人生の安定の為に働いているわけでもない。また、お金を貯めて引退後の人生を楽しみたいと夢見ているわけでもない。まさに今この瞬間、充実して生き、存分に創造性を発揮しているーそしてそれを楽しんでいる人。

という一文で始まっていきます。このソース(source・源)と呼ばれる人々は、未来を思い描き、現実化していく人と定義できるし、いわゆるイノベーターと呼ばれる人にも当てはまることもまた多いでしょう。

そして、全てはこうしたたった一人の想像から生まれていくことを認識し、今存在しない「何か」への「願い」「想い」が現実になる手助けをしていく。そのプロセスもまた大事に・・ということです。

その好例としていえば、うちの地域・期間限定で販売される「スパイスかおるリンゴジュース」という大人気な商品があります。

このリンゴジュースは、ただ一人の女性の「願い」から始まりました。
そのきっかけは、長野での風物詩のようでもあるりんごの「埋葬」です。台風などの気象被害で収穫前に落ちてしまったりんごの多くがただ埋められてしまうことを皆さんはご存じでしょうか?

落ちた、傷がついた。こうしたリンゴを加工用でJAに引き取ってもらおうとするとキロ10円みたいに農家の足元をみた価格(100キロ拾って1000円)にしかならず、多くの農家が諦めて埋めてしまう。そんな現実があるわけです。特に流通量の最も多い「フジ」は糖度が高すぎてジュースには向かないこともあって、よりこの傾向が顕著になるというわけです。

そこで彼女はこの埋められてしまう「フジ」のリンゴを引き取って、自ら加工場に持ち込み、甘すぎるジュースにならず、おいしく飲めるための工夫としてスパイスを加え、村で生産していた地場のメイヤーレモンをいれることで新しいリンゴジュースの開発をやり遂げました。
 
とはいえ、最初に加工場で最小の1ロットだけ作ったものが飛ぶように売れるわけもありません。コツコツとコツコツと地域のマーケットに出店し、天売でこの1ロットを売り切った。ここがとても重要なところです。

先頭に立って汗をかく個人に対し、人は応援したい、何かできることがあれば協力したい・と感じる生き物だからです。そして実際、彼女に様々な助言をする人や正解っぽいものを伝えている人が出始めてきました。

スパイスかおるりんごジュース

☆最大幸福度という尺度

彼女がうちにこのジュースをこれからどうしていくか?という相談に来たのはこうした背景の中にあったわけです。

そこで僕がまず大切にしたのは、彼女自身のライフスタイルでした。

例えばこうしたケースではお役所系やそれっぽいコンサルはすぐにスケールを求めてきます。とにかく一杯、たくさん売る(そして値段を下げて利益を薄くしようとする)のが正義というわけです。

僕の方でいくつかの試算をしてみましたが、正直、この前提では彼女の手に乗るお金がまったくといってよいほど増えません。なぜかこうした方々は「地域の為に」一般人がこうした苦労や負担を背負うべきというポジションをとりますが、それこそが地方衰退の原因です。

彼女の最大幸福度に近づくバランスはどこなのか?

僕はこの出発点こそが、地方のこれからにとってまず必要なマインドセット(考え方)だと思いますし、最近は確信といえるところまで自信を深めているものです。

そして現在も、この「スパイスかおるりんごジュース」は発売即完売と言える状況が続いています。

作ったら売れている状態というマーケティングの基本を踏襲し、売り先との関係性を構築し、余ることのない(在庫をもたない)状態で、限界利益を計算し、適切な値決めをしただけではなく、彼女の手間を最小化し、時間という可処分所得を最大化した状態をつくったわけです。そして地域に長く愛される商品となり、毎年、この商品が出てくるタイミングを待ち望んでいるファンに支えられています。

☆実際には真逆の政策がほとんど

さて、こうした小さなソース(source・源)による未来変化は、地方創生のカテゴリーで相応に評価をされたり、注目されたりすることは少ないのが現状でもあるわけです。

専門家と称する方々や学者さんたちは相も変わらず、瞬間的な爆発力や話題性にその評価軸を置いてばかり。皆さんの記憶にもまだ思い返すと出てくるところかと思いますが、彼らが推奨、絶賛したかつてのB級と呼ばれる食品開発競争やゆるキャラによるコンテスト、あるいは一瞬バズっただけのYouTube等、大手広告代理店を入れてメディア展開したあの騒ぎがいったい何をもたらしたでしょうか?
 
持続することなくあっという間に廃れていって、費用対効果として実のある結果には全くなっていないわけです。しかし、今やどこ吹く風で新しいワードやそれっぽい地域を取り上げてその消費を相も変わらず、繰り返しているばかりと言えるでしょう。

上手くいっていることは伸ばしていく(Do more)。
上手くいかなかった時は違うことをやる(Do something else)。

こうした反面教師的なFACT視点とこの二つの原則から考えれば、今後の地方創生における力点は明らかです。

つまり、こうした小さなソース(source・源)にきちんと投資をして、複層的、重層的に小さな未来変化を重ねていく環境を加速させていくこと。これをいかに速やかにやるかという時間勝負になっていると感じます。

*続きます!


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さいさんの地方創生Diary 「現場とFACTが示す選択肢とは?」
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