【総評】第21回アカデミー賞
みなさんこんばんは。
今回は1948年の映画を対象とした第21回アカデミー賞の総評と個人的ランキングを書いていこうと思います。
総評
この回は耳と口が不自由な少女の苦難を描いた『ジョニー・ベリンダ』が最多の12部門ノミネート、そして作品賞に輝いた言わずとしれたシェイクスピアの『ハムレット』は非ハリウッド映画(イギリス映画)として初めての作品賞受賞となりました。
そして『ハムレット』の監督と主演をつとめたローレンス・オリヴィエは監督賞と演技賞に同時ノミネートされた初の人物となりました。
また、今回から衣装デザイン賞が新設され、白黒部門を『ハムレット』、カラー部門を『ジャンヌ・ダーク』が受賞しました。
個人的ランキング
さて、10作品の選定ですが、まず作品賞にノミネートされたのは以下の作品
『ハムレット』
『赤い靴』
『黄金』
『ジョニー・ベリンダ』
『蛇の穴』
そして作品賞にはノミネートされていませんが監督賞にノミネートされたのが
『山河遥かなり』
残る4作品はノミネート数で決めます。7ノミネートの『ジャンヌ・ダーク』、5ノミネートの『ママの想い出』、3ノミネートの『裸の町』までは順当です。2ノミネートの作品が6作品あります。
『皇帝円舞曲』
『ジェニイの肖像』
『赤い河』
『異国の出来事』
『洋上のロマンス』
『When My Baby Smiles at Me』
ですが、唯一受賞を果たしているのが視覚効果賞をとった『ジェニイの肖像』なのでこの作品とします。
ということで、ランキングの対象とする10作品は
『ハムレット』
『赤い靴』
『黄金』
『ジョニー・ベリンダ』
『蛇の穴』
『山河遥かなり』
『ジャンヌ・ダーク』
『ママの想い出』
『裸の町』
『ジェニイの肖像』
とします。
第10位『ジャンヌ・ダーク』
紛うことなき駄作。今回の10作品ではダントツの大駄作。『風と共に去りぬ』『オズの魔法使』のヴィクター・フレミング監督✕イングリッド・バーグマン主演の伝記映画。 誰もが言うところだと思うけど、まあ「ミス・キャスト」という一語に尽きる。スウェーデン人であるバーグマンがフランス人のジャンヌ・ダルクを、それも少女期から演じるというのは無理がありすぎる。 演出自体はそんなに悪いとは思わないが劇伴がうるさい。また途中経過が雑でダイジェスト的。ジャンヌに反感を抱いていた将軍たちがいつの間にかジャンヌを認めてたり雑な部分は雑だし、裁判のシーンがやたら長い。
第9位『裸の町』
アメリカ映画史上初めてオールロケで撮影された作品で、撮影賞と編集賞を受賞している。
コメディタッチのナレーションや物語自体の(やや地味ではあるが)面白さもあり、一風変わったノワールに仕上がっておりなかなかよい。
第8位『ママの想い出』
監督は『陽のあたる場所』『ジャイアンツ』などの巨匠ジョージ・スティーヴンス。カトリン・フォーヴスの自伝的小説を戯曲化したものの映画化。(ややこしい)
たくさん兄姉がいて語り手の少女が小説家志望というのは『若草物語』っぽいなと思って観ていると終盤がっつり『若草物語』オマージュの部分があるので笑ってしまった。
ハートウォーミングなホームドラマで、愛すべき小品。
第7位『山河遥かなり』
『地上より永遠に』『わが命つきるとも』で二度の監督賞受賞の名匠フレッド・ジンネマンの戦争映画。第二次世界大戦終結後のドイツで生き別れた母と息子がそれぞれを探す物語で、原題はずばり『The Search』。
抑えに抑えた演出で母の秘めた深い息子への愛情、息子の傷ついた心を丁寧に描き出すことに成功している。地味ではあるが心に染み入る繊細な演技やセリフが素晴らしい。
戦争が残す心の傷を丁寧に描いた佳作。
第6位『ジェニイの肖像』
第10回ヴェネツィア国際映画祭で男優賞に輝き、アカデミー賞では視覚効果賞を受賞した作品。監督は『ゾラの生涯』『科学者の道』など伝記映画を得意としたウィリアム・ディターレ。
ただし本作はファンタジック、というかファンタジー映画。時空を超えた二人の交流を通じて今まで見つけられなかった愛を知るという物語で、視覚効果賞を受賞しているだけありファンタジックな視覚効果が素晴らしい。
思った以上に深い語りかけをしてくる作品で、いい意味で期待を裏切られた。とてもよくできた作品。
第5位『黄金』
主演のハンフリー・ボガートがノミネートされなかったのはアカデミー賞最大の汚点とされるほど評価の高い作品。監督は『マルタの鷹』『女と男の名誉』などのジョン・ヒューストン。監督賞、脚色賞、助演男優賞の3部門を受賞した。
また助演男優賞のウォルター・ヒューストンは監督ジョン・ヒューストンの実の父親で、史上初めて親子が同一作品で同時受賞した作品となったことでも知られる。
黄金に取り憑かれていくハンフリー・ボガートを劇的に描いた優れたフロンティアもの。最近だと『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』に近いものがあるかな。
また特にいいと思ったのがメキシコ人の描き方。一方的に悪役として描くのではなく、しっかり「人間」として描かれていて好感が持てた。
まあただ世間の評価ほどにはすごい作品だとは僕は思わなかったかな。面白かったけど。
第4位『ジョニー・ベリンダ』
いやー、これはなかなか観ていて辛い作品だった。ジェーン・ワイマンがろう者の少女を演じ主演女優賞を獲得した。奇しくも今年のアカデミー賞では『コーダ あいのうた』で実際にろう者である俳優が起用され受賞もしていて、それを考えると複雑な作品ではある。でもジェーン・ワイマンはすさまじい演技を見せるので主演女優賞も納得。
本作はカナダで起きた実際の事件を基にしているとはいえ、レイプシーンや村人の悪意を明確に描き、当時ハリウッドを縛っていた「ヘイズ・コード」の緩和に繋がった作品とも言われる。
女性には辛い作品かもしれないし、実際にろう者ではない女優がろう者を演じることの問題というのはあるにしてもかなり心にズシンとくる、印象に強く残った作品になった。
第3位『蛇の穴』
これまた女優の演技がすごい作品。精神病院に入れられてしまう女性を演じたのは二度の主演女優賞受賞を誇るオリヴィア・デ・ハヴィランド。監督のアナトール・リトヴァクはロシア人ということもあって他のハリウッド監督とはまた違った面白い演出をする。
オリヴィア・デ・ハヴィランドの凄まじい演技を堪能するだけでも楽しいのだが、アーティスティックな画面作りや一風変わったカメラワークという演出面でみてもなかなか面白い。
物語も重いスリラータッチではあるが捻りがあって面白く、精神病院という場所の過酷さを描いた作品として見応えがあった。
第2位『赤い靴』
これは1位にしようか迷ったレベルで好きな作品。この年の作品賞候補の中で唯一のカラー作品。まず監督は『黒水仙』(大好き)『血を吸うカメラ』(大好き)のマイケル・パウエルとエメリック・プレスバーガーで、本当にテクニカラーを駆使した凝りに凝った色彩表現が素晴らしい!
この物語はアンデルセン童話の実写化ではなく、翻案作品というのが正しい。童話の「赤い靴」を踊ることになったバレリーナが追い詰められていく悲劇で、童話をなぞりながらも芸術というものの悲劇性をメタ的に描いた傑作。
中盤の17分間にも及ぶ劇中バレエ「赤い靴」のシーンは圧倒された。世にも美しく恐ろしいシークエンスは圧巻で、本作が映画デビューとなったバレエダンサーのモイラ・シアラーのパフォーマンスも素晴らしい。
第1位『ハムレット』
1位にはやはりこれを選んでしまった。ローレンス・オリヴィエ版『ハムレット』!監督賞こそ逃したものの、作品賞、主演男優賞、美術賞、衣装デザイン賞と最多4部門を受賞した名作。ちなみに第9回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と女優賞にも輝いている。
陰影のくっきりとした美しい白黒撮影、そして豪華な衣装が素晴らしい。また演出も非常に優れていて、空間の見せ方が特に上手い。階段や廊下などを効果的に使い言語化されないニュアンスを演出する手腕は本当に凄い。
最近ジョエル・コーエンの『マクベス』があったが、この白黒撮影の美しさはこの『ハムレット』をかなり意識しているのではないか。
やっぱりローレンス・オリヴィエって天才だなあと思い知らされた。本当だったら監督賞も受賞していいほどの演出力。作品賞の名にふさわしい名作。
ということで今回は第21回アカデミー賞の総括をしてみました。ちなみに『ハムレット』は上述の通りイギリス映画ですが、『赤い靴』もイギリス映画。それに対するのが『黄金』ということで、今の『黄金』に対する評価もイギリス映画への対抗意識があるのかもしれませんね。
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