日本未公開…映画祭映画のススメ
みなさんこんばんは。
本日は東京国際映画祭や大阪アジアン映画祭などで公開されたものの、結局劇場公開されなかった傑作映画について書いていこうと思います。
『ゴーストタウン・アンソロジー(Ghost Town Anthology)』(ドゥニ・コテ / カナダ)
第69回ベルリン国際映画祭コンペティション出品作で、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映されました。
カナダの異才ドゥニ・コテ監督は世界的に評価の高い存在ながら日本では『ヴィクとフロ、熊に会う』という作品しか紹介されていません。
『ヴィクとフロ、熊に会う』がすごく好きな作品だったので期待して観たのですが、期待を軽く超えてくる素晴らしい作品でした。
ザラッとした質感の画面に、監督独特の世界観があたかも「普通」であるかのように入り込んでくる。そんな特徴があるように思います。
最初は何か越しにしかみえない「ゴースト」たちが段々と現実を侵食し、最後には普通にそこら中にいるようになるのです。
世界には実は生と死、現実と非現実の境界なんてないのかもしれない、そんな不思議な考えにまで至る作品です。
『スウェット(Sweat)』(マグヌス・フォン・ホーン / スウェーデン)
コロナによりカンヌ国際映画祭が中止となった際に公式選出作として選ばれた作品です。東京国際映画祭TOKYOプレミア2020で上映されました。
そして現在動画配信サービスのJAIHOにて配信中です。こちらは期間限定ですのでお早めにご視聴されることをオススメします。
SNS時代で現実とネット上の姿のギャップに悩むというのは最近よくある話ではあるのですが、そこにストーカーの男との不思議な関係を描き一歩抜け出した作品になっています。
そしてなにより画面がとてもシャープで美しい。色彩が鮮やかで画面が常に華やかです。
一見華やかにみえるインフルエンサーの心の闇、というより心の穴を深く丁寧に描写してみせたこの監督は相当な腕があると思います。
彼女には父親はおらず、母親がいるのですが、その母親はよく見ていると新しいボーイフレンドに夢中で一度も彼女の目を見て向き合ってくれません。
現代人の抱える孤独とその修復を鮮やかに描き出した秀作だと思います。
『トラブル・ウィズ・ビーイング・ボーン(The Trouble with Being Born)』(サンドラ・ヴォルナー / オーストリア・ドイツ)
第70回ベルリン国際映画祭エンカウンター部門で特別審査員賞を受賞した作品で、東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門で上映されました。
こういうこと書くのはあまりよくはないけれど、サンドラ・ヴォルナー監督、めちゃくちゃ知的な美人なんです!この人がこういう作品をつくるのかというのは納得度が高い。
僕はこれ、かなり時系列がシャッフルされていると思っています。そうじゃないとおかしいシーンがかなりあるんです。
少女型アンドロイドというペドフィリアを序盤は描きつつも、途中から少女の心(はないはずだけど)の旅になっていくという展開が面白かったですね。
画面がとてつもなく美しい。わけわからないと感じる人、気持ち悪いと感じる人もいるかもしれないけど、この監督は間違いなく伸びる存在ですよ。とにかく映像センスが半端ではない。
この作品の軸にあるのは『スウェット』と同様に現代人の孤独であると言えるでしょう。一定層の人には刺さる作品だと思います。
『日子(Days)』(ツァイ・ミンリャン / 台湾)
第70回ベルリン国際映画祭コンペティション出品作で、東京フィルメックス特別招待作品として上映されました。
ツァイ・ミンリャンは『愛情萬歳』がヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、『河』がベルリン国際映画祭審査員グランプリ、『郊遊 ピクニック』がヴェネツィア国際映画祭審査員大賞を受賞している台湾の巨匠です。
と言っても日本では視聴困難な作品が多いですよね。その理由はなんといってもとても独特な長回しを多用したアーティスティックなつくりのせいでしょう。
本作もその例に漏れてはいないのですが、ツァイ・ミンリャンにしては筋を持ったアクセスしやすい作品になっていると思います。
というのもテディ賞を受賞していることから分かりますが、本作はゲイの中年男性と若者の話です。
ラヴ・ディアスと似た長回しの魔力があるんですよね。何か派手なことが起きるわけではなく、ゲイの男性二人が会って別れるだけの話なのになぜか面白いんです。
セリフもほぼなく、感情の起伏もないようにみえるんですが、何かが確かに二人の心に残ったかけがえのない夜のように思えるのです。
『家に帰る道(Way Back Home)』(パク・ソンジュ / 韓国)
アジアの新人監督の登竜門、釜山国際映画祭でワールドプレミアされ、大阪アジアン映画祭コンペティション部門来るべき才能賞を受賞しました。
地味で静かな人間ドラマながら、各々のキャラクターを繊細に、機敏に演出するその手腕は評価せざるを得ないでしょう。
なんてことないカップルの同居風景から、ある電話によって不穏な雰囲気になっているのですが、大袈裟な演出は控え静かな展開と描写の積み重ねで物語を紡いでいくのがとても上手いと感じました。
その演出は話題になった『はちどり』と似ています。ただやはり『はちどり』はそれに加えスケール感も同時に感じさせ、新人監督とは思えなかったですね。それに比べると少々小ぶりではありますが、確実に「来るべき才能」と言える存在ではないでしょうか。
『愛について書く(Write About Love)』(クリッサント・アキーノ / フィリピン)
フィリピン最大の映画祭、メトロ・マニラ映画祭にて特別審査員賞を含む七冠を達成し、大阪アジアン映画祭でもコンペティション部門でABC映画賞を受賞しました。
単独長編デビュー作ながら、「ラブコメ映画の脚本家のラブコメ」という変形ラブコメを陳腐になることなく、実に堂々とした手腕で仕上げています。
劇中劇とシームレスに繰り広げられるラブコメを巧みな構成力と脚本によって見事に演出しています。
愛するとはどういうことか、男女の「普通の」愛情だけでなく、友情や尊敬も同じく愛情なのだということが示される。
色々な愛の形を肯定してくれるような、観たあと爽やかに劇場を去れるような気持ちのいい作品でした。
僕は基本的にラブコメに興味はないのだけど、今のところ一番好きなラブコメ映画と言っても過言ではないです。