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アカデミー作品賞、個人的ランキング⑤(50位~41位)

みなさんこんばんは。
本日はアカデミー作品賞の50位~41位の作品を紹介したいと思います。

50位 『コーダ あいのうた』(第94回・2021年)

3ノミネート・3受賞
受賞
: 作品賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)、脚色賞
ノミネート : なし

他のノミネート作品
『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(12ノミネート、1受賞)
『ベルファスト』(7ノミネート、1受賞)
『ドント・ルック・アップ』(4ノミネート、0受賞)
『ドライブ・マイ・カー』(4ノミネート、1受賞)
『ナイトメア・アリー』(4ノミネート、0受賞)
『ドリームプラン』(6ノミネート、1受賞)
『ウエスト・サイド・ストーリー』(7ノミネート、1受賞)
『DUNE/デューン 砂の惑星』(10ノミネート、6受賞)
『リコリス・ピザ』(3ノミネート、0受賞)

 この回は前年に続きコロナの影響が大きいのですが、前年に延期された大作、期待作が続々公開されたこともあり、そこそこ面白い回だったかなと思います。
 しかしながら主演女優賞ノミネートの5人のうち作品賞の主演が一人もおらず、前哨戦の結果もかなり割れたのが特徴的です。
 ジェーン・カンピオンの『パワー・オブ・ザ・ドッグ』がすごい勢いで賞レースを席巻し、ぶっちぎり12ノミネートでしたが、監督賞しか受賞できませんでした。
 さて本作ですが、悪い作品だとは全く思っていません。むしろ劇場でしっかり泣きましたしね。ろう者の役者をつかった当事者キャスティングも今日的で、新人監督とは思えない素晴らしい感動作です。
 ただどうしてもリメイクというのが引っかかってしまいます。フランス映画『エール!』は本当に大好きな作品で、フランス映画の面白さに目覚めたきっかけでもあります。それを上手くアレンジしているとは思うのですが、どうしても『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のオリジナリティや完成度と比べると劣っているように思うのです。
 

49位 『レインマン』(第61回・1988年)

8ノミネート・4受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(ダスティン・ホフマン)、脚本賞
ノミネート : 編集賞、作曲賞、撮影賞、美術賞

他のノミネート作品
『危険な関係』(7ノミネート、3受賞)
『偶然の旅行者』(4ノミネート、1受賞)
『ミシシッピー・バーニング』(7ノミネート、1受賞)
『ワーキング・ガール』(6ノミネート、1受賞)

 この回は特筆すべきことはないですかね。順当に最多ノミネートの本作が最多受賞を果たしました。あえて言えば本作はベルリン映画祭の最高賞である金熊賞も受賞しているのですが、アカデミー作品賞と同時受賞した唯一の作品です。(ノミネートまでいったのは『いつか晴れた日に』『父の祈りを』などがあります。)
 ダスティン・ホフマンはサヴァン症候群の男を演じ『クレイマー、クレイマー』以来二度目の主演男優賞を受賞しました。本来なら弟役のトム・クルーズも助演でノミネートされるべきだったと思います。
 クスッと笑えて泣けるよくできたヒューマンドラマだと思います。兄弟二人の演技派素晴らしいですね。
 ただやはり病気の人を健常者が演じるということの危うさは今となってはありますし、少し演出にメリハリが足りないかなという印象を受けました。

48位 『グラディエーター』(第73回・2000年)

12ノミネート・5受賞
受賞
: 作品賞。主演男優賞(ラッセル・クロウ)、衣装デザイン賞、録音賞、視覚効果賞
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(ホアキン・フェニックス)、脚本賞、美術賞、撮影賞、編集賞、作曲賞、

他のノミネート作品
『トラフィック』(5ノミネート、4受賞)
『ショコラ』(5ノミネート、0受賞)
『エリン・ブロコビッチ』(5ノミネート、1受賞)
『グリーン・デスティニー』(10ノミネート、4受賞)

 この年はけっこう面白くて、スティーヴン・ソダーバーグが『トラフィック』と『エリン・ブロコビッチ』を手がけどちらも高評価、作品賞にノミネートされました。同じ監督の二つの作品が同時に作品賞ノミネートされるというのは珍しいことだと思います。また台湾の武侠映画『グリーン・デスティニー』が外国語映画にも関わらず10部門でノミネートされました。まあこれはアン・リーは『いつか晴れた日に』など英語作品も撮っていたのでできたことでしょう。
 あとはこの年のパルムドール受賞作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が歌曲賞でノミネートされており、主演のビョークが白鳥ドレスという(志村けんみたいな)独創的な格好で歌い伝説になりました。
 さて本作、リドリー・スコットが好きというひいき目もあり期待以上に楽しかったです。アカデミー作品賞にふさわしいスケールと堂々とした演出のある歴史大作です。リドリー・スコットはこのときに監督賞獲ってほしかったなあと思うのですが、実際受賞した『トラフィック』を観るとまあソダーバーグにいくよなと思います。
 ラッセル・クロウも素晴らしくカッコいいのですが、ホアキン・フェニックスの小物感あふれる悪役がよかったですね。

47位 『我が家の楽園』(第11回・1938年)

7ノミネート・2受賞
受賞
: 作品賞、監督賞
ノミネート : 助演女優賞(スプリング・バイイントン)、脚色賞、撮影賞、編集賞、録音賞

他のノミネート作品
『ロビンフッドの冒険』(4ノミネート、3受賞)
『世紀の楽団』(6ノミネート、1受賞)
『少年の町』(5ノミネート、2受賞)
『城砦』(4ノミネート、0受賞)
『四人の姉妹』(5ノミネート、0受賞)
『大いなる幻影』(1ノミネート、0受賞)
『黒蘭の女』(5ノミネート、2受賞)
『ピグマリオン』(4ノミネート、1受賞)
『テスト・パイロット』(3ノミネート、0受賞)

 フランス映画『大いなる幻影』は非英語作品として初めて作品賞にノミネートされました。最多受賞は『ロビンフッドの冒険』の3受賞でした。
 本作の監督、フランク・キャプラは『或る夜の出来事』『オペラハット』に続き三度目の監督賞受賞となりました。その他にも『一日だけの淑女』『スミス都へ行く』など映画史に残る作品を多く残す名匠です。
 内容は一風変わったホームドラマ+ラブコメといった感じで、一癖も二癖もある家族のとぼけたテイストがおかしい佳作といった感じでしょうか。他の作品賞受賞作品と比べるとかなり小粒という印象です。おそらく他に強い作品がなかった(『大いなる幻影』のノミネートもそれが理由?)ためにこの作品になったのではないかと思います。

46位 『紳士協定』(第20回・1947年)

9ノミネート・3受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、助演女優賞(セレステ・ホルム)
ノミネート : 主演男優賞(グレゴリー・ペック)、主演女優賞(ドロシー・マクガイア)、助演男優賞(ロバート・ライアン)、助演女優賞(アン・リヴィア)、脚色賞、編集賞

他のノミネート作品
『気まぐれ天使』(5ノミネート、1受賞)
『十字砲火』(5ノミネート、0受賞)
『大いなる遺産』(5ノミネート、2受賞)
『三十四丁目の奇蹟』(4ノミネート、3受賞)

 本作と『十字砲火』というユダヤ人差別問題を扱った2作品がノミネートされたのが特徴でしょうか。
 『波止場』といい『欲望という名の電車』といいエリア・カザン作品は本当に心を抉られます。『それでも夜は明ける』とか『夜の大捜査線』とか差別を扱ったものは観るのが辛くて、かなり後の方に観たのですがやっぱり辛かったですね。
 はっきり言葉に出してくれたらまだいいものの、言葉には出さない視線や言動といった映画的としか言い様がない演出で差別を描き出すのがまあ見事です。
 見て見ぬふりをする「いい人たち」によって差別が助長されていく、それは今にも全然通じるメッセージですよね。流石エリア・カザン、堂々たる社会派作品です。

45位 『ミニヴァー夫人』(第15回・1942年)

12ノミネート・6受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演女優賞(グリア・ガースン)、助演女優賞(テレサ・ライト)、脚色賞、撮影賞(白黒)
ノミネート : 主演男優賞(ウォルター・ピジョン)、助演男優賞(ヘンリー・トラヴァース)、助演女優賞(メイ・ウィッティ)、編集賞、録音賞、特殊効果賞

他のノミネート作品
『潜水艦轟沈す』(3ノミネート、1受賞)
『嵐の青春』(3ノミネート、0受賞)
『偉大なるアンバーソン家の人々』(4ノミネート、0受賞)
『The Pied Piper』(3ノミネート、0受賞)
『打撃王』(11ノミネート、1受賞)
『心の旅路』(7ノミネート、0受賞)
『希望の降る街』(7ノミネート、0受賞)
『ウェーク島攻防戦』(4ノミネート、0受賞)
『ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ』(8ノミネート、3受賞)

 もろ戦時下に制作された作品で、『カサブランカ』なんかとともにプロパガンダ映画とも言われる作品です。最多ノミネートで最多受賞を果たしました。主演女優賞を受賞したグリア・ガースンは5分半ものスピーチを行い、それによってスピーチの制限時間が設けられたという逸話もあります。また演技賞4部門全てでノミネートされた初めての作品でもあります。
 名匠ウィリアム・ワイラーの堅実な腕が光る作品で、プロパガンダ映画と言われていますが一方的にドイツ人を悪役にはしていないように思いました。勿論やっていることは悪役なんですが、「彼には彼なりの事情がある」という描き方をしていて、そこはさすがウィリアム・ワイラーだなという風に思いました。
 戦時下につくられたということを念頭に置いておく必要はありますが、戦争という苦難を生き抜く女性を描いた堂々たる作品だと思います。

44位 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(第63回・1990年)

12ノミネート・7受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞、録音賞、編集賞
ノミネート : 主演男優賞(ケヴィン・コスナー)、助演男優賞(グラハム・グリーン)、助演女優賞(メアリー・マクドネル)、美術賞、衣装デザイン賞

他のノミネート作品
『グッドフェローズ』(6ノミネート、1受賞)
『レナードの朝』(3ノミネート、0受賞)
『ゴッドファーザーPARTⅢ』(7ノミネート、0受賞)
『ゴースト/ニューヨークの幻』(5ノミネート、2受賞)

 ケヴィン・コスナーが制作・監督・主演をつとめた本作が最多ノミネートで最多受賞を果たしました。スコセッシはこのときにオスカー獲っておくべきだったなぁとは思います。
 まあでも本作は作品賞らしい作品賞です。予算をかけた美術に衣装、ネイティブ・アメリカンを従来の一方的な悪役ではなく善として描く社会性、過不足のない演出、圧倒的スケールの撮影と文句のつけようがないです。
 ただしネイティブ・アメリカン側からはその描写について疑問の声があるのも事実です。例えば彼らの言葉には女言葉と男言葉があり、本作の中では男も女もみんな女言葉で話していること、結局主人公が愛し合うのが白人女性であることなどです。
 文句なしに面白いですし、迫力のある撮影や編集は素晴らしいのですが、今となってはもう少し改良の余地がある作品だなと思い、このくらいにしました。

43位 『戦場にかける橋』(第30回・1957年)

8ノミネート・7受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、主演男優賞(アレック・ギネス)、脚色賞、撮影賞、作曲賞、編集賞
ノミネート : 助演男優賞(早川雪洲)

他のノミネート作品
『サヨナラ』(10ノミネート、4受賞)
『青春物語』(7ノミネート、0受賞)
『情婦』(6ノミネート、0受賞)
『十二人の怒れる男』(3ノミネート、0受賞)

 この回は日本にとっては非常に重要です。助演女優賞に『サヨナラ』のナンシー梅木、助演男優賞に本作の早川雪洲がノミネートされ、前者が受賞しました。これは第93回で『ミナリ』ユン・ヨジョンが受賞するまで唯一のアジア人受賞者でした。日本を舞台にした『サヨナラ』が最多10ノミネートされましたが、最多受賞は本作でした。
 デヴィッド・リーンはすごく好きな監督で、『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』は人生ベスト級の作品です。ただし本作はデヴィッド・リーンにしては…という感じです。
 作品賞らしいスケール感は確かにありますが、目新しさなら『サヨナラ』、話の面白さなら『情婦』の方が勝っていると思います。
 早川雪洲は素晴らしいですし、スケール感のあるカラー撮影もいいのですが、なんとなくピンと来ないんですよね。苦手な戦争映画だからというのもあるかもしれませんが。『アラビアのロレンス』『ドクトル・ジバゴ』で体感したようなスクリーンの特質を生かした素晴らしいショットの数々、まさにそこに自分もいるような感覚、スケールは大きいけど繊細で絶妙な演出というのが本作からは感じられないんですよね。

42位 『それでも夜は明ける』(第86回・2013年)

9ノミネート・3受賞
受賞
: 作品賞、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)、脚色賞
ノミネート : 監督賞、主演男優賞(キウェテル・イジョフォー)、助演男優賞(マイケル・ファスベンダー)、美術賞、衣装デザイン賞、編集賞

他のノミネート作品
『アメリカン・ハッスル』(10ノミネート、0受賞)
『キャプテン・フィリップス』(6ノミネート、0受賞)
『ダラス・バイヤーズクラブ』(6ノミネート、3受賞)
『ゼロ・グラビティ』(10ノミネート、7受賞)
『her/世界でひとつの彼女』(5ノミネート、1受賞)
『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(6ノミネート、0受賞)
『あなたを抱きしめる日まで』(4ノミネート、0受賞)
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(5ノミネート、0受賞)

 この回は革新的技術で描いた『ゼロ・グラビティ』が本命、SAGを受賞し俳優人気が高い『アメリカン・ハッスル』が対抗と思われており、本作を予想していた人はそこまでいなかったと思います。黒人差別を描いた深刻な内容、知名度不足な監督から作品賞は難しいとみるのが妥当でした。そして案の定『ゼロ・グラビティ』が技術賞を中心に最多7部門で受賞、監督賞も受賞しましたが作品賞は本作でした。
 確かに黒人差別を描いた重い内容ではあるのですが、同時に『SHAME シェイム』などスティーヴ・マックイーンの独特の作家性全開な作品でもあり、良くも悪くも非常に奇妙な作品ではあります。
 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『ネブラスカ』の方が作品としては好きなのですが、社会派であり作家映画でもある本作は作品賞としてはふさわしいと言えるでしょう。

41位 『バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(第87回・2014年)

9ノミネート・4受賞
受賞
: 作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞
ノミネート : 主演男優賞(マイケル・キートン)、助演男優賞(エドワード・ノートン)、助演女優賞(エマ・ストーン)、録音賞、音響編集賞

他のノミネート作品
『アメリカン・スナイパー』(6ノミネート、1受賞)
『6才のボクが、大人になるまで。』(6ノミネート、1受賞)
『グランド・ブダペスト・ホテル』(9ノミネート、4受賞)
『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(8ノミネート、1受賞)
『グローリー/明日への行進』(2ノミネート、1受賞)
『博士と彼女のセオリー』(5ノミネート、1受賞)
『セッション』(5ノミネート、3受賞)

 この回は演技賞候補者が全て白人であるということが非常に批判されました。とは言っても監督賞はメキシコ人のイニャリトゥだし、主演女優賞には『サンドラの週末』のフランス人女優マリオン・コティヤールもいるんですけどね。作品賞には入った『グローリー/明日への行進』が冷遇されているという批判が主でしたが、これは仕方ない気がします。監督も主演もハリウッドでは知名度がない人でしたし、逆に作品賞ノミネートされただけでも奇跡だと思います。(まあでも知名度がないということはハリウッドでは黒人が冷遇されていることの現われという風にも言えますが…)
 それはさておき、この年批評家賞を独走していたのは『6才のボクが、大人になるまで』でした。『ビフォア・サンライズ』などで知られる寡作の名匠リチャード・リンクレイターが12年にもわたってつくりあげた作品で、後にも先にもこんな作品はないでしょう。本音を言えばこっちに作品賞あげてほしかった。いや、作品賞はムリでも監督賞はリンクレイターにあげてほしかった。
 本作は全然悪くないんですよ。全編ワンカット風の撮影、編集技術は凄まじいですし、マイケル・キートン自身のキャリアとも重なるような虚実入り交じるダークでブラックユーモアに溢れた独創的な作品だと思います。エマ・ストーンも出てるし!
 『ソーシャルネットワーク』と『英国王のスピーチ』が争った第83回と気持ちとして近いかな。でも『英国王のスピーチ』と違ってバードマンは全然悪くないんだよな。難しい!


ということで今回は50位~41位までを紹介しました。
読んでいただきありがとうございました!

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