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読書メモ:悼む人

日本の心を照らします🌤
鉄舟です

近々、有機農法/自然農法を学べる学校に入学しようと目論んでいます。個別の入学説明会に行き、担当してくださった方の紹介で「悼む人」(天童荒太著)という小説を読みました。

直木賞受賞作品であり、映画化もされているようです。

紹介してくださったきっかけは、その説明会の翌日に、僕がグリーフ(死別の悲嘆)ケアアドバイザー2級の講座を受講する予定があり、担当の方が大切な人との死別に際して小説「悼む人」に救われた体験があったことです。

せっかく講座を受けるなら、「死」と向き合って生をみつめるなら、この「悼む人」はぜひとも読みたい、という思いで読みました。

あらすじ

善と悪、愛と憎しみ、生と死が交錯する直木賞受賞作! 著者が切望した、「いま世界に一番いて欲しい人」とは?
不慮の死を遂げた人々を“悼む”ため、全国を放浪する若者・坂築静人。静人の行動に戸惑いと疑念を覚え、その身辺を調べ始める雑誌記者・蒔野。末期がんに冒され、家族とともに最後の時間を過ごしながら、静人を案じる母・巡子。そして、自らが手にかけた夫の亡霊に取りつかれた女・奈義倖世。
静人の姿が3つの視線から描かれ、その3つのドラマが、やがて1つの大きな物語の奔流となる。「この方は生前、誰を愛し、誰に愛され、どんなことで人から感謝されてでしょう?」静人の問いかけは、彼を巡る人々の心を、少しずつ動かしていく。
家族との確執、死別の悲しみ、自らを縛りつける呪縛との対決。そして避けられぬ死の傍らで、新たな命が――。静かな感動が心に満ちる感動の巨編!

「善と悪、愛と憎しみ、生と死が交錯する直木...『合本 悼む人』天童荒太 | 文春e-Books」 より
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/1692043300000000000I
閲覧日 令和6年11月22日

感想

完読した率直な感想は、この本に出会い、生きる上で大切な問いを得られた、です。本当に読んで良かった、清らかな神聖な心持ちになった、そんな読後感でした。

そして、「人間にとって、その人のことを覚えることはどんな意義があるのか?」という問いが心に刻まれました。

物語の中で、死んだ者の存在を胸に刻む「悼む」という行為が、周囲から反発されながらも、ブレずに「悼み」続ける静人の姿に、「悼み」に懐疑的だった人物が心を動かされていきます。

たとえ自分が死んでも、自分の存在を覚え続けてくれる、亡くなった大切な人の存在を覚え続けてくれる、それも無条件に…そんな人がいてくれることが救いになる、という描写が出てくるようになります。

人の存在を覚え続けることが、人間にとってどんな意味合いを持つのだろうか、読み進めるにつれ、そう思うようになりました。

人の存在を覚え続けることに対して、次のようなことを考えました。

日本では、人が亡くなったとき、四十九日を過ぎても一周忌や三回忌など、年忌法要というものがあります。この供養の在り方は、佛教というよりも日本独自のものです。

僕はブータンに行ったことがあるのですが、ブータンではチベット佛教が篤く信仰されています。現地ガイドによると、チベット佛教では、法要(死者に対する供養)は四十九日までしかありません。なぜなら、佛教において、死者の魂は四十九日を過ぎたら来世へ転生すると信じられているからです。

四十九日を過ぎた後も供養をすることは、無駄なこと、それがチベット佛教における考え方です。

では、なぜ、日本では来世への転生を終えた四十九日の後も、年忌法要として供養の行事があるのでしょうか?

様々な考え方があると思いますが、故人のことを覚え続けることが大事、そんな考えを日本人は大切にしてきたからなのではないか、と思いました。

2018年1月、僕の大学の部活の同期が亡くなりました。その部活は、毎年1月に新年会を催しています。行事には、OB/OGを含めたあらゆる部員から絶対的に尊敬されている大先輩かつ監督だった方がいらしていました。

その方が、友人が亡くなって1年後の新年会にて、挨拶の場でその友人の話をしたのですが、その際、

「こういう場で、亡くなった人の話をすることは大事なこと」

という主旨の話をされました。

亡くなった人の存在やストーリーを覚えている人がいる限り、その人はこの世に生き続けることになる、これに似た感覚を、日本人は古来から持っているのではないでしょうか。

人の存在やストーリーを覚え、紡いでいく営み、まだまだ言語化は難しいですが、「悼む人」を読んで、すごく大事だと認識できました。


最後に

家で看取ることが普通だった時代から、現在は「死」が病院の中に起こる特別な出来事となっています。

先月に受講したグリーフケアの講習でも、僕がよく見ている心理カウンセラーのYoutubeでも、「死」が身近にないことで、大切な人との死別における悲嘆の深さが大きいことが、社会課題の一つになっている、と聞きました。

また、古来から、「武士道は、死ぬことと見つけたり」「メメントモリ (『死を想え」、『死を忘れるな』という意味)」など、世界各地で「死」を見つめることの重要性が説かれています。

「死」を日常から切り離そうという現代だからこそ、「死」に対して自分の価値観を磨き、生をより輝かせる人が増えるために、「悼む人」のような作品が多くの人に読まれてほしいと思いました。

作者が7年もの歳月をかけて創り上げた作品であり、作者自身が亡くなった人をことを覚える営みを少なくとも3年継続して、得た学びや氣づきも反映されているようです。

ぜひ、手に取って読んでみてください。


参考文献、サイト

・『悼む人』(天童荒太/文春e-books)
・善と悪、愛と憎しみ、生と死が交錯する直木...『合本 悼む人』天童荒太 | 文春e-Books https://books.bunshun.jp/ud/book/num/1692043300000000000I
閲覧日 令和6年11月22日
・法事とは?法要との違いや時期・種類について解説
https://www.kurashinotomo.jp/butsudan/column/legal_1/
閲覧日11月23日
・【インタビュー】「静人と自分の成長の証」| 『静人日記』特設サイト | 文藝春秋
https://www.bunshun.co.jp/pick-up/shizutonikki/interview/interview1.html
閲覧日
 令和6年11月22日
・ときには向こう見ずな冒険も<br />天童荒太×石田ゆり子 『悼む人』 (天童荒太 著) | インタビュー・対談 - 本の話
https://books.bunshun.jp/articles/-/3109
閲覧日
令和6年11月22日


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