僕がCallaway Golfで学んだこと<Under Promise Over Delivery編>
"Under Promise Over Delivery"
<約束は小さく、結果は期待以上のものを>
この英文を直訳すると、「約束した期間より前に出荷する」となります。
僕が現場でこの言葉を実践しているところを見て感じたのは、これは<究極のサービス>の在り方ではないかという点でした。
期待以上の施しをされると顧客はどのように思うかを先回りしてそれを取り入れていたからです。
キャロウェイゴルフの創業者のイリー・キャロウェイ(以後イリー)は、 まず優れた製品、次はそれをどのように販売していくかの戦略、そして良いサービスを行う、そうすれば企業を信用してもらいブランドという信頼を得ることができる、この順番が大切である、ということを前回書きました。
サービスの種類はいろいろあり、お金をかければ顧客満足度を高めることはできます。良いサービスを提供するにはそれなりのコストがかかります。小さな会社では資金の限界があり、やりたくてもなかなかできないものです。しかし、それは普通のやり方であってイリーはもっと違う視点でサービスの基本的なことを見出して実践していたのです。それが表題の言葉なのです。
僕がキャロウェイゴルフで見た"Under Promise Over Delivery"の印象的な事例は2つありました。
2つとも小さな出来事ですが、イリーの考え方が現場にまで浸透していることが理解できた瞬間でした。
一つは、ショップからシャフト交換を受けた時です。修理マニュアルではシャフト交換は1週間となっていました。しかし、依頼した顧客はその事実を知っていたのですが「週末に試合があるので、どうしてもそのクラブを使いたいのでなんとかならないか」とカスタマーサービスに連絡をしてきたのです。
カスタマーサービスの担当者はお届けするにはどうしても1週間という日数が必要であること、修理は順番に受け付けて処理をしていくので順番を飛び越えて行うことは不公平になるのでできないことを伝えて理解を求めました。最終的には顧客は納得して「試合ではそのクラブ無しでプレイする」と話して電話を切ったのです。
カスタマーサービスの人間は修理担当者にその事実を伝えたのですが、修理担当者はどうしたと思いますか?
終業時間が過ぎた後、手早くシャフト交換をし手紙を添えて約束の期日よりも早く届くように出荷したのです。その手紙はこう書かれていました。
「カスタマーサービスがご説明した通り、シャフト交換は1週間かかり、その日数では試合に間に合わない説明があったと思います。しかし、もし試合で修理したクラブが使えるなら、そしてその試合で良いゲームができるならと考え、会社の許可を得て就業時間外で修理をしてお届けすることにいたしました」と。約束していた期日よりも前にクラブが届き、試合で使うことを諦めていた顧客がどうなったかは想像がつきますね。
2つ目も同じシャフト交換ですが、こちらはクレームです。ドライバーのシャフトがヘッドとの接合部分から折れてしまったのです。キャロウェイのS2H2構造はホーゼルがないためにシャフトにかかる負荷が大きく折れる可能性は他社のものより多くありました。
顧客は球を打ったらシャフトが突然折れてしまったことで大変な剣幕でクレームをしてきたのです。カスタマーサービスはお詫びと良品との交換を申し出てご理解いただくことにしたのです。これも決められたマニュアルに沿った対応です。
そして、これにも手紙が添えられていたのです。「お客様からの製品に対するご指摘は開発や製造において改善するための大きな指針になります。すぐに事故をお知らせいただき本当にありがとうございます。これからも研究開発に力を入れ、さらに良い製品を作り出していく努力をして参ります」と。そして、新品のドライバーと共にキャロウェイゴルフのボールとサンバイサーを入れてお客様宛に送ったのでした。
クレームで怒り心頭に達していた顧客をロイヤルカスタマーに変える出来事です。クレーム処理の優れたやり方の一つですが、現場が理解してそれを実践していたことが僕には驚きでした。
社員が皆イリーの考えを理解していたからです。
キャロウェイゴルフという企業に入ってから日本の企業文化とアメリカの物作りの文化が日本とは大きく違うことに気がついたのです。
日本は製品を発売する時には、その完成度は極力100%に近いものを求めます。万一何か問題が発生すると補償や会社としてのイメージ低下などが起こりブランドに影響を及ぼすと考えるからです。
一方、アメリカの物作りはその時点で最高レベルの技術や製法を使うので完成度はかなり高いものとして発売するのですが、新しい技術や製法ができるようになって製品のレベルを高めることができるならモデルチェンジをせず、新しい技術を取り入れて物作りをします。
このような小さな改良を加えて最終的には100%近くまで製品レベルを上げていくやり方です。表示もXXXモデル改良版という表示です。
リスクを極力排除する日本のやり方と、リスクを取りながら問題が発生した時の対処を考えて製品を発売するアメリカのやり方の違いはもの凄く勉強になった部分でした。
イリーがこの言葉"Under Promise Over Delivery"で最も伝えたかった部分は「人は期待されること以上のことをされると嬉しいものだ。常に自分の大切な人に接する気持ちを持って、ことに当たって欲しい。大切な人に喜んでもらえれば、自分も幸せな気持ちになれる。それにはどうするかは何も言わなくても分かっていると思う。だからやろう!」なのです。
そして、この言葉の持つ意味は誰でもどこでも使える普遍的なものですが、実際にやれるか、そしてやり通す力があるかが重要なところです。
それにしても少し湾曲的な言い方をするところがイリー独特の表現方法だと思いませんか?