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国立大学の学費値上げに思うこと;他の人が言わない『論点+提案』3セット

0. 東大の授業料値上げを契機に『国立大学の授業料』って?


東京大学が来年度入学者から授業料を上げるのを正式に決定したそうです(大学院修士課程は4年後から)。

学生の9割は反対しているそうですが、いわゆる識者の方々意見としては、先生の給料だったり光熱費だったり、あらゆる経費が上がっているので止むを得ない、という論調が多く、でもダイレクトには言いにくいので、
「授業料無償対象や一部免除対象を広げている」
ことを評価したり、博士課程は上げていないことを評価したりしています。

この場で、他の人が既に書いたり話したりしていることを重複して書くつもりはありません。
誰も言わねえなあ……と気になったこと(以前から気になっていたこと)を3点、『提案付き』で書きたいと思います。

1. 国立大学とは?→提案1

私は8年間の会社勤め後に、米国の州立大学大学院に入学し、『再勉生活』を開始しました:

入学手続きの過程で知ったのですが、その大学の授業料は、州民家庭にはディスカウントがあり、同じ米国人であっても他の州出身者は高く、外国人である私も当然、後者と同じ金額でした。
(なるほど、州立大学は州からの交付金が入っているわけだし、その金は州民からの税金が財源だろうから、ここで線を引くのは当然だろうな)
と納得したものです。
当時、どれくらいの差だったかは正確には憶えていませんが、州民の子弟は半額近かったはずです。

当然、同様の『差別』は日本の公立大学にもあり、例えば熊本県立大学の今年度入学金は、
県内生 207,000円
県外生 414,000円
と県外出身者は2倍です(授業料は同額)。
静岡県立大学の入学金は、
静岡県内の方 141,000円
静岡県外の方 366,600円
と実に2.6倍です(授業料は同額)。
兵庫県立大学では、
「県内在住者の入学金及び授業料を学部、大学院共に、所得に関わらず無償化する」新たな方針を打ち出しました。
── でも、誰も文句言いませんよね。

これを日本の国立大学に当てはめてみれば、何らかの基準で国税を納めている家庭の人(おそらくは、国籍保有者というより、永年在住者、ということになるのでしょう)とそれ以外とでは、入学金だったり授業料だったりが異なっていてしかるべきだと思います。

先日、TV番組(『所さん!事件ですよ』だったかな)で特集を組んでいましたが、最近、海外(特に中国)からの留学生が激増しており、なぜなら、日本は『三安(学費が安く、安心・安全)』だからだそうで、特に早稲田大学が人気なんだとか。
早大は私大なので勝手ですが(いや、実は私大にも相当額の国税がつぎ込まれていますが……)、国立大学は違います。

例えば東京大学の場合、下図のように、運営経費の3割を占めるのが国からの運営費交付金 ── 原資は税金でしょう ── であり、授業料は6.2%に過ぎません。国外からの留学生にはプラスの負担を要求すべきでしょう。

2023年度の東京大学の運営経費の財源内訳
(2024年9月25日 日本経済新聞)

「差別じゃないか!」
── その通り。
でも、今、オーバーツーリズム対策として議論されている『観光地での二重価格(外国人観光客を対象とした価格上乗せ)』より、はるかに理屈にかなっていると思います。

2. 世帯収入とは?→提案2

さて、東大は授業料を値上げしますが、世帯収入が一定以下の家庭に対しては授業料の免除を行っており、その基準額を引き上げることで、低所得世帯に配慮するそうです。

先週決定された東京大学の授業料改定
(2024年9月25日 日本経済新聞)

この『世帯収入』って何でしょうか?
定義は、
『同一生計となる世帯全員の年収の合計』
ということのようです。

さて、これも私ごとになりますが、日本の国立大学(工学部)を卒業し、大学院に入学する直前に結婚しました。
妻は1年早く卒業して働いており、その収入で生活し、授業料も払わなければならないため、育英会の奨学金(貸与)を申請しました。
その際にこの『世帯収入』を書く欄があったので、前年の妻の収入を書き入れました。すると……

事務担当の職員から、
「確かにあなたは結婚して『世帯主』になっている。けれど、育英会の規定(ほら、ここ読んで!と)により、両親の収入も書かなくてはいけない」
と言われました。
── これには、驚きましたね。
「なぜ親の収入を? 結婚して別世帯になってるのに?」

手足をバタバタさせ床を転げ回りたかったけれど、規則がそうなっているので、この職員相手に騒いでも仕方がない。
(結局、奨学金は貸与されましたが……)

上の図でいう『経済支援策』で『授業料免除』となる『世帯収入』もおそらくそうでしょう(確認してないけど)。

私は叫びたい:結婚したら親とは別世帯となるわけなので、親の『世帯収入』とは無関係であるべきです!

「だったら、『授業料免除』目当てに入籍する学生が現れるんじゃないの?」
── あなたはそう言うかもしれない。
……まあ、そういう学生も少数出るでしょうね。
でも、少子化の原因が若者の『非婚化』『晩婚化』だとされる現代にあって、若くして結婚し、しかも学業も続ける ── たいへん結構なことではないでしょうか?

今の日本で『少子化対策』は優先順位がきわめて高い政策のはずです。『世帯収入』の定義に正しく沿った運用により『授業料免除』の判定をすべきだと思うのです。

3. 地方創生とは?→提案3

さて現在、上記『少子化対策』と同様に優先順位が高く、かつ、『少子化対策』とリンクもしている政策が『地方創生』です。

『教育無償化』とか『大学無償化』を『ウリ』にする政党だったり政治家だったりがいます。それについて、個人的にいろいろ思う所はありますが、まあ、いいとしましょう。
ただ、これも、もし実施するのであれば、国の政策なのだから国立大学を対象とすべきだし、優先順位の高い政策とからめるべきだと思います。
(どうして日本の政治家ってそういうことをしないのでしょう? ── 例えばDXを推進したいなら、あらゆる政策をデジタル化と連動させるべきです!)

少々脇に逸れましたが、無償化 ── 教育自体が無償になるはずがないので、これは『授業料免除』ということでしょうが ── 全ての大学、なんてことではなく、やるならば、『地方国立大学の無償化』を実施すれば良い ── 例えば、弘前大、富山大、高知大のような。
もし『一律無償化』などという愚策を採用すれば、膨大な財源が必要になるだけでなく、黙っていても学生が集まる『大都市への集中』がさらに進み、『地方創生』に逆行する結果になってしまいます。

『田舎にお嫁に行く女性に60万円ずつ配る』というあまりに愚かな計画が批判を浴びましたね:

若い女性だけでなく、男性も、大学進学を機に首都圏など大都市に移住し、そのまま居着いてしまう人は多い。それを地方に戻そうというのは相当なエネルギーとコストが要る、ということでしょう。
地方の国立大学を無償化することにより、その志望者数を増やし、地方にとどまる(さらに、大都市から地方に来る)優秀な学生を増やし、大学と地方企業・地場産業との共同研究開発を増やし、地方経済全体を底上げする ── どうでしょうか?

昨日10月4日の所信表明演説で、石破新首相は「地方こそ成長の主役」と唱え、当初予算ベースで交付金を倍増する目標を掲げました

さっそくその夜のTV報道では、
交付金を倍増すること自体は政策とは言えず、それを何に使うかが重要 ── それについては何も言わなかった」
と批判されていました。
まあ、これから考える、ということなのでしょう。
だとすれば、この、
《地方国立大学の授業料無償化》
は考慮しても良い具体策だと思います。

では、無償化すべき地方国立大学をどう定義するか?
議論が必要ですが、まず、財政が豊かな東京都と、政令指定都市(現在20都市)にある大学は除外すべきでしょう。
もっと絞り込んでもいいかもしれない。
え、不公平? ── それが『地方創生』です。

今回は3回分の note を一気に書いたので、長くなってしまいました。
政策立案の『考え方』も書いたつもりです。

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