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化学実験「白衣」の思い出【2/2】

白衣とは、それを羽織るだけで医療関係者を装ったり、Crazy Scientistになりすませる、魔法の衣服です。

そして、意外性の高い特徴として、
《白衣は何色にでも染まる》
が挙げられます。ここに着目した人は少ないのではないでしょうか?

今回のエピソードは、読んで不快に思う人があるかもしれません。まあしかし、とある高校生が実際に考え、行動したこととして、淡々と書きたいと思います。

当時、その県立高校に白衣を着て歩く若者がふたりいました。それぞれ物理と化学の実験授業の助手で、近くの国立大の大学院生が必要な時間だけバイトで来ていました。
私が1年から2年に上がる時にワンダーフォーゲル部の若手顧問が他校に飛ばされたため、月1のワンデルン(部活登山をこう呼んでいた)の引率教師がおらず、窮余の末、この二人に声をかけ、どちらか空いている方に週末の日帰り登山の同行を頼みました。
今から思えば、よく了解してくれたものです。彼らの旅費は部費から出したとはいえ、教師でもないのに貴重な休日を犠牲にするわけなのだから。
我々ワンゲル部員はこの二人の「兄貴分」を、「アトム」「コバルト」とニックネームで呼んでいた。

2年の文化祭で私は友人と体育館でのバンド演奏をする予定だったが、もうひとつ、個人企画を温めていた。
その高校は自治会が強く、文化祭の催しについて許認可権を握っており、
《アカデミックでない企画は認めない》
と公言していた。
従って、カフェのような模擬店やお化け屋敷のようなエンタメ企画は全て却下され、演劇や音曲演奏、討論会の類がやたら多かった。

私の個人企画は《乞食》だった。
しかも、できる限り「本物」になりきり、実際にお金を投げ入れてもらう状況を実現し、下からお金を投げ入れる人の顔を見上げて感謝の言葉を述べる ── という一連の「非日常」を経験したい、となぜか思った。

小道具のむしろは自宅の納屋で見つけた。あとはコスチューム。

私は、化学の実験助手「アトム」に、汚れて捨てる予定の「白衣」はないか尋ねた。
「ああ、あるよ。しかし、破れてるし、相当汚れてるぜ」
「お! その方がいいんです」

バケツに水を入れ、その中に12色水性絵具を全て溶かし込むと「暗く淀んだドドメ色」になる。そこに「アトム」からもらった破れた白衣と手拭いを漬け込み、日陰で干すと、コスチュームは出来上がった。

むしろを抱え、手拭いで頬被ほっかむりし、元・白衣をまとって家を出、いつものようにバスに乗って通学し、運転手や乗客の反応も見たい、と言ったら、母親に、
「頼むからそれだけはやめてくれ」
と泣きつかれた。
計画を話した後、母は一緒に納屋でむしろを探してくれたのだが、やはり「近隣の世評」は気になるとみえた。

── 「白衣の活用法」はここまでです。

《乞食企画》はどうだったか?
2つの意味で成功でした。
ひとつは文化祭に来場した大人たちの半数ほどが、紛れ込んで来た本物の《乞食》と信じたらしいこと。
もうひとつは、数時間で五百円余りの収入があったこと。

この時の光景は、別アカウントで奨学金を得たいきさつを書いたエッセイで触れています:

高校3年にして、
《金のために不条理に耐える》
という「試練」は、意外なほどに、悪くなかった。

その前年、高校の文化祭で無許可ひとり企画《乞食》を実行したが、筵に坐り、襤褸をまとい、目の前の空き缶に10円玉を投げ込んでくれる大人たちに、
「ありがとうございます」
と深々と頭を下げる、その感覚と同じだった。

エッセイ「《感謝》の顕し方」より

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