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「正しさ」が嫌悪される時代に




私はごくふつうの白人男性で、現在28歳になる。
オーストラリアの貧乏な労働階級の生まれだ。
両親はスコットランド、アイルランド、
イングランドにルーツを持っている。
とりたてて変わったところのない、平凡な幼少期を過ごした。
……最近になってイスラム排斥活動を始めたが、
私はどこにでもいる白人男性で、平凡な家族のもとで育った。
ただひとつ平凡でない点を挙げるとするならば、
この世界で暮らす同胞たちの未来を確かなものとするために、
決起したことだ。

―――2019年にニュージーランドのモスクで100人が死傷する銃撃事件を起こしたブレントン・タラントの声明文


▼▼▼アメリカ大統領選が突きつけるもの▼▼▼


アメリカ大統領選が終わった。

僕は民族的にも宗教的にもジェンダーにおいても、
多様性が大切だと考える中道左派のリベラルなので、
別にカマラ・ハリスに熱狂したわけでもないし、
アメリカ民主党を諸手を挙げて応援できるわけでもないけれど、
トランプの共和党とカマラの民主党なら、
「どちらの害悪が少ないか」で、
ギリギリ民主党じゃないですか、と思っていたし、
今もそう思っている。

何より女性がアメリカ大統領になる、
ということだけでフェミニストの僕にとっては、
大きな勇気になるしおそらくなっていたら涙しただろう。
世界でいろんなことが大きく変わっていたはずだ。
まだまだジェンダー不平等なこの世界に
一石を投じる大きな前進だったはずだ。
それは2016年ヒラリーのときもそうだった。

「ガラスの天上」はカマラの敗因だったのかそうでなかったのか、
というのは今も論争になっている。
いやそんなんじゃなくて、
単に「リベラルの上から目線」が嫌われただけでしょ、
というのが大方の評論家の一致した意見だし、
僕もそう思うので今日はそれを言葉にするわけだけれど、
「ガラスの天上」の要素もゼロではなかったと僕は思う。

特に今回、ヒスパニックや黒人の男性が、
相当数トランプに流れたことは、
トランプ勝利の数ある要因のひとつだと分析されている。
その人々の投票行動の本音は、
「女がリーダーなんて嫌だ」だという。
こういう本音はあまりにもポリティカリーにインコレクトなので、
統計にすら表れないのだけど、
米国をよく知る前嶋和宏さんなんかは、
ビデオニュースという有料ニュースサイトで解説していた。

さて。

民主党が負け、トランプが勝ち、
トランスフォビアのイーロン・マスクが閣僚に入る。
そういう時代に僕たちは生きている。

僕はどこかで別の平行宇宙に迷い込んだのだろうか。
5月ごろに吉祥寺の京王井の頭線の改札を通ったときか。
あるいは名も知らぬ駅の名も知らぬ喫茶店のドアを開けたときか。
「カランコロンカラン」。
あのとき僕は「本来とは違う世界線」に迷い込んだのか。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」で主人公マーティは、
自己中心的なガキ大将で頭が悪いビフがカジノ王となり、
街を牛耳っている「ディストピア並行宇宙」に迷い込む。
その街には趣味悪いネオンがビカビカと光り、
人々は欲望のままに生き、モラルは崩壊している。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの監督は、
ビフのモデルはドナルド・トランプだと後に語っている。

ビフが大統領になった世界に僕たちは迷い込んだ。

「ドク! 大変だ!」
 どうにかしなきゃ!」
 デロリアンは壊れているのか!?」

「だめじゃ、電源が喪失しておる!」

「まってドク!
 2024年12月1日にカミナリが落ちる未来の記事が手元にある!
 それはあの教会の屋根に落ちるから、
 そこから電線を繋いでデロリアンを走らせれば!」

「マーティー! 教会に上れ!
 カマラ! このロープを持って!」

「あー!!!
 イーロンのサイバートラックがドクを轢き殺そうとしてるわ!
 ドク! 逃げて!」

「カマラ! マーティ! 
 後は任せた!」

「ドクー!!!」

「1」と「2」が混ざってるけど、
残念ながらデロリアンも存在しないし、
この世界はパラレルワールドでもなんでもなく、
僕たちは現実としてトランプが当選した世界を目にしている。

これも擦られすぎて耳タコだけど、
アメリカ人がバカだとか、
トランプが犯罪者だ(←これは本当)とか言っても、
何もならないのだ。

これがアメリカの「民意」なのだ。

それほどまでにリベラルの正しさが嫌悪されたのだ。
「差別はダメ」というポリコレは嫌われ、
「差別したいという欲望」を、
剥き出しにするトランプが支持されたのだ。

まずこれを真正面から受け止めないと、
話は始まらない。

デロリアンは存在せず、
前回の選挙と同様、今回も、
「選挙は盗まれた」わけではないのだから。


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