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愛知県を車で走ることについて語るときに僕が語ること
真に不健康なものを扱うためには、
人はできるだけ健康でなくてはならない。
それが僕のテーゼである。
つまり不健全な魂もまた、
健全な肉体を必要としているわけだ。
―――村上春樹(『走ることについて語るときに僕の語ること』より)
▼▼▼新東名高速に乗って▼▼▼
愛知県に行ってきた。
2月の朝早くまだ暗い時間帯に家を出て、
家族の5日分の荷物と子どもたちを車に載せ、
東京都内を南下して東名高速に乗り、
右側に馬鹿でかい富士山を見ながら走行した。
最後に東名高速を自動車で走行したのは、
記憶によれば2010年のことだった。
お世話になった蒲郡の母教会の主任牧師が他界したとき、
茨城に住む友人と車を乗り合わせて葬儀に駆けつけた。
以来、愛知県には何度も行ったけれど、
毎回新幹線だった。
新幹線で豊橋に降り、
JRの在来線で三河大塚に。
三河大塚から母教会に移動して、
そこで教会の車をお借りする。
母が住むのも蒲郡の大塚なので、
教会から借りた車で母を拾って、
「さんかい」という三河にしかないローカルファミレスへ。
子どもが加わってからはそこでお子様ランチを。
日曜日は母教会の礼拝で説教をしたり、
愛知県に住む友人・知人と会ったり。
そんな滞在がこの15年ぐらいはルーティーンだった。
今回、15年ぶりに東名高速に乗って愛知に行った。
「新東名」というものができていたことを、
僕は路上で知った。
「え? 東名って二つあるの?」
これは車運転する人からすれば、
「今更かよ」なのだろう。
「え? SMAPって解散してたの?」
ぐらい「今更かよ」かもしれない。
「え? 森くんって脱退したの?」
……何から説明したらいいんだ。
調べると新東名はなんと2012年に開通していた。
日本の大動脈といわれる「東名高速道路」は、
ざっくり言えばJR東海新幹線の東京ー名古屋間と、
併走して走っている。
東京からだと右手に富士山、左手に海が見えるあの光景だ。
「新東名高速道路」は、その数十キロ内陸を走り、
愛知県の豊田近辺と神奈川県の厚木近辺でお互い合流する。
地図で見ると分かるけど、
海沿いを膨らみながら走る東名よりも、
内陸を直線で走る「新東名」のほうが距離が短い。
インターやSAが少ないから渋滞も少なく、
時間距離だと30分ぐらいは短縮されるようだ。
開通して10年以上経つのに、
僕はこの「存在」を知らなかった。
去年まで17年ぐらい自動車を所有してなかったので、
知らないのは当たり前なのだろうか。
それとも「SMAP解散」と同じで、
「全国民知ってろよ」案件なのだろうか。
とにかく、かなり面食らった。
え? なんか知ってる東名と景色が違うんだけど。
リニューアルした?
え? 海が見えるはずなんだけど。
知らない道路なんですけど。
20代のときに何度か走った東名と、
明らかに違うんですけど。
知ってるサービスエリアがひとつもないんですけど。
オレ今もしかして東北に向かってる?
脳内はパニックなのだが、
平静を装って妻に言った。
「へー、新しいルートができたんだ。
やるねーNEXCO中日本も」
馬鹿でかい富士山が視界に躍り出た時にホッとした。
「良かった、東北には向かっていない」
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