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【短編小説】 聖書


――1


修治は目覚めてコーヒーを飲んだが、
味はしなかった。

カーテンを開けると日はすでに高く昇っていて、
思ったより眩しくて腹が立ってすぐに半分閉めた。
キッチンには灰皿と昨日飲んだチューハイの缶が転がっている。
窓からの陽射しで埃が乱反射してキラキラしている。
汚いのかきれいなのかよく分からない。

先月40歳の誕生日を迎えた修治は、
中堅の印刷会社で勤続18年になる。
課長という役職ではあるが、
給料が上がるわけではない。
上がった分の給料は社会保障費に消えた。

この国の社会保障費の負担割合はもうすぐ5割に達し、
ドイツなどの高福祉国家と並んでいる。
この国々では軒並み大学無償化が実装されているのに、
日本の社会保障費は教育や研究などの将来への投資ではなく、
使いものにならない戦闘機を買うために使われている。

先月40歳になったのを機に、
ついに購読するのをやめた紙の新聞でそんな署名記事を読んだ。
どこの大学の先生だっただろうか。

修治にとってはそんなことはどうでも良かった。

今日は死のうと思っているのだ。


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