『スパイの妻』【過去メルマガPick Up】
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『陣内俊の読むラジオ』の、
過去記事からピックアップして、
読んだ本や見た映画を紹介していきます。
今回は、、、、
●スパイの妻
監督:黒沢清
主演:蒼井優、高橋一生
公開年・国:2020年(日本)
リンク:
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▼140文字ブリーフィング:
黒沢清監督の映画は、
けっこうたくさん見てきましたが、
本作はベネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞しただけあり、
これまでの中でも出色の出来でした。
黒沢清監督の映画って、
「世界というシステム」は、
それ自体狂気ではないのか?
っていうテーマをいつも扱っているのですよね。
この世界が狂気ならば、
この世界で狂っている人こそ、
実はもっとも正気なのではないのか?
みたいな話しです。
『散歩する侵略者』もそうですし、
『カリスマ』も、『CURE』もそうです。
本作はそのテーマが最も分かりやすく出ています。
海外でも評価が高かった黒沢清監督が、
やっとこういう形で正式に評価された、
という意味で受賞のニュースは本当に嬉しかった。
是枝監督の『万引き家族』とか、
ポン・ジュノ監督の『半地下の家族』もそうですが、
作家性をポップに味付けするぐらいが、
最も世界的には評価されやすいのでしょう。
筋書きはこんな感じ。
主人公のアナーキスト(高橋一生)が、
日本軍が満州で行っていた人体実験の文書を英訳し、
米国に持っていく。
彼は連合国側と通じているスパイで、
その事実を妻(蒼井優)にも黙っていた。
あるとき妻は夫がスパイであることを知る。
夫は妻にすべてを打ち明け、
自分の計画に協力してくれるよう頼む。
、、、ここからは、
ネタバレ要素あるんで、
近々見る予定の人は、
飛ばしたほうが良いかも。
+++以下ネタバレ注意+++
+++以下ネタバレ注意+++
+++以下ネタバレ注意+++
+++以下ネタバレ注意+++
、、、妻は夫を信じて協力します。
しかし最後の最後に、
夫は妻をさえ利用していたことを知り、
妻は発狂し精神病院に入れられる。
黒沢清監督の映画のラストシーンって、
「カタストロフ」が多いんですよね。
つまり、この世界が全部燃えている、みたいな。
本作もラストシーンはカタストロフです。
つまり空襲で完全に街が火の海になっている。
精神病棟から逃げた蒼井優はそのカタストロフのなか、
「狂っているのは自分か世界か?」と問います。
世間の正気は実は狂気で、
狂気こそが正気なのだ、
といのが黒沢清の永遠のテーマなのだ、
っていうのが本当に分かりやすく描かれています。
じっさい、当時の翼賛態勢とか、
鬼畜米英の雰囲気、
日本軍のことを悪くいう人は憲兵にしょっ引かれる世界は、
確かに狂っていたわけで、
それに自覚的だった高橋一生もまた、
どこかに狂気を宿している。
本作では彼のしたことが米国の参戦を招き、
日本の破局を招いたのだから。
しかし高橋一生は、
この国がまともになるためには、
いちど「完全な破壊」を経験しないと駄目だ、
ということを確信していた。
今の日本でも、
政権が文書を破棄したことや事実を隠蔽したことを、
内部告発する官僚がいるじゃないですか。
ああいう人とこの映画に出て来る高橋一生は、
同じ行動原理で動いています。
彼は売国奴なのか、
それとも憂国の英雄なのか。
狂っているのは内部告発者なのか、
それとも政権なのか。
時代設定は太平洋戦争でありながら、
非常に現代的なテーマなのですよね。
あともうひとつ本作が面白いのは、
「妻はどこまで分かっていたのか」が、
分からないようになっている点です。
すべて分かっていて、
敢えて利用されることを選んだかもしれず、
あるいは完全に夫を信じ切っていたかもしれない。
そういう半信半疑を楽しむ映画でもあります。
お金を払って見る価値のある映画ですね。
(1,378文字)
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