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半沢直樹「アルルカンと道化師」を読んで

はじめに


「やられたらやり返す。倍返しだ!」
この有名なフレーズが一世を風靡したのはもう、10年前。

2020年にテレビドラマシリーズのシーズン2が放送されたのと同時期に小説版半沢直樹シリーズの第五作として発売された今作。

当時の自分は世の流れにまんまと乗っかって本作を購入したものの、
案の定、読むことはなく本は埃をかぶっていたのですが、「ある日、小説でも読んでみるか!」と思い立ち部屋の本棚にあった本作を手に取って読んでみました。

今回は、自分が本作を読んでいて思ったことを書いてみようと思います。

⚠️
結構、文字数多いです!

全部読まなくていいので太字のあたりだけでも読んでいただければ幸いです。


あらすじ

今作はいわゆる"過去編"で、第一作目の「俺たちバブル入行組」よりも前の物語となっています。
話の軸となるのは、半沢が担当する老舗の出版会社「仙波工藝社」と今勢いに乗っているIT企業「ジャッカル」とのM&Aを巡る攻防です。
以下、本作の出版社である講談社のHPに記載されていた、あらすじを記載します。

東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとにとある案件が持ち込まれる。

大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版社・仙波工藝社を買収したいというのだ。

大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。

有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは――。

出典元:講談社ホームページ

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000380690

2013年 ブーム当時に感じていた魅力

テレビドラマのシーズン1が放送された当時、自分は中学生でした。
そう、何を隠そう反抗期真っ只中です。

今振り返ると、自分の反抗期は闇雲に大人の要求や発言に対して反抗するのではなく、自己の人格が形成されつつ精神も成長していく中で、「おかしい!」と思ったことに対して反抗していた気がします。
ただ、当時は思春期ということもあり、言論能力や表現能力が低かったために余計な軋轢や争いを生んでしまっていたと思うのです。

やや話は逸れましたが、当時のそんな自分は、物語内の理不尽な要求をしてくる、社会的立場も上な「クソ」上司を"親"や"学校の先生"と重ね合わせ、また彼らを見事なまでに完全に論破する半沢の姿には一種の憧れの気持ちを抱いていたと思います。そして自分と同じような学生も少なくなかったと思います。

現代でいえばネットのディベート番組で歯に衣着せぬ物言いで出演者を次々と論破していく「ひろゆき」のようなものでしょうか。

まとめると、当時の自分は自身よりも立場が上の"ヤな奴"を"論破"する部分が半沢直樹の1番の魅力に感じていたということです。

2023年 今作で新たに気づいた魅力

それから10年の月日が流れ、社会にでて働く立場になった自分は昔の自分には気づけなかった半沢の魅力に気づくようになりました。
それらは以下の3つに集約されると思います。

  1. 絶対に曲げない信念と言論能力の高さ

  2. 過労人

  3. 結果請負人

絶対に曲げない信念と言論能力の高さ


半沢は中学生の時に父から「人と人との繋がりだけは大切にしろ」と言われて育ち、銀行での業務でも必ずこの信念に従って動いています。

敵と激しく議論する場面において、半沢は普段からこの信念に基づいた仕事(要は顧客を大切にする)をしているため、(また、毎回理不尽をふっかけられているため)正義は半沢にあるのですが「自分は間違っていない」ということを理路整然と説明するのは難しいように感じます。

自分の内側では納得いかずモヤモヤしているけれども、その思いを適切に表す言葉を脳みその中で検索して相手に伝えるということは簡単ではないように思います。

近年では"言語化"という言葉がタイトルに冠された本をよく見かけますが、これは"言語化"ができないと感じ、この能力を欲する人が多いために販売されるのでしょう。

しかし、半沢にはそれがあります。相手の発言に潜む矛盾や誤りを鋭く突き容赦無く切り捨てます。
社会人となった自分はカタルシスを感じながらも、「ほぉ〜」と感心することが多くなりました。

過労人

"苦労人"という言葉はよく耳にすると思いますが、"過労人"は聞いたことないと思います。
なぜなら、今回、小説を読んだ自分が作った造語だからです、、

今まで、ドラマも小説も通ってきた自分ですが、今回気づいたことがあります。

それは、


「半沢、働きすぎじゃね!?」
ということです。


銀行業界がそういう"気質"ということもあるかもしれませんが、半沢は平気で深夜まで仕事しますし、帰宅してからも仕事に対して考えを巡らしますし、何時であろうと必要とあれば人と会いに行きます。

今作でも、自身が担当している「仙波工藝社」を救うヒントがあるかもしれないと休日にも関わらず、大阪から兵庫へ平気で行きます。

"ワークライフバランス"という言葉が叫ばれるようになった現代では考えられません。
"人のために"という思いでここまでする人が現代にはいるでしょうか。

結果請負人

最後に、最も大事な部分です。

半沢は必ず求められた以上の結果を出します。

「主人公なんだから当たり前だろ!」と思う人、、、

その通りだと思います。

ですが、

半沢が結果を出すまでのプロセスには毎回共通点があります。
そしてこれは我々一般社会人も参考にするべき部分だと思うのです。

それは、「人の助けを借りている」ということです。

半沢はめちゃくちゃ優秀なバンカーですが、たった一人で結果を出したことは"一度も"ありません。

毎度毎度、無理な仕事を押し付けられているにも関わらず、結果を出し続けられる要因は人に助けてもらっているからです。

そして、それは半沢が普段から人に尽くしているから実現することです。

毎作、敵は変わりますが、基本的に人との繋がりを重視する人種と軽視する人種の対立構造は同じです。

そうなれば当然勝つのは、前者だと思います。
しかし、そんな綺麗事だけで終わらないのがこの作品の良いところだと思います。

※実際に「人との繋がりを大切にしろ」と教えていた半沢の父は経営難から自殺に追い込まれている。

ここで言いたいことは、仕事は客のためにするということ。
そしてそれは自分にも返ってくるということです。

最後に

長くなりましたが10年間で自分は上記の気づきを得ました。

とんでもない理不尽や悪と闘う半沢は、同じような理不尽や納得できないことがはびこる社会で日々奮闘する我々にカタルシスを与えるとともに、現状を少しだけでも好転するヒントも与えてくれていたと推察します。

恩の倍返しが蔓延する社会になることを祈りつつ、自らも働いていこうと思います。

拙い文章だったと思いますが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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