ラブアンの感染収束はたぶんワクチンのおかげではない

概要

■ラブアンは、マレーシアの中では、いち早く感染が収束
■ワクチン進捗も一番進んでおり、ワクチンのおかげと考えられている
■しかし、ワクチンの効果というよりも、感染が島全体に行き渡ったのが主な原因と考えられる
 ●症例者のピークはワクチン進捗が10%台のとき
 ●人口あたり死亡者数はマレーシア他州を大きく上回っている。人口あたり症例者数もマレーシアで1位
 ●島国では、ラブアンと同様に急激な症例者の増加をみており、島国以外では見られない
■ラブアンの場合、新規症例者数が減り始めたとき、人口の60%程度以上が抗体をもっていた可能性。他州も同程度の感染・ワクチン進捗が必要かも

マレーシアの連邦直轄領ラブアンでは収束間近

ラブアン (Labuan) は、マレーシアの連邦直轄領の一つで、サバ州の沖合い南シナ海に浮かぶ島です(Wikipedia)。人口は約10万人で、オフショア金融センター、もっと有り体に言うと、租税回避地として有名です。

ラブアンは、マレーシアの州・準州では、逸早く新型コロナ感染の収束が見られています(下の図の灰色線。100万人あたりの新規症例者の推移を表す)

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8/3現在で、人口あたり症例者数は、マレー歳で16州ある州・準州のうちで下から数えて2番めです(最少は、茶色のペルリス州)。

一方で、他の州、準州の多くが症例者数がやっと減り始めたか、まだ増加中のようだということも上のグラフからわかると思います。

ワクチンの進捗もマレーシアで一番

ラブアンはワクチンの進捗でもマレーシアで一番です。8/3時点で、成人人口の82.7%が2回接種しています(ワクチン供給確保委員会)。

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マレーシアも保健省も、ラブアンを手本にワクチン接種を進めて感染収束を目指そうという主張のようです(7/26、保健省ツイート)。

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ラブアンはワクチン接種率10%台で感染者が減少に転じた

一方で、ラブアンの感染拡大が収まったのはワクチン接種率が低い段階でした。

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ラブアンのこの波での新規症例者の最高は5/29の253人で、その次が6/12の250人ですが、2番めのピークのときでも、ワクチン接種率は1回め18%、2回め13%でした。

ワクチン接種率が10%台でも感染拡大が収まり始めるということであれば朗報ですが、残念ながらマレーシアの状況はそうなっていません。

たとえば、同じ連邦直轄領のプトラジャヤ(行政に関する首都)は、最近新規症例者数(下図の青線)が天井を打ったようですが、1回め接種(緑線)は90%以上、2回目接種(紫線)は50%程度進んでやっとのことでした。

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とすると、「ラブアンではワクチン10%台でワクチンの効果が出てきて収まった」という考えは成り立ちそうにありません。

ラブアンは人口あたり死亡者が多かった

ラブアンは、他の州・準州に比べて、新型コロナによる人口あたり死亡者も多かったです。

まずは、新規死亡者の州どうしの比較です。

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ラブアンだけが死亡者の大きい波を生じていたことがわかります。

累積死亡者でも見てみましょう。

下の図は2021/8/3までの人口100万人あたりの累積死亡者数を多い順に示したものです。マレーシア全体も示しています。

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ラブアンが飛び抜けて多いのがわかると思います。大きな犠牲が払われたということです。

累積症例者数も最も多い

人口あたりの累積症例者数も同様で、ラブアンが最も多いです。

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計算すると、現時点で人口の約10%が感染しています。

このように見てくると、少なくともこの波の主要部分についてはワクチンがあまり間に合わなかったように思います。(7月頃からは、症例者数の減少より、死亡者数が急に減っているようなので、効き始めていたと思いますけれど)

ラブアンの感染拡大はデルタ株

保健省のノール・ヒシャム保健局長によれば(こちら)、ラブアンでの初のデルタ株の国内症例者は5/3に発症し、5/4の結果でPCR陽性と判明しました(デルタ株と判明したのはもっと後です)。この人は、2021年4月23日にクアラルンプールからラブアン連邦直轄領への飛行機に搭乗したインド市民との濃厚接触者でした。

その後、ラブアンでは5月中旬から感染拡大が始まりました。グラフで見たとおりです。

ですから、今世界で(そして、マレーシアでも)感染拡大の原因となっているデルタ株がラブアンでも感染拡大の原因と考えられます。

ラブアンと同様な急激な感染拡大は島国ばかり

ラブアンは一時期人口100万人あたり約2,000人の症例者が出ましたが、同様か同様以上の国を調べると、島国(あるいは、海外領土)ばかりです(こちら。下の図では、10万人あたりなので、200人に対応します。)

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島国は、狭くて逃げるところがあまりなく、容易に人口の大半に感染するということが起こりうるので、このような感染拡大が起こると推測されますが、ラブアンでも同じことが起こったように思われます。

ピーク時には60%が抗体を持っていた?

新規症例者数は5/28に253人、6/12に250人となり、2回ピークになっていますが、2回めのときまでの累積症例者数は3,835人で、人口の5.9%でした。マレーシアの過去の抗体検査の結果によると、PCR検査の結果の8倍の人が感染していました(こちら)。もし、その関係がこのときも成り立つとすると、47.2%の人が感染していた可能性があります。

そのときのワクチンの1回目の接種率が18%、2回目接種率が13%ですから、人口の60%から65%程度が抗体をもっていた可能性があります。

マレーシアの場合、そのくらいの人口が抗体を持っているとデルタ株に対して、新規症例者数が下がり始めるということかもしれません。

まとめ ラブアンの収束は感染拡大が主

以上から、ラブアンの収束はワクチンと言うよりも感染の急速な拡大による集団免疫が主な理由だと思われます。一方、最近の収束はワクチンが加速したといえるでしょう。

なので、残念ながら、ワクチンを進めれば、ラブアンと同様に、低い接種率で感染がピークを迎えるとは思わないほうがいいと思われます。




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