書籍紹介|東南アジアのイスラームを知るための64章
東南アジアにおけるイスラム教を、歴史、実践、文化、政治運動、経済活動などの色々の側面から解説している。
エリアスタディーズという大量のシリーズの第192弾。多すぎでいえば、64章て!と思うが、章あたり5ページ程度なので、サクサク読める。イメージで言えば64"節"。だから、本書の"部"が一般的な本で言う章に当たる。
構成は、次の通り。目次の正しい名前と全体は、下の出版社サイトから見られます。
1部アジアでのイスラム教定着の歴史
2部イスラム教の実践と生活 六信五行に加えて、日本でも注目されているムスリムファッション(スカーフなど)や食品のハラール認証など。六信五行の部分は、ほぼ一般的なイスラム教解説なので、知ってたら読み飛ばせそう。
3部国ごとのイスラム教の現状や制度 政教分離や国教かどうか、法律、イスラム教育機関など。
4部政治・市民運動 イスラム復興のダアワ運動や、ムスリムの独立、民族間の対立など。
5部イスラム教育 学校の内外、官民それぞれでどのような教育が行われているか。教材や指導者なども含む。イクロ、マドラサなど。
6部生活の中のイスラム 2部のトピックを広げた感じ。イスラム金融、ハラル認証や、イスラムの娯楽化、SNS宣教師など。
7部重要人物 指導者や知識人の活動を通して、社会的にどのような運動や制度に繋がったかを解説。人物自体の生涯という意味合いは薄め。
8部日本とのつながり 旅行客、在日ムスリムなど。分量は軽め。
1から3部は概論、4から6部で、その中から選んだ各論、7と8部は番外編のような印象。
分担執筆で、筆者の体験が随所に入っているので、色々なフィールドワークに参加しているような感覚が味わえる。
「はじめに」ではイスラム教を過激な集団とみなすのはもちろん、東南アジアのそれを"ゆるい"と見る人にも注意を払っている。ゆるいと穏和、敬虔だと過激というイメージになりかねないからだ。また、「東南アジアのイスラーム」という名前は固有のイスラムという意味ではなく、唯一のイスラムが長い年月をかけて、アジアでどのように理解・受容・実践されてきたかを見るということだという。
「東南アジアのイスラム教はこんな特徴がある!」と言えるようになる訳では無いですが、色々な側面を見ることで、東南アジアにあるものを、自分の前まで引き寄せられる。そんな本でした。
久志本裕子、野中葉編著(2023)東南アジアのイスラームを知るための64章、明石書店、2000円+税