邪道こそ王道#ニコニコ内定塾#2017年就活編#9th#2/25

「ね、言った通りにやれば、楽勝でしょう?」

石川が自慢げに語りかける。

「はい‥びっくりしました!こんなにスムーズにいくなんて‥」

望月はまださっき起こったことが信じられないようだ。

「しかも、君がぶっ飛ばした岩渕って男の子の経歴、中々立派だったよ。ほら、私服で参加して、最後しょぼくれて帰った人」

手渡されたアンケート用紙を見ると、参加インターンと書かれた欄に望月も知っているような有名ベンチャー企業がずらっと並んでいる。

「こんなにサマーインターンとかウィンターインターンに参加しているんだよ。なのにあの班で誰を取るかってなったら望月さんになるのは自分でもわかるよね?」

こく、と望月は控えめに頷く。

ニコニコ内定塾の「グループディスカッション講座」、グループのファシリテーション、積極的なリーダーシップ、グループのどのメンバーよりも内定に近いことを肌で感じていた。

「まぁ、もちろん楽勝とは言えないけど、あと3ヶ月、しっかりこの塾に通って勉強すれば内定は取れると思うよ」

本当に入塾してよかったかもしれない、望月は思い始めていた。


グループディスカッション講座を受ける2時間前、ニコニコ内定塾のメンバーは石川から「グループディスカッションの裏技」をレクチャーされていた。

「まずは、グループディスカッション選考の目的を整理しよう」

入塾メンバー5人を前に、石川は塾講師のようにホワイトボートに可愛らしい字で「目的」と書く。

「それはもちろん、『グループ内で一番優秀だと面接官にアピールすること』だ。だいたい、4人1組だから、自分以外の3人を‥」

ホワイトボートに可愛らしい4つの人形を書く。

「殺す。殺して、自分がその場のリーダーになる」

石川が笑いながら3つの人形の上に荒々しくばつ印をつけ、1人に王冠マークをつける。

「では、この方法はというと、結構簡単でね。ファシリテーターになっちゃえばいいんだ。望月さん、ファシリテーターってわかる?」

「えぇっと司会する人ですよね?」

「その通り。ファシリテーターになっちゃえば、あとは自分が思うがまま。自分の思い通りに場を支配できる。だから、一番自分がアピールできるように議論を誘導できる。よく就活セミナーとかではファシリテーターの方法とか、ファシリテーターなった後のことを教えるけど、本当に重要なのは‥」

望月は一生懸命ノートに石川の言葉を写す。

「なるまでの過程だ。この中でグループディスカッションに参加したことある人?」

石川が質問をすると、パラパラと手が上がる。

「どう?ファシリテーターになれた?」

「いや、最初から積極的に議論に参加したんですけど‥最終的に声の大きなやつに取られちゃって‥」

指された男の子がその時にことを思い出したのか、涙目で答える。

「その方法じゃ、リスクが高いし、労力もかかる。だから、『カッコウ』方式で行ったほうがいい。今からその方法を説明するね」

カッコウ?と望月は少し意味がわからなかったがそのまま聞く。

「まず、グループディスカッションが始まっても積極的に意見はしない。じっと黙っている。そうすると自然とファシリテーター役が決まる」

そして‥と石川が続ける。

「なんとなーく『こいつが今回のファシリテーターだな』とグループ内で暗黙の合意が取れたぐらいになったらその座を奪う。まるでカッコウが他の鳥の巣にある卵を蹴飛ばして自分の卵を産むように。そうすれば、残りのメンバーはもう序盤のファシリテーター争奪戦で敗れているからわざわざ反抗もしないから、すんなりいい役にありつける」

「奪う、ですか?」

石川は平然と話すが、言ってる中身は極悪非道だ。

「そう。奪う。要はファシリテーターを否定しまくればいい。大学生レベルだったらいくらでも穴がある。議論の進み方に関して、問題設定の定義について‥。それにファシリテーター役になれた学生は少し安心しているはずだから、批判に弱い。だから意外と簡単に崩れる。そして崩れた瞬間に、あくまで素人っぽく、代案を出す」

しかし、石川がまるでどこかの軍師のように見えてくる。

「この素人っぽさが大事だ。それが傲慢に見てしまうと敵愾心を煽ってしまうからね。あくまで謙虚に天然ぽく、自然に。それが一番人の心を折りやすい。で、なったあとはこの講習ノートに書いてあるように、お題に沿ってうまく結論をまとめるだけ」

望月は手元にある黄色のノートをめくる。それは入塾の際にもらった教材の一つだ。

「いいかい。あくまでどうファシリテーションをするかじゃない。どうやってファシリテーションの役になるかだ。このあとのグループディスカッション講習ではそこを意識して臨んでくれ」

望月はその後、石川が言った通りに岩渕を潰した。その結果、清々しいぐらい自分のペースに持っていくことができた。

石川は一通り望月を褒めると、ふと真剣な顔で話題を変える。

「まぁこれからも選考の裏技は教えるけど、就活も三月から開始されるし、次はあれだね」

はい、と望月は真剣な顔で答える。

「リクルーター攻略、です」

○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。