地獄への道は善意で舗装されている?#ニコニコ内定塾#2017年就活編#2th#2/18
「あの、三時から斉木様とお約束させていただいております、慶應大学の望月です」
「はい、望月様ですね。受話器をお戻しになってお待ちください」
2月18日は昨日と比べて、まるで冬に戻ったかのような寒さだった。
斉木からのメールは、会った当日の深夜に望月のスマホに届いた。
「慶應義塾大学 望月様
本日はお時間いただきありがとうございました。
就活コンサルタントの斉木です。
お話しさせていただいた就活塾についてですが、厳正な社内検討の結果、是非一度選考させていただきたいという結果になりました。(すいません。望月さんなら選考はいらないと掛け合ったのですが私の力不足でこのような結果になってしまいました)
就活対策をする上では早ければ早い方が思いますので、早速ですが、
2月18日(土) 15:00-
はいかがでしょうか。
場所は弊社となります。(場所は下記に記載しております!)
ご検討をよろしくお願いいたします。
斉木 拝」
望月はベッドから跳ね起き、早速自分のパソコンから斉木に選考を受ける旨を返信した。
やっぱり、就活関係のメールをスマホで返すのはどこか無礼さを感じてしまう。
もちろん、「ニコニコ内定塾」に対してちょっとした怪しさは感じていたが、担当の斉木は誠実そうな人だったし、もし詳しい話を聞いてやめたかったらやめればいいし‥と気軽な心持ちだった。
それにと‥、望月はメールの返信を打ちながら斉木から言われた「優秀だし、とても魅力的な人」という言葉を思い出して少しニヤニヤしてしまう。
正直、自分は就活に乗り遅れてしまったのではないかと不安だった。
周りの友達の話を聞いていると、自分もスマホに入れているテレビアプリの会社に内定した、有名商事の人事とご飯に行き実質の内定を貰った、などといった幸先の良さそうな話を聞く。
そういった人たちは、三年生の夏から複数の短期インターンに参加し、インターンの仲間で撮った写真をフェイスブックやインスタグラムにアップしていて、正直その時は「なんか意識高い系でイタイな」とサークルの友達とバカにしていたのだが、いざ就活を始めると「自分も参加すれば良かった」と後悔を感じていた。
焦って参加した就活セミナーでの模擬面接でも、周りの学生がアピールしていることよりも、自分がアピールしている内容が幼稚に見えてしまい、余裕のない心にさらに追い討ちをかける。
「場所、わかりづらかったですよね‥すいません」
少しナーバスな気持ちになりかけていた矢先、昨日会ったばかりの斉木の顔がドアから覗く。
確かに、「ニコニコ内定塾」は神泉方面へと続く少し入り組んだラブホ街のビルの3階という、少し分かりづらい場所に立地していた。
斉木に通され会社の中に入ると、昔通っていた大学の予備校のような、両側に複数の小さな部屋がある一本の通路が見える。壁の両側には様々なグラフや「絶対内定」「就活解禁まであと102日」といった標語が飾られていた。
斉木は昨日とは異なった真面目な面持ちで足早に一本道を通り過ぎ、「CEO」と書かれた部屋の前で立ち止まる。
「あ、メールでお伝えしていなかったのですが、望月さんの話をしたら是非うちの代表がお話をしたいということで、今から約2時間程度、お時間いただくことになるのですが大丈夫ですか?」
代表、という言葉に不安とある種の嬉しさを感じたが「大丈夫です」と平静を装って返答する。
「あと、一応本日は「選考」という意味合いも兼ねていますが、自分を偽らず、正直に今の自分について話してくださいね」
望月さんなら大丈夫ですよ、とニコッと笑うとコンコンコンと三回ドアを叩く。
「どうぞ」
少し低い、どっしりとした男の声が返ってきた。
「では頑張ってくださいね」
そういって斉木が開いたドアの先から、一人の男が革張りのソファに座っているのが見える。鋭い眼光、大柄な体、街中で会ったら絶対避けて通りたくなるタイプだ。
「初めまして。私が『ニコニコ内定塾』の代表の虎島です」
○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。