人事も人間#ニコニコ内定塾#2017年就活編#10th#3/5
「エントリー状況はどうだい、野田くん」
「いやぁ、まだ始まったばかりですよ、今泉部長」
野田はまだ春も来ていないというのに、汗だくになりながら答える。
そうか、と言って今泉はどこかにいってしまった。
もう五日もたったというのに、エントリーサイトからの申し込みは芳しくなかった。
そりゃそうだ、と野田は内心冷めながら結果を見つめる。
野田がいる会社は商社といえば聞こえはいいが、三菱、三井といった大規模なものではなく、衣類に特化した専門商社だ。
採用チームの予算も他の会社と比べると低いので広告もまともに打てない。ましてや最低限準備をしなければならない採用サイトでさえ、近頃は動画、凝ったアニメーションをつけたり‥と結構お金がかかる。
しかも‥と野田は去っていた今泉の背中を見つめる。今泉は一年前に大手の商社から転職して来たのだが、採用のやり方に関して、大企業のやり方にこだわるのが厄介だった。
まずは、学生リストをエクセルで管理し、そこに点数をつけていく。
エクセルの項目には、出身大学のレベル、人事の評価はもちろん、出身高校のレベル、参加したインターンのレベル、といったものすらも全て記入する。
しかし、これは志望者が山のように集まる大企業だからできることだ。
野田がいるようなパッとしない企業ではまずそんなに人が集まらないし、Sレベルの学生を昨今の就活市場から引っ張ってくるのは至難の技だった。
ぽちぽちと他社の就活サイトを見ると、まるで実態とかけ離れた言葉が並んでいることに苦笑する。
大きな裁量権、若手が活躍、ライフワークバランス‥、そういったものをさも最初から準備しているかのような書きぶりだが、このサイトを見る就活生のうち、何人がこういった言葉は自分から掴み取るものだと気づくのだろうか。
もちろん、野田の会社の採用サイトにも「グローバル」「働きやすい環境」‥そういった綺麗な言葉を並べている。けど、これはしょうがない。本当のことを書けば他の会社と比べて、魅力のない会社のように見えてしまう。
他社の夢に満ちた書きぶりよりも、自社をもっと素敵に描かなければ‥こうやって、勝手に実態とサイト上の企業がかけ離れていく。
まぁけど仕事だからしょうがない、と野田は割り切って考える。
仕事だから結果が全てだ。採用も仕事だ。
だから、最終的には「上司から高評価をもらえるような人材がどれだけ入ったか?」が重要で、別に優秀かどうかはあまり関係ない。別に入社してすぐに辞めても、人材育成チームのせいにできる。
では、上司から高評価をもらえる人材は何か?
それは結局のところ、たとえ会社で活躍しなかったとしても野田が言い訳できる人材だ。
あいつは高学歴だったんですけどね、あいつは他社のインターンにも通ってたんですけどね、そういった言い訳をどれだけ採用チームに与えてくれるか?
それが一番重要だ。
多分、就活生が一番勘違いしていることは、採用している側も一個の会社のサラリーマンだということだ。それを知らず、まるで人事が「学生の人生を一緒に考えている生き物」と信じている学生が多すぎる。
「野田さん、ニコニコ内定塾の斉木さんからです」
後輩が訝しげに電話を持って立っている。
「あぁありがとう。あとで折り返すって言っといて」
○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。