余裕を持って行こう#ニコニコ内定塾#2017年就活編#6th#2/25

「あのー。グループディスカッション対策講座に申し込んだ岩渕なのですが‥」

「お待ちしておりました。岩渕様ですね」

恐る恐る呼び鈴を鳴らすと、理性的な顔立ちに銀縁メガネ、外資系の金融にいそうな男が礼儀正しく岩渕を迎える。

「就活塾」と聞いて怪しげなイメージを持っていた岩渕は、意外とまともな雰囲気の人が出て来て少し安心した。さすがに二回連続のドタキャンは人としてダメだろうと思い、岩渕はニコニコ内定塾の「グループディスカション対策講座」に参加するため、わざわざ渋谷まで出て来ていた。

「初めまして。私がご連絡をさせていただいていた石川です。どうぞこちらへ」

石川の後に続き、「グループディスカション対策講座」と貼られた部屋に入る。もうすでに部屋の中にはリクルートスーツに身を包んだ学生が10人程度座っていた。岩渕が部屋に入ると一瞬顔を上げたが、スマホを見たり、何か問題集を解いたり、すぐに各々の作業に戻る。

「自分の名札が置かれた場所に座ってください。後、こちらのアンケートへのご記入をよろしくお願いいたします」

自分が仮病でドタキャンしたことには一切触れられず、石川はアンケートを手渡し、すぐどこかへ行ってしまった。岩渕はキョロキョロと自分の名札を探す。

「今日はよろしくお願いしまーす!」

自分の席を見つけ、先に座っていた参加者に挨拶をしても、少し怯えたように会釈して目を伏せられる。

この独特な緊張感は久しぶりだな、岩渕は自分が三年生の時にインターンの選考で初めてグルディスに参加した時を思い出した。だいたい三年のウインターインターンぐらいの選考になると、参加者はグルディスに慣れている学生しかいないので、席に着いたらアイスブレークも含めてお互い積極的に話し合う。決して、こんな堅苦しい緊張感のある空気にならない。軽く周りを見渡せば「講座」なのに参加者は全員しっかり慣れないリクルートスーツを着ている。岩渕はジーパンにパーカー、といった講座の中で唯一ラフな格好での参加だった。

「いやぁ、今日はスーツで参加だったんですねぇ。失敗したなぁ、私服で来ちゃいました」

隣でSPI問題集を解いていた女の子に軽く声をかける。

「え、いや、そうなんですか。大変ですね」

「望月」と書かれたネームプレートをかけている女の子は反応に困った顔で返した。よく顔を見れば小動物系で好みの顔だし、これは意外と来て正解かもと岩渕は心の中で喜んだ。

「いやぁ、就活大変っすよねー。望月さん、はグルディスとかあんまり経験ない系ですか?」

「そうですね‥あんまりないですね‥」

「えーそうなんですか!僕、サマーインターンとか結構参加してたんで、意外と慣れてるんすよね。まぁ今日はリラックスしてできたらいいなって。ほら、選考とか関係ないし」

望月はそうなんですか、と曖昧に頷くだけで反応が悪い。てっきり、「どこのインターンに参加したんですか?」とかもっと興味を持ってくれると思っていたのに、拍子抜けだ。選考の際に他の学生から「えー!あそこのインターンに参加したんですか!すごいですね!通るの難しいところなのに!」と尊敬の目で見られるのは岩渕にとっては快感だった。

まぁ、しょうがない、こいつらはまだ初心者なんだ、と自分を納得させる。こんなよくわからないグルディス講座に真面目に参加するとか、ネタじゃない限りできない。

話も続かないので、暇つぶしにアンケートを書き込む。参加したインターン、志望業界‥、もうなんどもESに書いてきたことなので機械的に埋めていく。

だいたい書き終わったなと思った矢先に、ぱたっとドアが開き、スーツ姿の大人が二人入ってくる。一人はさっき会った石川、もう一人は恰幅がよく強面の男だ。教室が静まり返った。

石川が中央に立ち、教室全体を見渡すと、ニコッと笑って朗らかに宣言する。

「では定刻なりましたので、グループディスカション対策講座を始めます」

○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。