本当の怖さは笑顔の内側#ニコニコ内定塾#2017年就活編#7th#2/25

「じゃあ、ちょっとブレストから始めましょうか!思いついたものをじゃんじゃん言ってください」
岩渕が当たり前のようにホワイトボートの前に立ち、同じ班の3人に声をかける。

グループディスカッションのお題は「日本経済を活性化させるためには?」とよくあるものだった。制限時間は一時間、その後各班で別室に入り、運営者側からフィードバックをもらう。
各班の評価を行うため、複数人の社員が各テーブルを回っていた。

岩渕はグループディスカッションが始まった瞬間、いつも通りファシリテーターのポジションにつくためにボールペンを手に取った。
グループディスカッションでは、ファシリテーター役が一番美味しいと岩渕は考えていた。人をまとめる力をアピールすることができるし、何と言っても「この場」を自分がアピールしたいようにコントロールできるからだ。
岩渕の声がけに応じて、二人がおずおずと「教育改革かな」「私は女性の社会進出だと思う」と口を開く。

「いいね、いいね!あ、そうだ、望月さんはどう思う?」

一人議論に参加していない望月をボールペンで指差す。

「えぇと‥」

「あ、大丈夫だよ!また意見があったら教えてね!」

だから、ダメなんだよ。岩渕は心の中で望月を嘲笑う。何も発言しない奴はいないのと一緒だ。この子はきっと、就活うまくいかないだろうなと少しかわいそうになる。
他の二人はリラックスしてきたのか、「やっぱり、日本企業のグローバル化も大切なんじゃない?」「確かに!そしたら、日本人の英語力も向上もだね!」と話し続けている。岩渕はニコニコしながら二人の意見をホワイトボートに書き続ける。こいつらも可愛いもんだ。普通の選考だったら最初の議論の出だしで、誰がファシリテーターを担うかの水面下の駆け引きがある。けど、こいつらは無邪気にただのプレイヤーとして参加すること以外考えてないらしい。世も末だ。同じ就活生なのにこんなにも差があるのか。

「だいたいネタは出てきたし、そろそろまとめるかな」とテーブルを振り返ると、ずっと身を潜めていた望月が突然手をあげた。

「ん?どうしたの?」

「あのさ、ちょっと思ったんだけど、議論の進め方って考えなくていいのかな?」

「え?」

想定していなかった発言に少し戸惑う。

「いや、あと40分後には発表しなきゃいけないじゃないですか?その40分後に岩渕さんはどのようなアウトプットを想定しているのかなって?いや、今の議論もそのアウトプットの質の向上のためになると思ってお話ししていると思うんですけど、そのプロセスを教えてくれると発言しやすいかなって」

「いや、それは‥今とりあえずブレストして、そこから一個に決めて、その解決策を見つけて‥」

岩渕が顔を真っ赤にして答えた。

「なるほど‥けど、そしたらまずやるのは問題の定義じゃないですかね?」

岩渕が言葉に詰まっていても、望月は淡々と続ける。

「いや、私も素人なんでよくわからないんですけど‥『日本経済の活性化』って言っても、活性化の定義を決めなきゃいけないと議論ができないと思うんですよね。それをGDPの増加にするのか、それとも他の指標にするのか‥、そこは岩渕さんはどのようにお考えてですか?あと現状のアウトプットイメージとそのアウトプットイメージまでのプロセスを教えてもらってもいいですか?」

さっきまでの盛り上がりが嘘のように空気が凍る。岩渕もぽかんとした顔をしていた。

「あれ、すいません。そしたら、私の中でたたき台みたいなものはあるので、そちらを共有しますね?あ、」

望月が岩渕を見てにこりと笑いながら言う。

「ペン、お借りてもいいですか?」