修羅場の数だけ強くなれるよ#ニコニコ内定塾#2017年就活編#3th#2/18

「どうぞ、お座りください」

虎島の口調は丁寧だが、その分、溢れ出る威圧感をひしひしと感じる。

「あ、はい!失礼します!」

目の前にポツンと置かれた、安っぽい椅子に慌てて座った。

部屋の大きさは大学の研究室ぐらいだろうか。虎島側には、重厚感のある机、その机に乱雑に置かれた書類の山、上を見れば「絶対内定」と墨で書かれた額縁が輝いている。

まるで、ヤクザ映画の親分の部屋のようだ。ただ、安っぽいプラスティックの壁のせいで、どこかちぐはぐ感も感じる。

逆に望月側には、まだリクルートスーツが似合わない齢23歳の女の子以外に何もない。

一つの部屋なのに、虎島と望月の間は何もかもが断絶していた。

「で、望月りなさんだっけ?」

虎島が眉間に皺を寄せながら聞く。

「どこに内定したいの?」

望月は自分の頭が真っ白になっていくのを感じる。今日は予備校に入る前の説明会みたいに、「うちの塾はこんな実績があって〜」と軽い説明を聞いて終わりだと思っていた。それにいざ「どこに内定したいの?」と聞かれても、明確な答えは自分の中にない。

部屋に気まずい沈黙が漂う。虎島も何も言わない。ただ年齢不詳の強面で望月の目をじっと見つめているだけだ。

「あぁ、えっと‥」

「分かりました。じゃあ」

沈黙に耐えきれず必死にひねり出した言葉を、簡単に虎島が遮る。

「内定したい先もないのに、なんで就活をしているんですか?」

もう、望月は早くこの空間から逃げ出したい気持ちでいっぱいになっていた。けど、頭の後ろの部分が痺れてしまって、気持ちはバタバタと動き回っているのに、言葉が全く出てこない。顔全体が火照り、背中に嫌な汗が流れていくのを感じる。

はぁ、とため息をつくと、虎島が机の上にあるスマホを取り出し、「斉木いる?ちょっときて」と電話をかけた。

数分後(望月には何十分にも感じたが)、バタバタという足音と共に、「失礼します!」と焦り顔の斉木が部屋に入ってきた。

「どうしました?」

虎島と望月の顔を行ったり来たりしながら聞く。

「どうもこうもないよ。聞いてた話と全然違うじゃないか。彼女、本当に有望なの?話すらできないんだけど」

斉木が来てくれたことで少しホッとしていた分、虎島の冷たい言葉は胸の奥底に突き刺さった。「あ、泣く」と自分で思った時には、既に涙は流れていた。

「泣いているし。これじゃあ、うちの塾には厳しいな。就活も上手くいかないでしょ。誰がこの子を取りたいと思う?」

「いやいや、彼女、本当に良いものを持ってるんですよ。メールの返信も早いし、コミュニケーション能力も高いと思うんです。ただちょっと足りない部分はあると思いますが‥」

斉木は必死にフォローしてくれている。私がこんなんだから困らせてしまっている‥。その申し訳なさや自分の至らなさ、そして就活に対する漠然とした不安が具体的な不安として迫ってくる怖さ、あらゆる感情が洪水のように渦巻き、涙を止めようと思えば思うほど、自分の意思と真逆に止めどなく流れていく。

虎島は少し首をひねり、しょうがないといった感じで引き出しを開ける。中から一つのファイルを抜き出し、望月の方に差し出す。

「‥そこまで斉木が言うなら、わかった。入会を許可しよう。けど、斉木、お前責任取るんだよな」

「ありがとうございます。はい、私が責任を持ちます」

苦しそうな顔で、恭しく虎島が差し出したファイルを斉木が受け取る。

「で、ここからが具体的な話なんだが」

涙で滲んで見える虎島が、望月を見据え、言う。

「とりあえず、100万円用意してください」

○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。