いつから就活をしていると錯覚していた?#ニコニコ内定塾#2017年就活#1th#2/17

「あの〜就活生の方ですか?」

望月がさっきまで参加していた企業研究セミナーを出ると、アンケート用紙を持った男性に話しかけられた。

男の歳は20代後半だろうか。きっちり整えられた髪型に、上品なスーツ、顔も自分好みの爽やかな塩顔イケメンだ。

「あ、はい…」

「急に話しかけちゃってすいません‥。実は今就活生の方にアンケートをしていまして、もしお時間あったら少しご協力いただけたらと‥」

望月が訝しげな顔を見せると、「いやいや、怪しいものじゃないんです」と慌ててスーツの胸ポケットから名刺を取り出す。

その名刺には「就活コンサルタント 斉木」と印刷してあった。

「私は都内で就活コンサルタントをやっておりまして‥今の就活生の就活事情を知るためにこうやってアンケートをさせてもらってるんです!もちろん、貴重なお時間いただくので無料とは言いません!お気持ちとなってしまうのですがご協力いただけたら今1000円分の図書カードをプレゼントさせていただいてまして‥5分ほどお時間いただけたらと‥」

「あ、はい、わかりました」

午後の銀行の説明会までは時間があったし、斉木の丁寧な口調と困り顔にも安心感があったので、その場でペンとアンケート用紙を受け取る。

何より図書カード1000円というのは、OB訪問や企業説明会、SPI対策本など、地味にお金がかかる就活生の望月にとっては惹かれるプレゼントだった。一年生から勤めていたカフェのバイトも就活に集中するため先週やめたばかりだ。

「いやぁ、今日はあったかいですねぇ。まだ2月の第2週ですよ」

手持ち無沙汰になったのか、アンケートを書き込んでいる望月の横で斉木が呟くように話し出す。

「そうですねぇ。コートもいらないくらいです」

アンケート用紙には、名前、高校名、大学名、学科、現在の内定先、志望業界、志望企業、連絡先メールアドレスなど、思った以上に細かく質問が並んでいた。

「あ、望月さんは慶応大学なんですか!私も実は慶応なんですよ!」

望月が書き込んでいるアンケートを横目に、斉木が恥ずかしそうに笑った。

「よくひよ裏の二郎とか行ってたなぁ。今でも人気なんですか?」

「私はいかないんですが‥周りの男友達がよくインスタにあげてるのは見ますよ!」

「そっか、まだ人気なんだぁ。あれは何か得体の知れない中毒性があるんですよねー」

意外な共通点が見つかったからか、望月も斉木も自然とフランクな口調になっていた。望月は何も疑うことなく、アンケートを進める。

一緒のセミナーに参加していた就活生がいなくなった頃には、びっしりと書き込まれたアンケートが出来上がっていた。

アンケートを差し出し、「本当に貴重な時間をありがとうね!はい、これ!」と図書カードを受け取る。

「ありがとうございます。じゃあ、これで」と望月が歩き出そうとすると、斉木が受け取ったアンケート用紙を少し真剣な顔で眺めながら「ちょっと待って」と声をあげた。

「どうしたんですか?」

どっか回答し忘れた箇所があったかなと振り返る。

「いや、ちょっと、アンケート見て、心配になっちゃって‥」

斉木はとても心苦しそうな表情をしている。

「望月さん、すごくいい大学生活を送って、優秀だし、とても魅力的な人だと思うんだけど、このアンケートを見ているとその良さが現れてないなぁと思って‥もしかして就活対策は最近始めた?」

「いやぁ、実はそうなんですよ。まだ全然『就活』って知らなくて‥正直困ってるんです」

うーん、と斉木が唸ってちょいちょいと望月を呼ぶ。

「これは内緒の話なんだけど‥実は完全紹介制の選ばれた人だけの就活塾っていうのがあって、そこに行けばほぼ一流企業に内定できるノウハウ・知識が手に入るんだけど‥興味ある?完全紹介制だから、ネットにも載ってないんだよね。いや、興味なかったら全然忘れてもらっていいんだけど」

斉木の雰囲気に釣られ、望月の声量も自然と小さくなる。

「え、ほんとですか。それはちょっと気になります‥」

「なるほど‥そしたらちょっと上司と相談して、ここの連絡先にメールするね」

さっき書いたアンケート用紙の連絡先欄を指差す。

「わかりました。ちなみに、なんていう就活塾なんですか?」

斉木は少し周りを警戒して首を振る。誰も周りにいないこと確認して、小さく呟いた。

「ニコニコ内定塾」

○この物語はフィクションです。実在する団体や個人、事件などは一切関係がありません。