映画感想「マイレージ、マイライフ」(原題:Up in the air)
観た映画
映画のあらすじ
心に残った場面
ジョージ・クルーニー扮する主人公は、企業に代わって従業員に解雇を通達するリストラ宣告人のプロである。
特に心に残ったシーンは、解雇を通告して憤慨する従業員の一人に対して、主人公がポジティブなオルタナティブ・ストーリーの提示を通じて、相手の状況をよりポジティブにリフレーミングする場面である。
結果、その初老男性の従業員は自分が以前から叶えたかった夢に向けて一歩を踏みだすよう、前向きな気持ちを獲得する。失業は、新たな人生を始める格好のチャンスとも言える。ある職場に長く勤め続けることは必ずしもその人が本来目指していた幸せに続くとは限らない。
なぜ心に残ったのか
解雇を告げられた人々の反応を見て、わたしはキューブラー・ロス女史が著書「死ぬ瞬間」に記した、以下の「死の需要のプロセス」を思い出した。
この5段階のプロセスは、映画「最高の人生の見つけ方」で末期がんに罹った主人公同士の会話の中でも登場する。
死と解雇はもちろん異なるものであるが、人が大きな心理的ショックを感じた場合に、心がどのような反応を段階的に経るかという点において、このプロセスを当てはめることができるのではないだろうか。
本映画内では、解雇された人の反応が多く登場する。多くの被解雇者の反応は、上記の5段階で示すならば、第1~第3の段階である。
わたしが挙げたシーンの従業員は例外的に、第5段階の受容の境地に至り、前向きに次のステージに進んでいくように見える。
ここで、ベテランである主人公は、相手のプロフィールや過去の経験を詳細に調べ尽くしたうえで、その相手ならではのメッセージで、第二のキャリアを始める提案を行っている。相手の心情に寄り添い、短い時間で心の回復をサポートしているのだ。主人公の巧みな心理アプローチが特に心に残った。
登場人物の行動から自分の生活を振り返る
主人公による説得がうまくいく一方で、リストラ宣告会社の若手社員の説得は往々にしてうまくいかない。彼女は、オンライン化による出張コスト削減案を自社に提示し、半ば採用されていたが、実際に相手のオフィスに足を運び、面と向かって話をすることの重要性が後に証明される。
本作は、2009年に制作された映画であり、ビジネスシーンのオンライン化は当時の時点で画期的だったと考えられる。
2023年現在、コロナ禍を経て、リモートワークは常態化してきたが、リアルで対面して会話することの意義は、今後も重要であり続けるだろう。
今後の生活に役立てたいこと
主人公から学んだよい点は、コミュニケーションの仕方である。
人とコミュニケーションをするうえで、相手の心情に寄り沿いつつ、よい面に着目することを心掛けたい。何を望み、これからどうしていきたいのか、ポジティブに未来を見ることを、自分に対しても、他者に対しても、実践していきたい。
一方で、主人公を反面教師にしたい点は、キャリア観である。
何のために仕事をし、何のために生きるのか、という点において、主人公のキャリア観、そして、人生は空虚なものに見えた。独身でいることや子供を作らないことは個人の選択であり、そのこと自体は不幸せとは考えないが、主人公自身が本当に自分が欲しいものをわかっていない点は不幸に思えた。
いくらビジネス的に成功していようとも、自分が欲しいものが分かっていない人生は空しく思われる。
原題"Up in the air"は、主人公の航空機で空を飛ぶ出張生活の日々と、拠り所なく宙に浮いた生活を意味するダブルミーニングだろう。
他の人と比較した社会的成功や、実体のない願望ではなく、自分ならではの夢を追うとともに、いまここにある幸せを感じられる人生でありたい。