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アフターコロナにおける、アートプロジェクトのあるべき姿を考えてみた。

小豆島・妖怪アートプロジェクトが運営する「妖怪美術館」は現在(2020年4月)休館中です。チケットをお買い上げいただかなけれは経営は成り立ちません。当然のことながら、売り上げはゼロ。この危機に際して私たちは、オンラインでの有料の入館体験コンテンツを開始しました。刻々と変わる情勢に、試行錯誤が続く毎日ですが、こうしたサービスを開始するに至った背景をお話しします。

以下は、2020年度の事業計画策定や、増大するコロナ禍をにらみながら、2~3月にかけてスタッフ向けにまとめた文章をもとに、私が個人的に考える今後のアートプロジェクトの方向性について述べたものです。

世界規模のパンデミックによる各国の渡航禁止や都市封鎖によって、人の往来は大幅に制限されることとなりました。日本国内においては、緊急事態宣言により外出自粛が要請され、また、そこから派生する風評リスクや倫理上の理由から、営業自粛を余儀なくされている多くの店舗がある状況は誰もが目の当たりにしているところです。

当初、5月ころまでには収束するだろう、という予測を織り込み、6月以降は徐々に客足も回復する想定でした。しかし、事態はそんなに甘くありませんでした。さらにこれからは、アフターコロナというよりも、ウィズコロナの時代がやってくる。疫病はいつも生活と共にあるということを前提とした社会がやってきます。

安宅和人さんが提唱する「開疎化」についてのお話しにも明らかなように、2000年間かけて人類が発明した「都市」は、人類にとってリスクの温床となっています。これに象徴されるように、我々の文明社会はパラダイムシフトを迎えているといっても過言ではありません。

すなわち、それまで描いていた未来像は「コロナ前」のことであり、その延長線上に未来がある、という考えを一旦、脇に置く必要があります。

思い描いていた将来は、もう来ない

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都市は、閉鎖された空間に、人間を密集させることで効率性を高め、安心や安全はもとより、経済的な優位性を生み出しました。ビジネスにおいては「人を集める」ことが最重要課題の一つでした。

しかし、これが全く逆のベクトルで人々の価値観が動き出そうとしています。誰もが開かれた場所で、ゆとりのある空間を善しとする雰囲気となり、相対的に地方は価値が上がる、とも言われています。私は瀬戸内海の小豆島という、都会から見れば極端な「開」であり「疎」な場所において生活をしています。家と職場は歩いて1分、いわゆる職住近接です。テレビやネットさえ見なければ、今も日常は何も変わらないようなところで生活を送っています。ですが、田舎最高!というつもりはありません。

集めることができない今、人々はオンラインを通じて、どのように関係性を保つか、に躍起になっています。

私が考えるのは「あつめる、から、つながる」へのシフトです。

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ビジネスでもこの動きには抗えません。美術館においても、人をいかに沢山集めて入館してもらうか、という視点だけでは、ままならない状況となります。

では、どうするべきなのでしょう?

そこで私たちは今年度だけでなく中長期において、活動方針を根本から見直し、「アフターコロナ」の時代に向けて、新しいコンセプトを打ち出す準備をしていかなければならない、と考えています。

強みの本質を考える

さて、このように考えたときに、我々の強みになる独自資源はなにか、と問うならば、それは今までと変わらず「825体の妖怪造形作品群」であることに変わりはありません。

私は2018年にこれまで「現代アート」が中心だった活動を「妖怪」を主軸に方針転換をしました。私たちが持つ“独自資源”として「825体の妖怪造形作品群」があったからです。そしてこれを「観光」というフィールドにおきました。ターゲット(顧客)を外国人やアート好きな日本人に設定することで、2019年度は入館者が前年の3倍、売り上げ10倍を達成することができました。詳しくはこちらの記事をご覧ください。(また、ここに至るためには、事業全般にわたってアドバイスをいただいている、水族館プロデューサー中村元さんのご助言が不可欠でありました)

ただし、この独自資源を新たな時代に適用させるためには、異なる次元で再定義しなければなりません。

すでに述べたように、物理的な人の往来が制限されている状況では、「観光」という“その場所に訪問して楽しむ”ことは期待できない状況にあります。すなわち、これまで考えていた、「沢山の人に訪問してもらい、関係人口を増加させる」という観光ビジネスのストーリーが根本から覆される事態に陥っています。もちろん、ある程度「収束」すれば需要も回復するでしょう。国の施策も後押しとなり、たくさんの方にお越しいただける時期も、そう遠くはないと思います。

ですが、思い描いた将来像はこないことを想定して、私たちが持つ価値(=強み)の本質はなにか、について(「つながる」をヒントに)今一度考えることができれば、私たちのプロジェクトはさらに進化することができると思ったわけです。

「出品」をリスペクトしあえる半永久的な関係性
私たちのプロジェクトのコアには「妖怪造形大賞」というコンペティションがあります。これまで6回のコンテストを行い、全国から825体もの妖怪の造形作品が集まっています。この作品群の持つ意味については、こちらの記事に詳しく述べています。

今、この妖怪造形作品群を中心として「相互評価コミュニティ」が生まれはじめています。「相互評価コミュニティ」とはすなわち、妖怪造形大賞に出品した825の作者の人たちと、コンテストや保管・展示にかかわる我々を含み、さらにこれを鑑賞するお客様など、【出品】という行為や、作品へのリスペクトを前提として同じ土俵に立っている、【フラットでインタラクティブな】関係性によるコミュニティです。

一つの具体例があります。ある出品作者さんから、妖怪美術館のキャラクターを造形にしてグッズ化、販売しても良いか?と問い合わせがありました。その方はコンテスト受賞歴も多数のいわば“常連さん”ですので、クオリティはお墨付きです。即座にお願いさせていただきました。出来上がったグッズは美術館の店頭で販売。たちまち人気商品となりました。

自分が出品した作品や想いだけでなく、同じように出品した他の作者や作品についても想いを馳せ、愛着や愛情をもってつながれる関係性。そしてこれを基に、能動的に新しい取り組みやアイデアを考えだしていくことができる場。こうしたものが妖怪作品群を中心とした「相互評価コミュニティ」となります。平たく言えば、「妖怪造形大賞や妖怪美術館を中心とした作者と鑑賞者たちの集まり」ということができます。そこには上下関係はなく、その中では自由に発言でき、様々な活動が許される場でもあります。そこには特徴的な得意分野を持つ人々がたくさんいらっしゃいます。各々のスキルを出し合って、新しい取り組みができる可能性がそこには秘められています。

これこそが、新たに定義される私たちの強み、
妖怪造形作品群を介した相互評価コミュニティ>です。

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825体ある作品群の後ろには、825の作者がいます(複数制作している人がいるので、正確にはもっと少ないですが、何時間もかけて作られた作品個々に込められた“想い”という意味では間違いなく825あります)。つまり、この作品を通して、私たちは800を超える人たちとの強い関係性をもっている、ということなのです。さらにこの作品や作者に対して尊敬の念を持つ鑑賞者やファンがその周りに存在します。

これらの人々が、フラットな関係性において、能動的に何かを創り出そうとした時、ものすごいパワーとなり、新たな文化が生まれていく可能性がある。私はそのように感じました。これまで、みんなの作品を展示して「消費する」だけだった取り組みが、文化を「創る」取り組みとして、私の中で再定義された瞬間でした。

さらに、他のコミュニティにはない強みがあります。それは、この関係性は825体の作品を私たちが大切に所蔵して展示する限り、無くなることがない、ということです。現実にある作品を介して、コミュニティを(半永久的に)保つことができるのです。そこには日本の歴史を背景とした共通の文化的DNAが備わっていることは言うまでもありません。

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これからの活動
今後はこのコミュニティの皆さんと共に、文化を創る活動を考えていきたいと思っています。

<活動例>
・メルマガ/オンラインサロン
・ユーチューブチャンネル
・オンライン入館体験
・オンラインミーティング
・モノノケ酒場(館長・柳生忠平が主宰のオンライン飲み会)
・コミュニティ内のイベント
・コミュニティが運営する新しい形の「妖怪造形大賞」
・仮想空間による新しい鑑賞方法の開発
・作品群を使ったあらゆる二次コンテンツ化
 アニメ、漫画、ゲーム、小説、映画、テーマパーク、体験、音楽 等

妖怪美術館は、こうしたコミュニティによる活動の事務局の役割を担います。まずは、この活動の第一弾として、オンライン入館体験を実施することとしました。一般のお客様は有料なのですが、出品作者の皆さんには別途、無料体験ができる日時を案内していきます。

これからも<妖怪造形作品群を介した相互評価コミュニティ>がより深い愛情や愛着によって盛り上がっていくように尽力していきたいと、私は考えています。


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