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千日手(せんにちて)

 清潔な衣服にそでを通すのは気持ちいいですね。
 洗濯物をたたんで、しまうのはめんどくさいですね。
 私はゲームをしながらその作業をしています。分野で言うと「戦略シュミレーションゲーム」。タイトルは「スーパーロボット大戦」です。ロボットアニメに夢中になったことのある方にはお勧めします。そうでない方には何のことだかわからないゲームです。お勧めしません。
 簡単に説明しますと、将棋を単純に、派手にしたような物です。駒と駒が近づくと、お互い攻撃をして勝ち負けが決まります。駒になるのは昔懐かしいロボットたちです。「マジンガーZ」と「ガンダム」と「エヴァンゲリオン」が時代も越えて、世界観も越えて、一緒に戦います。敵は、これまた懐かしい敵ロボットたちです。「機械獣」や「モビルスーツ」や「使徒」が襲ってきます。敵のロボットの駒を動かすのはコンピューターです。シリーズ第一作から30周年を記念するというロングラン人気ゲームです。
 ロボットとロボットが接触すると、戦闘のデモムービーが流れます。これが30秒ほど。同じムービーの繰り返しですから、毎回見る必要はないのです。この30秒の間に洗濯物をたたみます。30秒あれば、結構たためます。ムービーの後、ゲーム機は私の操作を待ちます。きりのいいところまでたたんだら、操作をして、また30秒。ちょうどいいのです。
 めんどくさい洗濯物をたたむ作業が、楽しいゲームの時間になります。
 永年このゲームをやっていますが、ある日、このゲームで千日手(せんにちて)が出現したのです。
 千日手とは将棋やチェスで出現する、同じ手が何度もくりかえし続くという状況です。攻守どちらも不利になるので、別の手が打てないというものです。千日かかっても勝負がつかないから千日手。基本ルールは将棋やチェスと同じなので、理屈としては千日手が出現してもおかしくないのです。
 私は生まれて初めて千日手を見たので感動してしまいました。
 千日手が出現した場合、チェスでは引き分けとなるそうです。将棋では最初から指し直しです。さて、「スーパーロボット大戦」ではどうなる? と思っていたら、少なくともコンピューターの方は延々と同じ手を繰り返して打ってくるのです。ゲーム機のコンピューターですから千日手だということに気づかないのですね。
 冷静に考えれば、相手は機械なんですから、わざと負けて、打ち直しにした方がいいのです。
 しかし、私には、この千日手、勝算があったのです。
 このゲームが将棋やチェスと違う所は、駒のロボットが経験値を積んで少しずつ強くなるということです。敵のロボットにはその能力がありません。つまり、この状況、ひたすら続ければ、いつか私が勝つと読んだのです。
 私は毎日洗濯物をたたむたびに、この千日手に挑みました。
 半年ほどたちました。
 「スーパーロボット大戦」の新バージョンが発売されました。私は目もくれません。千日手に夢中です。敵のロボットを一機でも撃墜すれば、たちまち均衡が崩れて、一気に勝てるはずなのです。
 結果から申し上げますと、わたくし、この千日手に敗北いたしました。
 相手は機械です。繰り返しの単純作業で勝負を挑んではいけないのです。
 人間は操作ミスをします。機械はミスをしません。私は半年も続けたんですから、間違えもしますよね。一手、操作を間違えただけなのですが、一気に均衡が崩れて、惨敗いたしました。
 結局、その面は最初からやり直し。何たる屈辱。
 しかし、その後の面は、ゲーム全体のエンディングまで無敗でサクサクと勝ち進みました。ゲームというのはだんだん、少しずつ難しくなるように設計してあるのですが、あっけなく終わってしまいました。ラスボスが弱くてびっくりしました。
 そうじゃないんです。あの千日手に参加したロボットたちがけた違いに強くなりすぎていたのです。普通にゲームをしていたら到達できないレベルになっていたのです。
 機械との付き合い方を考えさせられる出来事でした。繰り返しの作業に持ち込んだら、あとは機械に任せればいいのかもしれません。物事の習得には繰り返しが必要です。繰り返しの練習には機械に付き合ってもらったらいいのかもしれません。
 洗濯物をたたみながらできるゲーム。そういうゲームがたくさんあるといいですね。
イラスト by freehand

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