見出し画像

学生の質問

 アルツハイマー型認知症の母を14年同居介護しました。その事を書いた本を出した事がきっかけで、大学のゲスト講師として呼ばれることになりました。
 子どもの多い時代に学生時代を過ごしたので、たくさんの学生の前で話す気でいましたが、実際にいた学生は6人くらいでした。講義というよりも、座談会のようにした方がいいだろうな、と思い、軽く自己紹介して、質問を受け付けました。
 すると最初の学生がこう質問してきました。
「なんで介護しようと思ったんですか?」
 即答できませんでした。
 介護をしようと硬い意志をもって始めた事ではないのです。親と同居していたら、たまたまアルツハイマー病になったのです。そのころ親の周りにはたくさんの友人たちがいて、その人たちも介護に参加してくれると思っていたのです。しかし、誰も参加してくれませんでした。それこそ、認知症患者がいるとわかれば、役所や病院が勝手に介護してくれるんじゃないかと思っていました。北欧は実際そうらしいのですが、日本では役所や病院は介護者が働きかけないと動いてくれません。親の介護がしたいだなんて、人生のうちに一度も思ったことはありません。みんな私に押し付けて、逃げてしまって、誰もやらない。逃げる勇気がなかったからやっただけです。
 学生の無邪気な質問に、言葉に詰まってしまって何も言えませんでしたが、今ならこう答えます。
「あなたたちの時には、やりたいと思った人だけが、介護するという時代が来るといいですね。」

English
イラスト by Undrey

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?