![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/121495394/rectangle_large_type_2_7286f0d2784c36a896ee51c3ce65df05.jpeg?width=1200)
築100年超の洋館のインテリア改修|オリジナルカーペットをつくろう
普段は日本の古い建物、いわゆる古民家の改装の仕事が多いですが、時折古い洋館に携わることもあります。
ヘッダー画像が対象の建物なのですが、資料によると築100年以上経っているそうです。
今回はこの建物の部分改修の依頼を受けました。
細かい修繕がほとんどですが、1点だけ、空間の印象を左右する部分がありました。それが客室の床全体に敷かれているカーペットのやりかえでした。
![](https://assets.st-note.com/img/1699790510342-JFJ3tGQBI1.jpg?width=1200)
イメージに近い既製品がなければ、オーダーメード一択
カーペット自体が建物の築年数と同じく100年経っているのかどうかは、改装の記録がなかったためわかりませんでしたが、糸を留める基布が見えるところがあるくらい劣化していました。
過去にやりかえたことがあったとしても、優に数十年は経過しているように見えます。
この歴史あるカーペットを新しくします。
新しくすると言っても、現在巷にある既製品に替えるのではなく、あくまでこの印象をそのままに改修したいというオーダーでした。
全く同じ色柄の既製品はもちろん存在しないので、オーダーメード一択です。さて、どんなところから検討を始め、どのように製作すれば良いでしょうか?
既存の織り方を調査して、コストなどの条件を検証する。
カーペットには色々な織り方があります。
そして織り方によって値段は千差万別です。
カーペットの種類については、いろんなところで解説を見ることができるので割愛します。(興味のある方は以下リンクから)
現状のカーペットの裏表を良く観察します。
製作時期は未定とはいえかなり古い。
長年踏み締められぺったんこになっているので、元の状態を想像することは難しい状態でしたが、壁の端部は比較的状態が良かった。
毛糸といえるくらい太い糸で織られた毛足が長めのシャギーカーペットのようなものだと推測できました。
時代から考えると手織りでしょう。
柄は500角ほどの正方形一つのパターンが連続しており、柄に使われている色数は5。
ハンドタフトカーペット
これを現代で再現するなら、完全な手織りは製作しているところを探すことも難しく、目が飛び出るほどのコストになるのは想像に難くないので、ハンドタフトの技法にあたりをつけました。
ハンドタフトの技法についてはこちら↓で詳細に紹介されていました。
(堀田カーペットさんはデザイナー皆大好きだと思います)
ハンドタフト技法は完全手織りではありませんが「フックガン」という道具を使って、少しずつ布に糸を織り込んでいくので、製作に非常に時間がかかります。
まずはいちばん再現性が高いこの方法でお見積りを取得しました。
1平米あたり約4万円。
うーむなかなか、いや、かなり良いお値段。
大理石を貼るよりも高い。
基布に柄の下絵を描いて、その柄の上に違う色の糸を打ち込んでいく。
単色で作るよりもさらに手間が多くかかるので、確かにこれくらいするだろうな、と納得の金額です。
合理性のある方法を探る
ハンドタフトは素晴らしい質感を持った高級カーペットですが、大面積を施工するにはちょっと予算がかかりすぎる。どうしたものだろう。
このお店は宴席も頻繁に受けているレストランなので、料理やワインをこぼされてカーペットが汚損される可能性が非常に高い。
都度クリーニングするのは大変だし、ワインやコーヒーの汚れは完全に落ちない。
そう考えると、汚れた部分だけを取り替えることができる、タイルカーペットにが適切ではないかと考えが至ります。
インクジェットプリントカーペット
既製品のタイルカーペットは、色柄が決まっていますが、白の単色のタイルカーペットにインクジェットで色柄を印刷する技法が存在します。
![](https://assets.st-note.com/img/1699793285469-yeHokmdFqv.jpg?width=1200)
長谷虎紡績株式会社のブログより引用
色ごとに糸を変え、手仕事によって取り付けていくハンドタフトと比べると、柄の境目にある糸が2色に染まっていたり、糸の太さや製作誤差による自然な立体感がないなど、質感は劣ってしまいいます。
しかし、前述のように合理性を考えた場合、この技法を使うことが適切に思われました。
幸にして、再現しようとしている柄は幾何学模様で、かつ長年の踏み締めで平坦な印象になっていました。
このような条件であれば、この技法を用いたカーペットで張り替えても、施工後の印象はそれなりにできるのではないかと感じました。
というわけで、こちらの方法で製作した場合のお見積りも取得します。
お値段、1平米あたり1.7万円。
ハンドタフトの1/2以下と出ました。
クライアントへ方針の確認をする
ここまで検討した上で、2種類のカーペットのサンプルを用意し(色柄は反映していない、単色の状態)、クライアントに価格や質感の違い、メンテナンス性などの情報と共に提示します。
どちらの製品で進めるかを判断してもらうためです。
やはり質感の違いが一番の悩みどころだったようですが、初期コストと運用性、ランニングコストを考慮して、最終的にはインクジェットプリントのタイルカーペットで進めることになりました。
ここから製作に入っていきます。
グラフィックソフトを使って柄を制作する
パターン柄の制作には「タイリング」処理が必須
ハンドタフトとインクジェットプリント、どちらを選択した場合でも柄のパターン製作は必須です。
その中で、タイルカーペットのパターン柄をつくる時に重要なのは、タイリング処理です。
タイルカーペットは500角など一定のサイズのパーツを敷き並べて柄を表現するため、1枚の柄のつくり方を間違うと想定していた全体像になりません。
市松模様を使った簡単な例を挙げます。
![](https://assets.st-note.com/img/1699775758616-J0JCW7L1y0.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1699775795081-zDxr15PX0R.jpg?width=1200)
市松模様は簡単ですが、複雑な柄をつくる際には、フォトショップの「スクロール」フィルタを使って編集します。
画像サイズの上下左右半分ずつの寸法をずらし、その時に画像中心に十字に出現したラインをスタンプツールなどで丁寧に消していく、などの作業が必要になります。
この作業の解説はリクエストあれば別の機会に。
柄を2種類つくった
前述のようにタイリングを意識して、以下の二つの画像を制作しました。
![](https://assets.st-note.com/img/1699776290812-Z22exM5Tcj.jpg?width=1200)
左の画像は、現在のカーペットの様子を表現したもの。
右の画像は、長年踏み締められる前の、竣工当時はこんな柄だったのではないか?と推測したものです。
なぜ踏み締められた現在の状態に似せた柄を作ったか
カーペットの種類を決める話ので「長年の踏み締めで平坦な印象」と書きました。ここを読まれて「はて?」と思った方がおられたかもしれません。
初めて訪れるお店で、訪問以前の印象と近いかどうかは関係ないのでは?と。
上の画像のように、検討に2種類制作したのことには訳があります。
それは「常連のお客さん」と「古い建物であること」を意識したからです。
長く営業しているお店なので、一定数の常連のお客さんがおられます。
また、建物自体が大変古いので、初見のお客さんであっても「古い建物の空間を体験しに来た」感覚をお持ちの方が多いのではと想像しました。
建物のあらゆる設えに年季が入り、アンティークの趣きをもつ空間に、例え創建当時の姿だったとして、端正な幾何学模様のものを挿入するとどこか違和感が出るかもしれない、そう思いました。
そこで2種類の柄をつくり、クライアントに制作意図を伝えて判断をしていただきました。
その結果「長年踏み締められた、現在の柄に近いもの」で改修することになりました。
色を指定する
柄の制作はもちろんのこと、オリジナルでカーペットをつくるなら「色の指定」も必須です。
現地で確認すると5色が使用されていました。
持ち込んだカラーチップを各色に当てて、一番近い色味を採取します。
ちなみに使用したカラーチップはPantoneです。
建築の現場で使われるカラーチップは、主にペンキの色指定に使われる「日本塗料工業会」が発行するものを使用します。(略して「日塗工」と呼ぶのが一般的です)
しかし、今回の染色に使用するのはインクジェットプリンタで、紙に印刷するようなインクを使います。なので、印刷の現場で使われるPantoneで指定します。
![](https://assets.st-note.com/img/1699777747652-rmHlYbwqIz.jpg)
https://www.pantone.jp/ より
現場で採取した色は、柄と同様に経年変化されて、薄く色褪せていました。
柄の話と同様に、現在の色そのままで行こうかとも考えましたが、赤や黄色、黒といった原色が色褪せていることは誰の目にも明らかなので、現状よりも創建当時の色に少しだけ近づけるように、若干彩度を上げた色を選びました。
これは「こうした方が良いだろうな」という感覚的なことなので、誰かを説得できるような大義名分はありません。
空間全体を見た時のバランス感覚とでも言いますか、これは経験値によって色々判断があると思います。
こうして柄をつくり、色を選んだら、製作メーカーさんにデータを送付して、サンプルをつくってもらいます。
サンプルを現場に持ち込んで最終確認
オリジナルカーペット製作最後の工程は、メーカーさんから届いたサンプルを現場に持ち込み、実際に敷いて印象を確認することになります。
ここで思ったような印象が得られない場合は、納得できるまで色柄を修正します。
ただし、サンプル製作は無料ではありませんし、オリジナルカーペットは納期もかかりますから、予算と工事スケジュールを十分考慮に入れて取り組みます。
以上がオリジナルカーペット、今回はインクジェットプリントのタイルカーペットの製作工程でした。
既製品では表現できないオリジナルの空間をつくりたい場合には、空間を占める割合の大きい床面を利用するのは効果的かもしれませんね。
ではまた来週。
いいなと思ったら応援しよう!
![笹岡 周平 |空間デザイナー/株式会社ワサビ 代表取締役](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/91568957/profile_b5b2be48a2b9382bc8d43f6f2d6c986d.png?width=600&crop=1:1,smart)