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毒にも薬にもなるインテリアデザインの方程式5選

くつろげる自宅の落ち着いたインテリアデザインとは少し違って、商業施設のインテリアデザインには非日常感、今風に言うと「映え」を求められることが多いと感じています。

それを体現できる方程式というものが存在します。
しかし、この方程式の原理はわかりません。

方程式を使えば、大半の人の心を動かすことはできるけれども、なぜそれをすると人の心が動くのか、という原理はわかっていない。

なぜだかわからないけど、こうすると印象が良くなるらしい。
だから古くから定番の方程式として存在する。

原因はわからないけどなぜか効く薬がある。
薬の開発の歴史になぞらえると、いつか科学的に原因が解明されるのかもしれません。

と言ってみましたが、実はすでに解明されていたりして、、、
論文検索等をせずに記事を書く不精をお許しください。
ご存じの方がいたら教えてください。

ともあれ、そういう方程式があるなら知っておきたいと思うのが人情でしょう。数ある方程式の中から個人的に定番だなと思うものをご紹介します。



カラーコーディネート


印象の良いインテリアは例外なくカラーコーディネートがされていると言って良いと思います。

ここに挙げている方程式の中では最も定番であり、これができているかどうかがプロの仕事の分かれ目になります。
素材と色の選定にはプロのデザイナーは誰しもかなり気を遣っています。

一方で、見る人はプロかどうかに関係なく、きちんとカラーコーディネートできている空間とそうでない空間を無意識に判別できる能力があると思います。
正確に言語化はできないけれども、なんだか違和感がある雰囲気だな、というくらいのことではありますが、だからこそ外せない方程式であると言えます。

<W Hotel Bali>
視察のためとはいえ、リゾートホテルに一人で行ったのは間違いだった。
周りはカップルだらけで落ち込んだ。

補色になる2色を取り入れて印象を強める、彩度や明度を変えた同系色の色合いで全体をまとめる、ダークトーンでまとめた中に明るい色を一色だけ入れる、などなど。

これを色の観点だけでなく、マテリアルのテクスチャと掛け合わせると無限の組み合わせのコーディネートが可能になります。
ただし、なんでも良いわけではなく、人間の感覚に合わせた組み合わせを考えることがとても重要になります。

複数あるいは連続


同じ形状、色をした柱が先が見えないほど連続している廊下。
大小様々な額縁が壁面いっぱいに掛けられている。
壁一面の本棚にたくさんの本が並んでいる

Kelly Hoppen 著| ”Style" The golden rules of design より
Photo Vincent Knapp


同じモチーフが複数、これでもかと数多く並んでいる状態は人に強い印象を与えます。

ヨーロッパの古いアパートメントの吹き抜けに、グランドフロアから最上階まで続く回り階段があれば、人はつい最上階から下を覗き込んで、旅行者だったら思わず写真を撮ってしまうことでしょう。

小さなガラス片が一つだけ天井から吊っていてもさして印象に残りませんが、1000個ものガラス片が吊ってあったらどうでしょうか。

どんなモノでも数を増やして、人の視界に充満させると印象的になるようです。それがたとえ100均で売っているプラスチックのお皿であっても。

ただし、世の中には集合恐怖症の人もいるので、使い過ぎにはご注意を。

アンティークを取り入れる


白で統一されたシンプルでスッキリとした空間の中に、1800年代に作られた茶褐色の無垢の木の椅子がポツンと置いてある状況をイメージしてみてください。

そのあと、この椅子を量販店で買ってきた組み立て式のものに置き換えてみてください。
どちらが印象的でしょうか?

アンティークがって好きじゃないんだよね、という人もいるかと思いますが、好みの問題ではなく「どちらが印象に残るか」の観点で考えると、やはり前者を選ぶのではないでしょうか。

モノが存在してきた時間が何かを訴えかけてきているのでしょうか。
時間の経過は見ることができないので、実質的にはそのモノの表層に現れている経年変化の跡を私たちは「魅力的なもの」と認識しているのだと思います

VINNY LEE 著 |ZEN INTERIORS より

この方程式には少し注意点があります。

インテリアの要素全てをアンティークにすると印象が弱くなります。
なぜなら、要素全てがアンティークになると、それはもはや「昔から存在する古い建物が今もそのまま残っている」状態であり、インテリアの印象の話ではなく、古い建物が好きかどうかの観点になるからです。

このことから、この方程式にはある定数が存在することがわかります。
それはコントラスト

全体が新しいインテリアの中に、1点だけ古いものがある。
全体が古いインテリアの中に、1点だけ新しいものがある。

一つの空間に質感や状態の異なるモノが対照的に存在している状況をつくることが、印象に残るインテリアをつくる方程式となります。


艶を加える


艶消しのペンキやクロスだけで仕上がったインテリアは落ち着く優しい印象になりますが、反対に考えると刺激が足らず、どこか「眠たい」印象の空間になります。刺激が足らないのでしょう。

そこで登場する方程式が「艶を加える」ことです。
具体例として、「金属を使う」「ガラスを使う」「素材のトップコートを艶ありにする」などがあります。

金属やガラスと聞くと、艶よりも硬質さ、輝き、透明性の方が先にイメージされそうですが、この方程式の正体は「反射」です。
(それならタイトルを「反射」にすれば良いのに、、と思ったのですが、艶の方が幅広く捉えられそうだと思った次第です。)

物質の表面が反射の性質をもつと、空間に視覚的な広がりや変化をもたらす効果が付与されます。

例えば緑がいっぱいの庭につながるダイニングにテーブルを配置する場合。
天板を艶がある、つまり反射する素材にした場合、天板に庭の緑が映り込み、外の風景をインテリアの一部に取り込むことができます。

滋賀県坂本|旧竹林院
写真:ウェブサイト「そうだ、京都、行こう。」より


また、見る角度や光の当たり方によって、天板の素材そのものと写り込んだ像が重なって奥行きが生まれます。
こうした効果に対して人間は無意識に反応しているようです。

カラスがビー玉など光るものを集める習性があるように、人間もキラキラと輝くものが好きなのかもしれませんね。

スケールの操作

Photo by:BPconcierge


モノには標準的なサイズというものがあります。
「椅子」と聞けば誰もが思い浮かべる大きさがあるように。

上の写真で印象的なのは、通常のスケールから逸脱した大きな植木鉢。

思いつきで一つだけ大きな植木鉢をつくって配置しているのではなく、植木鉢の連続が空間を構成する壁になり、アーチ状に操作された樹木が天井になるというように、ネタで終わらすのではなく複数のインテリア要素を包含したオブジェクトになっているところが秀逸だと思います。

小さなものを大きく引き伸ばして配置するだけで、印象的な空間はすぐに作れてしまいます。

スケールを著しく逸脱させるという、簡単に使える方程式ですが、うまく使わないと大スベリしたお笑いのネタにになってしまうので、使う人にはかなりのスキルを求められると思います。

ですが、使い方によっては面白い効果を期待できるので、チャレンジしてみる価値はありますね。

薬は飲み過ぎると毒になる。


いかがでしたでしょうか。

お読みいただいた後で、街中のカフェやレストラン、服屋さんに行った時に、これらの方程式を思い浮かべてインテリアを観察してみてください。
きっと一つや二つ発見できるはずです。

この記事で挙げたインテリアを印象的にする方程式は、タネを知ってしまえば誰にでも明日から使えるものばかりです。

しかし、誰でも簡単に使えてしまうので、こればかりに頼りすぎると新鮮さのない、ありきたりなインテリアを作ってしまうことになるでしょう。
体に良いとされる薬でも、飲みすぎると毒になってしまうように。

方程式の原理がわからない以上、用法と用量は自分で見定めるしかありません。
日々自分の体と感覚を実験台にしながら、方程式をそのままなぞるのではなく、自分なりの変数𝒳を見つけた上で利用して、インテリアデザインに効く薬にしてもらえたらと思います。



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