AIの普及が建築・インテリアデザインの仕事にもたらすもの。そして未来はこうなる。
ついこの間、画像生成AIについての勉強会を主催しました。
これまで興味を持っていたので、関連記事を読んで技術の仕組みと生成方法の概要は理解していました。しかし、実際に使うとなると、情報があまりにも多くて、何から手をつければいいのかわからず手が止まってしまう。
そんな時に、Instagramのタイムラインに生成AIの画像が流れてきた。
見ると学校の先生をされている旧知の方のアカウントで、独学で生成AIを覚え使いこなしているように感じた。
できる人に聞いた方が早い!と思い、10年ぶりにもかからず、実務的なDMを送らせていただいたところ「いいですよ〜」と二つ返事をいただいた。
画像生成AIの話は、おそらく同業者も気になっているだろうと思い、近しい人たちに一緒に勉強会しませんか?と連絡をし、結果10名ほどのデザイナーが集まった。
少し前のことだが、「AIの普及でなくなる仕事◯◯選!」といった、煽り気味の記事をよく目にする時期があった。
また言ってるわ〜。と思いながらも、自分の仕事への影響は否が応でも頭をよぎってしまう。実際に避けては通れないのは自明だろう。
だから、その影響とやらを正面から見定めてみてやろう。
そういう意図もあった。
ことばをつかって簡単に絵を描く
プログラムの種類や、実際に使用しているプログラム、画像の生成方法、生成した画像の解説、生成された画像の著作権について、などを一通りレクチャーいただいた。
また、講師は建築系の専門学校の先生をされているので、生成AIを学生が使うことについてのあり方についても聞くことができた。
画像の生成方法は非常に簡単で驚いた。
どのような画像が欲しいか、短いテキストを入力するだけで高品質な画像がものの数十秒で得られる。
画像生成に重要なプロンプト(呪文)とChat GPTの蜜月な関係
画像を生成するために入力するテキストを「プロンプト」と言う。
例えば以下のようなテキストだ。
プロンプトは実際には英語で入力する。
単純に英訳したものを入力しても良いが、より良い結果を素早く出したかったら、プロンプトの書き方をチャットGPTに聞くのが早い。
上記プロンプトをチャットGPTに「画像生成AIでフォトリアルに表現するために、このテキストを最適なプロンプトにして」と伝えて返ってきたものがこちらです。
英語にしてくれるし、単純英訳では出てこない部分がたくさんある。
このテキストをコピーして、生成AIのプロンプトにして取り出したのが先の画像です。
この後は、部分的に気になるところとか、追加したいことなどを指示しながら欲しい画像を得られるまで生成すれば良い。
詳しい使い方は書籍に頼るのが早いですね。興味のある方は読んでみられたら良いと思う。※今回教えていただいたプログラムは「Midjourney」でした。
画像生成AIはスクラップブックに貼る雑誌の切り抜きの代替えに過ぎないのか?
やっぱり、思っていたより簡単だ。
なるほどデザイン教育への影響が大きいのもうなずける。
学校の課題で使用させるべきかどうか、先生の間で議論が出たようだが、未来を見据えると「使わない」選択肢はないだろうから、「どう使うべきか」の観点で試行錯誤しながら取り入れているとお聞きした。
このように、イメージするリアルな空間の画像は、AIを利用すればデザインのプロでなくても、それこそ僕の仕事のクライアントであるお店のオーナーでも容易に出力できる。
例えば、若者が好みそうな、韓国風のポップなカフェを作ろうと思うオーナーがいたとして、生成AIに「韓国の若者が好みそうなポップで可愛いカフェ空間。色数が多いイメージ。ネオン管の照明やサインがある。」と入力すれば、こんな画像が1発目から出てくる。
もうデザイナーはいらないのでは?と思わせるに十分なイメージ画像?スケッチ?パース?がものの5分足らずで手に入る。
この画像を工事会社に渡したら、そのまま形にしてくれるのでは?
と思われるかもしれないが、現時点ではそれは難しいだろう。なぜか。
改装の仕事であれば、元になる空間の物理的な制限があるし、各種法規への対応、何よりプラニング(主に平面計画/厨房で使う機器であるとか、実際に何席入るのか、トイレはどこだ?など)が全くできていないからだ。
あと、これは数日触ってみて感じたことだが、生成AIが出してくる空間の画像は、どれもそのままの雰囲気をリアルで再現しようとしたら、非常にコストがかかるものが多いように感じる。だからコスト調整も非常に大変になるだろう。(予算に上限がないなら話は別だが)
というように、現時点でのイメージの再現性について述べたが、これはあくまで「画像の通りに」はできないだけであって、空間全体の色味や使う素材や空気感は十分に他者に伝えることができる。
いうなれば、古くは雑誌の切り抜き、最近だとピンタレストで集める画像のように、つくりたい空間のイメージを集めるツールの延長上にある存在だ。
今までは「あー、イメージ通りの画像が見つからないな〜」と数時間もネットサーフィンをしていたところが、明確なイメージを持っていれば、より詳細に伝わりやすい画像を瞬時に手に入れられる、ということだ。
あぁ、よかった。
生成AIがどれだけ施主に利用されようが、クオリティが上がろうが、デザイナーの仕事はなくらないんだね。
・・・とはならない。
現在の仕事の各工程、未来はこのようになる。
今僕たち設計者がやっている各種仕事は、近い将来以下のような手法で代替えされていくと思う。
各項目上段には現在の手法を、下段の→以降に将来予測を記す。
法規チェックとボリューム検討
建物の形状や床面積について、関連する法律に合致した形状、面積の建物ボリュームを作る。
→
住所を入力すると、都市計画法、建築基準法、各種条例の情報を自動的に取得し、計算をして最大限の床面積を確保したボリュームを提示してくれる。
配置計画
土地の形状や周辺環境、気候や方角、整備されている各種インフラ状況(電気・水道・ガス・ネットワーク)を鑑みて、最適な建物配置を検討する。
→
GoogleMapのようなジオグラフィックデータを扱うサービスとインフラ会社が提供するようになるだろう情報を元に、AIが最適な配置案をいくらでも提案してくれる。
プランニング
クライアントが希望する過ごし方、空間のつながりまたは切断、必要な機能、などの条件を集約し、平面図で表現する。
→
前段2つの成果物データを入力し、プランニングに肝要だと思う内容をプロンプト入力、もしくは一部を直接描画し、AIに提案させる。
実施設計
これまでの工程で出来上がった資料をもとに、確認申請及び工事業者が工事を実施するための説明書としての図面を作成する。
→
これまでの工程で獲得したデータから、自動的に3Dデータとして立ち上がる。この3Dデータは建築的要素に分割・タグ付けされ、BIMデータに変換される。
確認申請
設計者が描いた複数枚の図面や計算データを人の目で確認し、不明点や不備を指摘し設計者に差し戻す。設計者は修正してまた戻す。
を繰り返し、適法になるまで繰り返す。
→
完成したBIMデータを提出すると、役所側は受領したBIMデータを法適合性診断プログラムに掛け、申請の適不適を判断する。
BIMデータができるまでの工程ではすでに法のチェックが含まれているため、基本的にこの段階で不適合となることはない。提出即日で判断ができる。
工事見積り
設計者が作成したCAD図面データ(旧来のやり方をしている会社さんなら、紙の図面を)を確認しながら、主に数値と仕様を手動で拾い出し、各種工事を担当する下請け会社に提示し、見積りを取得する。
→
提供されるBIMデータにより、数量や材料単価がすでに明らかなので、あとは動く人の人工代を加え、会社の経費を乗せるだけで見積りが完成する。
旧来の方法では、見積りが出た後の金額調整に多くの時間が割かれるが(デザインの変更も伴うため)未来の手法だとBIMデータができた時点で精度の高い金額が出るため、工事見積りの段階で大きな差が出ることがない。
工事
工事の話では、未来の想像はすでに実現されているのでそれを記す。
そのさらに先の未来の想像は自動機械が建物をつくるようなSF世界の話になると思う。
大企業の仕事で大手組織設計事務所とゼネコンがタッグを組んでいる現場では、設計者が作ったBIMデータは工事担当と共有されており、すべての設計情報がそこに集約されているため、原則不明点はない。
それゆえ迅速な工事計画が可能になるし、材料の手配に無駄がなくなる。
時間が節約されるし、破棄する材料も減り環境負荷が下がる。
工事が進んでいる最中にありがちな、設備ダクトや配管類と意匠的な造作の干渉もなくなる。
よって、設計者も施工者も、今現在感じている多くのストレスから解放される。(それは素晴らしい!)
デザイナーという職業を将来もやっていますか?
いかがだったでしょうか?
こういった未来が来ることはもう容易に想像できる。
工事の部分ではすでにデータによる超効率化の世界が実現しつつあるので、設計から工事全体の工程が想像通りになるのに、そう時間はかからないだろう。
建築家や空間デザイナー、インテリアデザイナーの仕事は将来、この一連の流れを制御する「オペレーター」のようなものになるのではないだろうか。
来年の今頃には、といったスピード感ではなさそうだが、ムーアの法則よろしく指数的に発展しないとも限らない。
まぁ当面の間は、自動運転を補佐するために寝ずにきちんと覚醒していて、ハンドルに手を置いておく、みたいな役割が続くだろう。
今日、このnoteで想像した未来が実現したとしたら、自分はどうするだろうか。オペレーターとしての役割を楽しく全うできるなら、それもありかもしれない。
でもやはり、古い人間らしく「自分の目と手と頭でデザインしたい」と頑固さを発揮し、絶滅危惧種くらいの立ち位置にいるかもしれない。
人間はないものねだりをする生き物なので、AIで仕事が自動化した世界では、人の手仕事による設計は、とても価値あるものになっていて重宝されている可能性もあるだろう。
それと、これも言っておきたい。
「かっこいいインテリアを生成して」というように、入力と出力が同質になるプロンプトしか使えない人は、データの蓄積によって均質化したもの、あるいは多くの人が求めるポピュラーなものしか生成できない。(それで十分だ、というニーズの方がもちろん多いだろうけど)
新しい観点やアイデアを宿した空間をつくるのは割とむずかしいのだ。
反対に、デザイナーの職能を発揮する思考力を使えば、生成AIを利用しても「平均」や「均質」から逃れたクリエイティブな出力をすることができるはずだ。
例えば三角形のスケッチを提示して、「これは建物の形です」「これは照明器具です」と視点を変えて出力してみる。といったことだ。
思考の振れ幅をもたせて、半ば無意識の領域でAIを道具的に使えたら、今まで見たことのない表現を獲得できるだろう。
このような楽しみ方ができるなら、AIが幅を利かせた未来でも、デザイナーとして食べていくこともできるかもしれない。(全くできないかもしれない)
何年経ったらこの答え合わせができるかはわからないが、そう遠くないだろう。だからその時までブログをなんとか続けて、この記事を振り返っての答え合わせを楽しみにしておこう。