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工程表のつくり方【前編】|建築士・インテリアデザイナーのプロジェクト管理の基本

建築やインテリアデザインを実践する新人さん向けの記事です。

実践的なところだけ書こうと思ってキーボードを叩きはじめましたが、その前段の話がわりと重要と感じ、かつ長くなってきたので、2回に分けて投稿することにします。今日は前編です。

工程表のつくり方って誰に教わるの?


プロジェクト管理において重要な工程表のつくり方は、早い時期に新人さんに教える必要があるので記事にしよう!と息巻いておりますが、ふと思いました。

工程表のつくり方って誰が教えてくれるんでしょうか?

僕は4年制大学の建築学科卒ですが、施工関連の授業で用語や方法論を教わった覚えはあります。

でも「ではつくってみましょう」と実践する授業はありませんでした。

また、学んだのはあくまで「工事の工程」にスコープを当てた内容なので、デザイナーになりたい自分にはあまり関係ないと思っていました。

しかし実際には、設計スケジュールや許認可、クライアントの動きといったプロジェクト全体のスケジュールをまとめて可視化する必要性は非常に高く、それを把握するべき人物は他でもないデザイナー本人だったりします。

では、就職したアトリエ系事務所で、所長や先輩からプロジェクトの工程表のつくり方を教わったか?と聞かれたら答えはNO。

大きな組織事務所などでは研修で教えてもらえるのだと推測しますが、自分はそういう環境になかったので、先輩がつくった、今思えば簡素なスケジュール表をみながら色々調べて我流でつくった記憶があります。

なので、自分と同じような環境に身を置く新人デザイナーに向けて、我流ではありますが、それなりに有用な(だと思っている)工程表のつくり方を解説していきます。

誰がつくるべきなのか。


プロジェクトの工程表は誰がつくるべきか。

明確な正解はないと思いますが、僕は設計を担当するデザイナー、もしくはその道のプロがつくるべきだと考えています。
その理由を述べます。

クライアントが提示するスケジュールが正しいとは限らない。


工程表は誰がつくるの?
新人さんなら思うはず。クライアントがつくるのでは?と。

確かにクライアントは施設のオープン日を指定するので、無垢な若者は「了解しました!その日までに工事が終わるようにしたらいいんですねっ!」
と真正面から捉えて急ぎデザインに取り掛かることでしょう。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

クライアントが言うオープン日とは、あくまで「希望日」であり、担当者あるいは上司が経験値から推測した「これくらいでできるんじゃね?」といった日程が提示されていることがほとんどです。

もちろん、経験値が高いプロジェクトリーダーが詳細にスケジュールをハンドリングしてくれることもありますし、チェーン店のように同じ条件の建物を何棟も建てているクライアントのそれは正確で、問題ない場合もあります。

しかし、新しい業態にチャレンジする、これまで出店したことのない地域に進出する、あるいはデザイナー側が今までにない挑戦を提案する、といったな不確定要素が多いプロジェクトの場合は、クライアントであってもスケジュールを正確に推測することは困難であることが多いです。

クライアントにはスケジュールを正確に策定できない理由がある。


工程表はデザイナーかその道のプロが作成するべきだと言ったのには、この問題があるからです。

スケジュールを正確に推測するには、プロジェクトに登場する人物や組織と、その人たちが行う作業にかかる時間を知る必要があります。

しかし、これら人物や組織と直接的に関わる、あるいは関係が近いのは、ほとんどの場合設計を担当するデザイナーになります。

たとえば建物の構造を設計する人、家具を製作する人、工事業者、お店のロゴや看板のデザインをする人、営業許可を出す行政機関などです。

このような人や組織とのやりとりの窓口をクライアントに任せるのは現実的ではありません。仮に任せるとなると、デザイナーはクライアントとその人・組織との間に挟まれて事後的にスケジュールを知ることになり、工程を自分でハンドリングすることが全くできなくなってしまいます。

そんな状況に自らをおきたいでしょうか?
人によるかもしれませんが、僕は嫌です。

これがデザイナー自身がプロジェクトの工程表をつくるべきだと考える理由です。

工程表はデザイナーもしくはその道のプロがつくる。


あらためて書いてみましたが、クライアント側もほとんどの場合はデザイナー側に全体工程を質問してこられますし、デザイナーも自分で段取りしなければと思っているはずです。

しかし、実際にプロジェクトがはじまると、全体工程表がないままに進むことがある。

これはおそらく、デザイナー側が工程を考えたりするプロジェクトマネジメントを学ぶ機会がないこと、そして誰が工程表をつくるのかという明確な決まり事がないためだと思います。

プロジェクトの成否を決める重要な要素なのに、こんな状態では宜しくないですね。

後編ではデザイナーが工程表をつくる実際的な方法を提示し、その記事を残すことで、読んでくれたデザイナーの卵たちが、あちこちで発生するスケジュールの問題を回避してくれるようにしたいと思います。

最後に、ここまでで何度か登場した、工程表をつくる「その道のプロ」について触れておきます。

プロジェクトマネジメントの専門家が存在する

デザイナーは工程表をつくる方法を学んでいないと言いました。

工程表をつくれない大きな要因に違いありませんが、一方で「できれば工程管理などは人に任せて、デザインに集中したいんだ」という意識がはたらいていることは想像に難くありません。かくいう僕もできることならデザインだけやっていたいと思うタイプです。

だれかやってくれないかなぁ。。

実はできる人がいます。
それがプロジェクトマネジメントの専門家、仕事の上ではPM(ピーエム)と呼ばれる職種の人たちです。

ただ、PMが参画するようなプロジェクトには、僕が経営するような小さなデザイン事務所ではなかなかお目にかかることができません。
独立してからの18年間でPMが入ったプロジェクトは、たったの2つでした。

予算が大きくない、あるいは単発かつ工期が短いプロジェクトではPMに参画してもらうメリットが少なく、採用されないのでしょう。

PMに参画してもらうということは、設計料や工事費、家具代金などに加えて彼らの業務フィーがかかってくるからです。

事例が少なくベンチマークにならないと思いますが、弊社プロジェクトでPMが参画したたった2つのプロジェクトの一つは、予算が5億円かつ数年がかりの大きなプロジェクトで、もう一つは短期間の間に7箇所、各所5000万円超の予算の施設を同時に竣工させる、外資系企業がクライアントのものでした。

また、日本に限ってのことなのかは調べていないのでわかりませんが、建築プロジェクトに明るいPMという専門家は少なそうだし、プロジェクトにPMを雇い入れる文化が浸透しているようには感じないので、このあたりも理由のひとつになっているのではないかと思います。

会社規模がある程度大きくできたなら、専属のPMを雇い入れて、手がける全プロジェクトのマネージメントをして欲しいと思いますが、それはまた夢の中の夢だなぁ、、と思う今日この頃です。


少し脱線しましたが、後編では工程表のつくり方を解説したいと思います。
それではまた。

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笹岡 周平 |空間デザイナー/株式会社ワサビ 代表取締役
建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。