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デザイナーの「役割」は依頼主の抱える問題によって変化する。

「デザイナー」という肩書きの人間は、どのような業務が得意だと思いますか?

一般的に想像される「課題に対して、最適なカタチを提案すること」という業務の比重はもちろん高いのですが、それ以外にも様々あります。

それはタイトルの通り、依頼主が抱える問題によって七変化するのです。

どんな場合に変化するのか?
過去の事例を元にお話しさせていただきます。


リニューアル前/朝食会場になっていた大広間


温泉宿のリニューアルのご依頼

知人の紹介があり、兵庫県の城崎温泉にある旅館へ視察に行きました。

対象となるのは中価格帯のお宿で、古くなった客室を現代的なデザインにして欲しいという依頼内容でした。

一歩踏み込んだ議論

要望や予算、現地の状態を鑑みても、問題のない、むしろやりやすい仕事でしたが、話の鱗片からこの改装が経営的に良いのかどうかを迷われているように感じました。

そこで少し踏み込んで、経営戦略の話をお聞きしたところ、様々な問題があることがわかりました。

それは「シーズンビジネスゆえに季節労働者に運営を頼っているが、年々働き手が減っていること」
「運営規模と客室数のバランスが悪く、稼働させていない客室があること」といった主に人手不足と、それに起因するサービスの質の話でした。

アイデアの元になった「街」のコンセプト

他にも色々とありましたが、一部は空間デザインで解決できるのではないかと感じました。なぜなら、クライアントからお聞きしたこんな話があったからです。

この街には「駅は玄関、道路は廊下、七つある外湯が風呂で、旅館は寝るところ」という、街全体で訪問客をもてなそうというコンセプトがある。

空間デザインで解決できる問題


ここまでの話を持ち帰り、どのような提案をすべきか非常に悩みました。

なぜなら、まず頭をよぎることが、本来の依頼内容とは離れ、かつ事業内容に踏み込むような提案だったからです。

例えばそれは「既存の部屋を半分に分割し、一室あたりの定員を減らした「素泊まり」のドミトリーにする。(部屋数が増える)

既存客室を2つに分割したところ


「改装しない部屋も含め、部屋食を取りやめ、ダイニングをつくる」といったものでした。

新たに設置したダイニングスペース



このような考えは、本来デザイナーが口を出すべきところではないと思いますが、せっかく空間を再編集するならば、収益面を考えても良くなる可能性があると思ったのです。

これが実現すれば、ゲストの食事中の時間ピンポイントで布団を敷く手間もなくなり、客室までの長距離を食事を運ぶこともなくなるので、手間がなくなり、人手が余ります。

それが実現するなら、マンパワーの余剰分を他のサービス向上に充てれば、もっと顧客満足度を上げられるのではないかと思いました。

また、改装した時期はインバウンドが増えている時期であり、もともと学生の旅行先としても人気だったため、手軽にちょうど良いサービスが受けられる宿があれば人気が出るのではないかと考えたのです。

ドミトリーA-type/奥が小上がり寝室のパターン


デザイナーを「使い倒して」欲しい

最後に私はこの案で、街のコンセプトをひとつ増やしました。

それは「街に点在する食事処をみんなの食堂ととらえる」ということ。

食堂以外の機能が街に飛び出しているのだから、食堂も同じ考えで良いのではと。そうすると、素泊まりの宿にも楽しみ方が増えると考えたのです。

後日、恐る恐るこの案を提示したところ、最初は驚いた面持ちのクライアントも、次第に乗り気になってくださり、この後はもちろん活発な対話がありましたが、最終的にこの案で改装をすることになりました。


宴会場&朝食会場であった松の絵が描かれたステージも不要になった。
→客室として部屋数を増やし、往年の名残を見せる。




空間デザイナーはその肩書きの響きから、設計だけを専門としていると思われています。

しかし、様々な業種のクライアントとの仕事を経験し、空間のアイデアについては当然のように日常的にリサーチを行なっています。

ですから、経営コンサルタントとまではいきませんが、空間を活用した新しいサービスの開発に関するアイデアを出すことは得意だと思います。

「デザイナーの仕事はこれだから」というような固定概念を取り払って、大きな期待をしていただければ、おだてられて木に登るなんとやら、と同じくらいのテンションで、お題を全力で解決するべく、ひた走ってくれると思います。

是非、デザイナーを使い倒してください。

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笹岡 周平 |空間デザイナー/株式会社ワサビ 代表取締役
建築・インテリアなど空間デザインに関わる人へ有用な記事を提供できるように努めます。特に小さな組織やそういった組織に飛び込む新社会人の役に立ちたいと思っております。 この活動に共感いただける方にサポートいただけますと、とても嬉しいです。